出席簿#36「やっぱり生徒はよく見てる」
【月曜更新】「おしゃべりな出席簿」
11月25日、月曜日。皆さま週末はいかがお過ごしでしたか?私は、念願のTHE ALFEEの秋ツアー、福岡公演に行っていました。
THE ALFEEは今年デビュー50周年。ギネス級に息長いバンドなので世代によって「THE ALFEEと言えば……」の曲も違うのではないかと思うのですが、言わずと知れた2曲はさておき、私の世代で印象深いのは、モンタナジョーンズの主題歌とサラリーマン金太郎、そしてショムニ。
かつて自分を奮い立たせてくれた曲は、やはり今も変わらず背中を押してくれるような思いがします。社会人になったばかりの新米教員のころは、走って転んで顔面をすりむくようなことばかり繰り返す、不器用な私でした(今もたいして変わりませんが)。泣きたいときは運転しながら「希望の橋」を何度も聴いていたと、ふと思い出しました。
さて、月木に更新しているnoteですが、月曜日には拙著『おしゃべりな出席簿』お試し版として、連載当時の作品とそれに寄せて今の思いなどを気ままに綴っています。今回ご紹介するのは、そんな失敗ばかりの新米時代に書いた掌編です。
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定期的に沸き起こる席替えコール、学食バイキングでの温かい交流、総体出場メンバー選抜前のギスギス感。センター試験前にフェリー欠航の危機!?緊急事態宣言、そのとき島根では……?誰もが懐かしめる学生時代の思い出も、島根ならではエピソードも詰まった一冊です。
「やっぱり生徒はよく見てる」
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「直子~!」と遠くで手を振るのは、今担任している女子。「先生をつけなさい」なんていえなくて、どうしたものかなあと自問自答。
初めて担任をした年、泣きじゃくる生徒から言われた。「先生、嫌い!大嫌い!」悲しかった。仕事をしていると、苦しいことも悲しいことも、それなりにある。打たれ弱い私は、そのたびにお腹が痛くなったり、不覚にも泣いてしまったり。涙が出るのはいつも、生徒との距離感を見失ったときだ。思っていたほど心を開いてなかったんだなあ、とか、悩みに気づいてあげられてなかったんだなあとか。
ときどき名前で呼ばれて抱くもやもやも、この気持ちに似ている。自分の感じている距離感と、あっちが示してくる距離感との差。
仕事が立て込んでいた先週は、余裕のかけらもない日々を過ごしてしまった。余裕がないと優しくなれない。そして自己嫌悪からまた距離の取り方に神経をとがらせる。
なんだかうまくいっていない、そんな思いを抱えて下校時刻をとうにすぎた教室に行き、プリントの整理をしようと教卓の中をのぞき込む。すると目に飛び込んだのは、「直子先生 がんばって!!」の文字。プリントの裏に大きな朱色の文字が並んでいる。終礼時にはなかったはずの赤鉛筆が、自己主張をするかのように教卓の上に転がっていた。
「先生」の文字が心なしか斜め。あとから付け加えたんだ、とおもったら可笑しくなった。生徒は意外とこちらの様子を見ている。大切なときは、伝えたいことがきちんと伝わるように、一生懸命言葉を探してくれていた。生徒に心配をかけた未熟さは反省しないといけないけれど、その夜は嬉しくて涙。
そういえば、「嫌い」っていったあの子、下校時間も迫るころ、走ってやってきてこういった。「ごめんね。先生が泣いてるんじゃないかって思った」。やっぱり生徒はよく見てる。
(2011/11/23 朝日新聞島根版掲載)
作品に寄せて
若葉マークをつけていた頃の思い出でした。
関わる人たち全員に好かれるなんてできそうもないけれど、生徒からの「嫌い」、これはこたえます。若いときの方がこういう直球を受けがちだったかも。今なら「『嫌い』ってぶつけられるくらいには安心・安全な場所になることができてきたのかな」と捉えたりするかもしれませんが(それでもこたえるんだけど)、当時は本当に深く傷ついて……。
突き放すような言葉に傷つくこともあれば、呼び捨てにされて傷つくこともありました。本当なら傷つくよりも、生徒たちのそうした行動の背景にある思いに手を伸ばさないと行けないんでしょうけれど、そこまで思いが至らないというか、至ったとしても傷ついて怯んでしまっているようでは、うまく手が伸ばせないんですよね。
そんな、本当に未熟だった頃の思い出なのですが。。。
名前で呼ばれてモヤッとして、距離の取り方を見失いそうになって、迷子になりそうだったとき、
行く手を照らしてくれたのが、これもまた生徒だったんですよね。
私も本当は、分かっているんです。
生徒だって誰かを傷つけたいとは思っていないことを。
本当に月並みな表現なのですが、生徒に育てられて、ようやく中堅といわれるような年代に差し掛かってきました。
赤鉛筆で書かれた「がんばって」のお手紙は、若葉マークの頃から今に至るまで、変わることなく私の行く手を照らしてくれる、大切な大切な道標です。
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