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創作童話 ふよ と ほよ ーちいさな くらげ の ものがたりー

ふよ と ほよ

くらげたちは、いつもあたたかい海をただよっています。

プカリと海の上にあたまをだせば、とりたちのおしゃべりがきこえるし、海のそこをさんぽすれば、きれいなさんごの森であそぶこともできます。

くらげのふよは、波にまかせていろいろなところに行くのが好きでした。あたらしいことを知るのが好きでした。

でも、見つけたことをいっしょうけんめい話そうとしても、なかなかおしゃべりができません。

「ねえ、今日さんごの森で魚のあかちゃんが生まれたよ。」
「それ、前に見たことあるよ。」
「とりさんたちがとんでいく先には、みどり色の森があるんだって。」
「あとで聞かせて、今いそがしいの。」

いちばんちいさなふよといっしょに、ゆっくりおしゃべりしてくれるくらげはいませんでした。ふよはぷくっとため息をつきました。ため息あぶくがちいさくゆれて、ぱちんとはじけました。

ある日、入り江の近くをたんけんしていたふよは、あたらしいなかまを見つけました。その子は、ふよと同じように、すきとおったからだをしていました。でも、ふよとはちょっとちがったあしをしていました。そのあしはきらきらとかがやいていました。まるでお星さまの光のようでした。

「ねえ、きみ、どこからきたの?」

ふよが話しかけると、そのビニールがさは波のあいだをゆらゆらし、あしがきらきらと光りました。ふよには、そのかがやきが、おへんじのように思えました。

ふよはうれしくなりました。

「ねえ、あっちの海にいったことある?」
「……。」

見ると、かさのあしは石と石とのあいだにはさまっています。

「そうか、きみはあんまりおさんぽしないんだね。ぼくが見てきたもの、いっぱいあるんだ。きいてくれる?」

かさはもう一度ゆらりとあたまをふりました。


それからふよは毎日、かさのところへ通うようになりました。
かさはいつでも待っていてくれました。
そして、ふよのおしゃべりをきいてくれました。
ふよはとってもしあわせでした。

「ねえ、ぼくね、きみのこと大好きだよ。ゆっくりお話をきいてくれるとこでしょ。あと、すきとおったからだも、きらきらしたあしも……。」

ふよはたいせつなお友だちができたのが、うれしくて、もっともっとなかよくなりたくて、かさのあしをなでながら、ひとことずつ、ゆっくりと話しました。

「そうだ、きみのこと、これからなんてよぼうかな。“おほしさま”みたいだから、ほよ、はどう?」

かさは少し笑ったようでした。

ふよは、ほよと家族になったようなきぶんがして、おなかがあたたかくなりました。

ふよは毎日ほよと遊びました。
たくさんのおしゃべりをしました。
ほよといると、あたたかい海がいっそうきもちよく感じられました。
ほよにお話しようと思えば、海のたんけんがいっそう楽しくなりました。

ところが、ある日、ふよはおかしなことに気づきました。ほよのあしにぷつぷつができています。きらきらが少なくなって、ところどころ茶色になっています。

「ほよ、どうしたの?」

ほよは、なにも答えません。

「ほよ、びょうきなの?」

たぶん、ほよにもわからないのです。

ふよはほよのあしをさすってみました。

でも、次の日も、その次の日も、ぷつぷつはなおりません。
それどころか、ちょっと広がっているようでした。

ふよはしんぱいで、しんぱいで、貝がらをこすっておくすりをつくり、ほよのあしにぬりました。おくすりにふよのなみだがまざりました。

その夜、ふよは、ねつけませんでした。

波の流れがいつもより速い気がして、それがまたふよをふあんにさせました。その流れはだんだん速く、強くなって……

「あらしだ!」

ふよの近くでねいきを立てていたお父さんがとびおきました。
ふよはおどろいて、その顔を見ました。

「ふよ、これは大きくなるぞ。でもお父さんといっしょにいればだいじょうぶだからな。」
「たいへん、ぼく、お友だちがいるの。おしえてあげなきゃ。」
「ふよ、なかまはみんなここにいるよ。しんぱいしないでここにいなさい。」
「そうじゃないの、ほよが一人でいるの。」
でかけようとするふよのからだをお父さんが後ろからだきかかえました。
「ふよ、ここにいるんだ!」
「やだ!はなして!おしえてあげなきゃ!ほよのところに行かなきゃ!」

ふよは、その夜、どこにも行けませんでした。
海はまっくろでした。しおの流れが、ふよのちいさなからだを、ぎゅうぎゅうと、おしてきました。
ふよは、お父さんのからだにつつまれて、泣いて泣いて、まっくらな夜を過ごしました。
いつのまにか、少しねむっていたようです。気がついたらおだやかなお日さまの光が見えました。

 ふよが目をさましているのに気づいて、お父さんがあしをゆるめました。

「おでかけしてもいい?」

お父さんはこまったようにうなずきました。
ふよはゆっくりゆっくり波にゆられてほよがいたところを目ざしました。

もう、そこにはだれも、いませんでした。

おうちではお父さんが待っていました。ふよはそのかおを見てぽつりと言いました。
「ねえ、お父さん。本当にお友だちはいたんだよ。」
 でも、いなくなっちゃった、そう言おうとすると、のどのおくがぎゅっとつまって、なみだがこぼれそうになりました。
 すると、お父さんが言いました。
「そうだね、きっとすてきな友だちなんだろう。」
ふよはびっくりしました。
「お父さん、しんじる?」
「しんじるさ。」

それからお父さんは言いました。

「そうだ、その子はきらきらしたあしをもっているんじゃないのかい。」

ふよはもういちどびっくりして、お父さんの目をみつめました。

「お前のかおを見れば、話したいことがたくさん伝わってくるよ。お前の目のおくに、お星さまみたいな光が見えたんだ。お星さまみたいにきらきらした友だちなんだね。」

ふよは、泣きたいような、笑いたいような、ふしぎな気もちになって、こくりとうなずきました。
「だいじょうぶ、その友だちも、きっとどこかにひなんして、あらしがとおりすぎるのをまっていたんだよ。」
お父さんのことばが、とても力強く聞こえて、ふよはちょっとだけ、えがおになりました。

次の日から、ふよは前のようにたんけんをしては、なかまにおしゃべりをするようになりました。

ゆっくりと、目のおくを見つめてお話すると、たくさんのおしゃべりはできなくても、前よりも伝わっている気がしました。

「ねえ、この前、さんごの森の向こうにどうくつを見つけたの。」
「それ、おれも行ってみた。わくわくするよな。中には貝がらがいっぱいあるよ。」
「そうなの?じゃあ今度はいっしょに中まで行ってくれる?」

ふよの友だちは少しずつふえていきました。

空のきれいな夜、ふよは一人でおさんぽに出かけました。お星さまがきらきらしていました。ほよのことを思い出して、ぽっかりと海の上にあたまを出すと・・・・・・

「ほよ!」

いわばの上に、ほよのすがたが見えました。ほよは、星の光にきらめいていました。もう、あしのぷつぷつは広がってはいませんでした。

「ほよは海の中よりこっちのほうがきらきらしてるね。さびしいけど、でも、うれしい。ぼくね、お友だちができたんだ。ときどきは、ここに話しに来てもいい?ぼくがお友だちと、どんなふうにすごしているか。」

ほよが光を返すのを見とどけて、ふよはおうちにかえることにしました。

そして、さいごにもういちどふり返って言いました。

「いまでもほよがいちばんのお友だちだよ。」

               おしまい

作品に寄せて

noteに創作童話を載せるのは初めてですが、いかがだったでしょうか?私は小さい頃から、なぜだか海が好きな子どもでした。いろいろな顔を見せてくれる海ですが、静かさを感じさせる青緑色や、寒々とした灰がかった色合いが特に好き。ずっと眺めているうちに、海の物語を書いてみたくなったのでした。くらげたちの世界の物語。このあとも何作か童話を書いているのですが、この話には特に思い入れがあり、というのも、後日、生徒が絵を描いて紙芝居にしてくれたんです。「夢ゼミ」という取り組みで、自分の将来やりたいことや夢について深めていった彼女は、自分のイラストを発信するとともに、「人に喜んでもらえる絵を描きたい。イラストで人の思いをかたちにしたい。」という自分の夢をも紙芝居にして発表していました。見守りながら胸が熱くなったのを覚えています。その後、彼女はデザイン系の学校に進み、奨学生として充実の学びを重ねました。

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