出席簿#13「生徒の思い、はがきに込めて」
【月曜更新】「おしゃべりな出席簿」
6月17日、月曜日。
真夏日が続いた週末でしたね。みなさまはどのように過ごされましたか?私は、隠岐神社の御創建八十五周年イベントに合わせて、かつて住んでいた海士町に行っていました。ご存じの方も多いと思うのですが、当地は承久の乱ののち、後鳥羽院が配流となった地。隠岐神社は、後鳥羽院をお祀りする神社です。和歌を愛された後鳥羽院は、新古今和歌集の編纂をお命じになったことでも有名ですが、配流ののちも島の風景やその中でのご自身の心の動きを歌に詠まれ続けました。それらの和歌は、いまでも「遠島御百首」として、海士町のみなさまには親しまれています。
私は幼少期から詩吟をしているのですが、縁あって今は海士町の詩吟愛好会「隠岐國縁吟会」に吟詠のお稽古をつけています。というのも、隠岐で勤務していたときに、「後鳥羽院の和歌を詩吟で楽しむワークショップをしてみないか」と声をかけていただき……もう10年近く前のことになるのですが、今でも10名程度の会員さんがお稽古を楽しみにしてくださるので、毎月フェリーに乗って海士町を訪れています。
そんなわけで、隠岐神社での御創建八十五周年記念事業の音楽祭において、会員さんと一緒に後鳥羽院の和歌を吟詠で披露してきました。実は島民劇の脚本も担当しており、その中で里人の一人として後鳥羽院の和歌を歌い上げる、という展開でした。詳しくはこちらのnoteにまとめてありましたので、併せてお読みいただけると嬉しいです。
https://ama-town.note.jp/n/nb9ac0dab3e09
この後鳥羽院の遠島御百首って、島の情景と島民の生活がありありと詠みこまれていて、本当に心に迫るものがあるんです。またどこかの機会にあらためてご紹介できれば、と思っています。
さて、前置きが長くなりましたが、今回のお話も、前回に引き続き、隠岐で勤務していたころの思い出です。年度があらたまってしばらくしたころ、教室に一枚のはがきが届きました。前年度、一緒にクラスを受け持った「副担任くん」からの挨拶状。それを見た生徒たちは……?
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「生徒の思い、はがきに込めて」
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「メッセージが届いています」。配布物がある朝終礼では、「誰からでしょう」、いつも生徒に投げかける。「保健の先生だよ、健康診断前だもん」、「進路だより」、「校長先生だ」教室を憶測が飛び交う。
でも、その日は、なかなか当たらない。それもそのはず。届いたのは、一葉のはがき。「3年2組の皆さんへ」と読み始めると、「わかった、〇〇先生」。
それは、異動した「もと副担」くんからの挨拶状だった。余白に手書きで、「個性豊かすぎるみんなと過ごせて楽しかった」「お返しはまだ間に合いますよ」。お菓子作りが得意で、バレンタインには腕を振るってくれたっけ。ユーモアに満ちた文面が、一年前の思い出を呼び起こす。クラスが温かいどよめきに包まれた。
それからというもの、「はい、メッセージ、誰でしょう」と振れば、合い言葉のように「〇〇先生」。いやいや、挨拶状は一回きりでしょ。はいはい、配りますよ。軽くあしらっているうちに、「先生もはがきを隣に貼ってください」と、一人の生徒が掲示板を指さした。その先には、くだんの挨拶状。ちょっと考えて、あ、そうか。その日の放課後、クローバーが描かれたポストカードを用意した。みんなで“お返事”を書こう。
翌日の朝礼でアナウンス、「一週間後に、投函ね」。ちゃんと埋まるか、ちょっと心配。でもここは、我慢我慢。
掃除の時間に視線を向けると、カードには丸っこく飾られた文字が並んでいた。“〇〇先生へ”そしてなんだかかわいい似顔絵。ほっと胸をなで下ろす。書き込みは毎日少しずつ増えていった。“ようやく進路が見えてきました”、“またお菓子お願いします”。他の子への配慮か、みんな、小さな文字で書く。いつしか掲示板には本物のクローバーまで貼ってあった。“今度会うときには△△山、自力で登れるように体力つけます”と書いた子は遠足でへばっちゃったところを引っ張ってもらってたっけ。メッセージは、表面にも及んで、「出来ました。宛名と先生もメッセージを」、生徒が持ってきたときには、わずかな余白を残すのみ。“相変わらずのこのクラスです”、生徒と同じように目を細めながら小さく書き添えた。
”あのころ”の思い出と、”いま”の姿、たくさんの声とシルエットが、一枚のカードに折り重なっている。もと副担くん、元気かな。届いたら、どんな顔をするだろう。小さな文字たちをすかして、島の様子が見えるだろうか。
(2017/05/31 朝日新聞島根版掲載)
作品に寄せて
これも業界用語(?)だと思うのですが、正担任・副担任コンビのことを「あいたん」ということがあります。書き文字で目にしたことはありませんが、おそらく……漢字では「相棒」の「あい」と「担任」の「たん」かな……?
これまでいろいろな「あいたん」先生にお世話になってきました。整理整頓が得意な先生、お菓子作りが得意な先生……、そんなこと絶対校内人事に影響していないはずなのに、不思議と私の苦手分野が得意な先生が相棒になったりするんですよね(笑)商業高校で担任をした時には商業化の先生が副担としてクラス単位での販売実習などをリードしてくれてとても心強かったこともよく覚えています。
そんなこんなで、副担任の先生に感謝したエピソードはいくらでも出てくるのですが、やっぱり生徒たちも副担任の先生って身近に感じているようで……。このエッセイに登場した「ポストカード」は、本当に表面に至るまで、小さな文字のメッセージがところ狭しと書き込まれ、それがとても微笑ましかったんですよね。それぞれに特徴のある手書きの文字から、一人一人の顔が思い起こせる、そういうところにも、寄せ書きの温かみってあるように思います。
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