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出席簿#35「『おかえり』温かい挨拶」

【月曜更新】「おしゃべりな出席簿」

11月18日、月曜日。今日から一段と寒くなりました。皆さまお元気でしょうか?私は11月16日に海士町産業文化祭に出演し、そのまま隠岐に滞在しています。数ヶ月にわたり準備をしてきた舞台がなんとか無事に終わりましたー!

これまでにやったことがないほど大人数で、照明や音響にも凝った大舞台。源義経の生涯をテーマに、海士町の詩吟愛好会「隠岐國縁吟会」のみなさんと一緒に衣装を整えたり、お芝居パートの練習をしたり。

アクシデントもありましたが、なんとか舞台の形になり、多くの方に楽しんでいただくことができてホッとしています。

さて、月木に更新しているnoteですが、月曜日には拙著『おしゃべりな出席簿』お試し版として、連載当時の作品とそれに寄せて今の思いなどを気ままに綴っています。今回ご紹介するのは、この隠岐郡海士町にある高校で勤務していたときのこと。勤務歴が長くなり顔見知りが増えてくると、フェリーから降りて島に戻ったときに、みんな「おかえり」って言ってくれるんです。それがなんだかとても嬉しかったな、と思い出しました。今回もたくさんの「おかえり」に触れた隠岐旅行。皆さまにこの島の方々の挨拶の暖かさをお伝えできたら嬉しいです。

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学校の「今」を島根の現役教員が綴ったコラム集、『おしゃべりな出席簿』5分間だけ、高校生活をのぞいてみませんか?

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定期的に沸き起こる席替えコール、学食バイキングでの温かい交流、総体出場メンバー選抜前のギスギス感。センター試験前にフェリー欠航の危機!?緊急事態宣言、そのとき島根では……?誰もが懐かしめる学生時代の思い出も、島根ならではエピソードも詰まった一冊です。

「『おかえり』温かい挨拶」

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「長らくのご乗船おつかれさまでした」。アナウンスを合図に荷物をまとめる。研修資料がずしりと肩にかかってくる。出張明け、久しぶりの学校だった。朝一番のフェリーで戻ると5時間目には滑り込める。乗降口で順番待ちをしながら、学校に戻ってからの算段をする。13時に昇降口前集合と聞いていた。

その日の午後は地域貢献デーだった。3年生による地域への恩返し、8班に分かれて2つの島に散らばる。私たちは養護高齢者施設の訪問と聞いていたけれど……。 

「干し柿作るらしいっすよ」。同行する同僚さんから出た言葉に気分が浮き立つ。昇降口で点呼をし、みんなで船に乗り込んだ。

施設に着くと、テーブルごとに作業出来るよう準備が整っていた。名札を作って自己紹介をし、柿を分配する。協力しながら柿をむいて、一つ一つ結んでいった。それが終わるとティータイム。みんなでお茶を飲みながら民謡に合わせて手をたたいたり踊ったり。

「卒業したら、どうするの」不意に隣のテーブルでの会話が耳に飛び込んできた。3年生ばかりということで、ついさっきまでこっちでも進路の話をしていたところだった。「まだこれからだけど、看護系で」とか、「大学に行くから、4月から島を出ないと」とか。でも、隣から聞こえたのは、「戻ってきます」。どうやら、もっと先の話題みたい。福祉系の進学を志している男の子の声だった。いったんは旅立つけど、やっぱり島で働くんだね。彼の決意表明に歓声が上がった。

半日はあっという間だった。名残惜しさを感じながら船に乗る。港で他の班とも合流して、あとは学校まで、みんなでゆっくり歩いて帰ろう。と、一人の女子生徒が駆け寄ってきた。「先生、おかえりなさい」。一瞬、きょとんとしちゃったけど、「ありがとう、ただいま」。そういえば、出張から帰ると、誰かが必ず「おかえりなさい」と声をかけてくれる。3年生には島の子も、そうでない子もいるけど、この島で過ごした月日は、みんなを島の一員にしてくれたみたい。

「戻ってきます」の彼も、「おかえりなさい」の彼女も、まもなくいったんは旅立ちだ。でも、みんなの心に帰る場所としてこの島があるって、なんだか温かい。彼らが「おかえりなさい」の言葉のシャワーを浴びる日、それはまだまだ先だけど……。みんなどのような成長を遂げて、この島に戻ってくるのだろうか。

(2017/11/29 朝日新聞島根版掲載)

作品に寄せて

「おかえり」という温かい挨拶、シャワーのようにたくさん浴び、島の外で働くようになってからも、詩吟のお稽古のため、月に1回通っている私がいます。

海士町にはIターンの方もたくさんいるのですが、みんなこうしたシャワーの中で、「島の人」になりたいと思い、そしてなっていくのかもしれません。

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