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翻訳機は嫌われる?機械翻訳の台頭と、AI時代の英語学習の価値

こんにちは、なおきまです。

最近のAIの進歩はすさまじく、日本語⇔英語の翻訳精度も著しく向上し、企業での導入も進んでいます。例えば2023年11月には、東京~埼玉間を走る西武鉄道(西武新宿線)の西武新宿駅にて、翻訳対応透明ディスプレイ「VoiceBizⓇ UCDisplay」が実証実験を経て正式に導入されました。

ポケトークのような製品の翻訳精度も著しい進化を遂げるとともに、DeepLやGoogle翻訳の精度も向上しています。ChatGPTを使えば翻訳に要約にと、自由自在に外国語の文章を応用することが可能になりました。

このようなトレンドの中、以前から様々な場で、

「いずれ翻訳者や通訳者という職業はなくなる」

「外国語を学習する必要がなくなる」

といった声が聞かれるようになっています。

これ、本当でしょうか?

以下では、私が海外業務で体験した「自動翻訳機が受け入れられなかった事例」を紹介するとともに、AIや自動翻訳機が台頭する時代にでも色あせない英語学習を継続する価値について、私の考えを述べていきたいと思います。

もし皆さんが、「自動翻訳機があれば、英語学習はいらなくなるんじゃないか?」という不安を持たれているとしたら、それを払拭できればと思います。


本記事の著者:なおきま
医師。某外科系診療科の専門医、日本医師会認定産業医。医学部時代の短期留学で語学の重要性を痛感し英語学習を開始、卒後も英語圏での種々の業務に携わる。

医師として外来・手術・病棟管理などに精力的に従事する一方、教育研修事業にて米国・欧州・アフリカ地域へも派遣、国際機関の認定教官となる。2024年3月大手通訳学校の同時通訳科を卒業、不定期ながら2023年から海外招聘講演等の通訳を務めている。医師としてフルタイム勤務を継続しつつ、2024年に通訳稼働は100時間を突破。

【英語検定等】
英検1級、TOEIC LR990 & SW400、国連英検 特A級、工業英検1級(現 技術英検プロフェッショナル級相当)、全国通訳案内士、英単語検定1級、JTFほんやく検定1級(医薬・日英)、ビジネス通訳検定(TOBIS) 1級、TOEFL iBT 114点(MyBestScore 116点)、技術英語指導者養成基礎コース修了(技術英語協会)、Teaching TOEFL iBT Skills Workshop修了 ほか

体験談:翻訳機とAさん

舞台は、EUのとある国で行われた1週間程度の教育研修です。私含め約20か国約30名の医師が受講生として参加をしていました(日本からは私1名)。使用言語は英語で、参加者同士で教訓をシェアして有意義なトレーニングを行うことが期待されていました。

しかし1名だけ、英語が話せない参加者がいました。この方を便宜的にAさんとします。

Aさんは自動翻訳機を持ち、「これは自分の国で製造されたもので、世界一のクオリティだ」ということを(翻訳機を通して)言っていました。正直言って、この内容を伝えるのに翻訳機を通す時点で、この教育研修に全くついていけないだろうことは容易に想像がつきました。

そもそも、このプログラムの2週間くらい前に300ページ弱の英語のテキストが配られて、その内容がある程度は頭に入っている前提でした。これも読めたのか、翻訳ソフト等を使ったのかは不明です。

研修は、午前中に講義⇒午後に実習という流れでした。Aさんは、講義では講師の声を翻訳機で翻訳しながら、実習では翻訳機を起動させてイヤホンで話を聞き、話す時は翻訳機に音声入力するというやり方をとっていました。

残念ながらAさんは、全くついていけず。本当に基本的な英語しか話せないようで、教官や周りの参加者が説明しても専門的な話が中々通じません。私も可能な限りサポートを行いましたが、会話の多くは翻訳機を通す関係上、とても時間がかかりました。

実際を想定して行われる実習も多く、そこに翻訳機を通すタイムラグが加わってしまうとリズムを損ねてリアリティを持って没入できません。

周りの参加者は、翻訳機を通したコミュニケーションに嫌気がさしてしまい、Aさんは次第に孤立していきました。

私も気づいたときには「困っていることはないか?」など聞いていたのですが、全員とコミュニケーションを取るように努めていましたので、付きっ切りで面倒を見ることは不可能でした。

Aさんは、残念ながら気軽に話す仲間を作ることができないまま、このプログラムを終えてしまいました。

体験の所感:翻訳機よりも『自分の言葉』

自動翻訳機はどんどん性能を上げているとはいえ、私はこの経験で「翻訳機が受け入れられない文化、すなわち自分の言葉で話すことが重んじられる文化はしばらく残りそうだな」という気持ちを強く持つようになりました

コミュニケーションでは、「自分の言葉で一生懸命伝えようとする。」という気持ちが伝わって初めて、相手も真剣に耳を傾けてくれます。その気持ちを示すことは、相手にとっての礼儀ともいえます。Aさんは自己紹介の段階からすべての発言で翻訳機を使おうとしていたので、この点からも印象が良くなかったのかもしれません。

ただ、本人の名誉のために申しますと、これはAさんの問題だけではありません。

どんな経緯でAさんが来ることになったかは不明ですが、Aさんは翻訳機を用いることで苦手な英語を補い、ベストを尽くそうとしたのです。であればAさんにもっと寄り添う選択肢もあります。だからこそ私も、日に何回かは声をかけ、できる協力をしていくように心がけました。

しかしそれでも、

  • 英語で行われるプログラムに英語を話せない人員を参加させて、派遣元の施設(組織)は何をさせたかったのか?

  • はたして、どれだけ内容を吸収し、学びを持ち帰ることができたのか?

  • そもそも翻訳機を通して得られた情報は正確だったのか?

  • 英語が苦手なのに参加することになったAさんは、一体どんな心境だったのか?

という疑問は残ります。

いずれにせよ、「自動翻訳機に頼りすぎると、相手にネガティブな印象を与える可能性がある」ということはよく覚えておきたいと思いました。

翻訳機に頼りすぎると、人によってはコミュニケーションを放棄しているように映るようです。何名かが「なんでアイツはいつも翻訳機を使うんだ。オレはアイツが伝えたいことを、アイツの口から聞きたいんだ。」「彼は私たちと友人となる気がないようだ」と言っているのも印象的でした。

私としても、「Aさんは、自身の英語力不足を補うための現実的な解答を用意してきた」ことを伝えてみたものの、「それでも自分の口で語ってほしい」という感じでしたね。EUの加盟国内で行われたこともあり、英語は使えて当たり前の前提など、様々な要因がありそうです。

Aさんは私より1学年後輩にあたる医師だったので、学生時代の私が海外経験で英語の必要性を痛感して英語学習を始めたように、何か本人にとってポジティブな変化を起こす機会になることを願っています。

翻訳機の台頭では消えない、英語学習の価値

上記のような経験をしてきて、私はやはり「英語学習をしよう!」と改めて強調したいと思いました(『英語』と書きましたが、他の外国語に置き換えても大丈夫です)。

最大の理由は、自分の口で語る言葉こそ、真に相手に伝わる強いメッセージになるからです。翻訳機を使わなくて済むならそれに越したことはありません。

そして、文字面だけ英語に整えて相手に投げつけるだけでは不十分だからです。英語圏の文化を知らないままに口から放たれた日本語を、翻訳機で完璧な英語に直せても、こちらが意図したように相手に伝わるかは別問題です。失言になることさえあるでしょう。

英語を学ぶことで、英語圏の文化・宗教・国民性・歴史など、様々な違いを垣間見ることができます。日本人の立場から、英語圏の文化を理解し、その2つのレンズを通して世の中を見て、相手とコミュニケーションをとる。

この「異文化理解」の側面こそが外国語学習の最大の価値といえます。

この異文化理解は、外国に関する情報を日本語で読むだけでは成しえません。どのように書かれているのか、ある語句やイディオムが何を背景に生まれたのかなど、その国の言葉には歴史が刻まれているものです。

このような文化的なリテラシー向上を図ることができる価値が残る限り、英語を学ぶ価値は残り続けるものと思います。そして、文化的なリテラシーが必要であれば、翻訳者や通訳者という職業がなくなることもないと思います。

まとめとなりますが、この記事では、「翻訳機がネガティブなイメージにつながった体験談」と、「翻訳機が発展・普及しても英語学習の価値は消えないよ!」というメッセージを伝えてきました。

この記事が読者の皆さまにとって、外国語学習にどんな価値を見出すかのヒントになったり、学習に向かうモチベーションに繋がれば、これほど嬉しいことはありません。

一点だけ最後に。私は翻訳機の価値を否定しているわけでは全くありません。私が参加してきた仕事の中には、翻訳機を有効に使うことで多国間で良好な関係を構築できたものもあります。今回のAさんの件も、様々な要因が重なって、翻訳機に対してネガティブな感情を持たれた一例としてご理解いただければと思います。

以上です。英語学習、楽しんでいきましょう!

最後までお読みいただきありがとうございました。

なおきま




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