<<創作大賞2024 恋愛小説部門>>連載小説「憂鬱」-2 IT女社長がバレエダンサーへ惹かれていく
やがて、美里は再び彼女と出会う機会を得た。毎日書店に通っていたことが、幸運となったのだろう。彼女は本を手に取り、静かにそのページをめくっているところだった。
「ハロー。」美里はここで彼女を逃せば、二度と会えないかもしれないと自分を奮い立たせ、何気ない雰囲気で声をかけた。だが心臓はドキドキしていると同時に、なぜか女性そのものともいえるギュッと膣に力が入っていた。
ユリアは少し驚いたようだったが、美里に微笑みながら振り返った。
「こんにちは。以前にここでお会いしましたよね?」美里は英語で話を続けた。
「お会いしたことがありましたか?」彼女の英語は流暢で、アメリカで生まれ育ったという感じで、アジア系のアクセントはまったくなかった。
「この本屋さんにはよくいらっしゃるんですか?」
「はい、日本のファンタジーの本が好きで。母が日本人なんです。アメリカで育ちましたが、日本語をもっと学ぶために本を読むように心がけていて。」
「ああ、それで日本の本を読んでいらっしゃるんですね。お名前を聞いてもいいですか?」
「ユリアです。」
「ユリアさん、素敵なお名前ね。」
美里はまるで銀座のホステスに絡むビジネスマンのように、彼女のバックグラウンドについてもっと知りたいと思っていた。
「突然ですけど、どのような経緯でニューヨークに住んでいるんですか?」
「父はアメリカ人なのですが、日本に駐在していたことがあって、日本ではインターナショナルスクールに通っていたんです。
今は、バレエを勉強するためにニューヨークに一人で住んでます。」美里がタイトなスーツにヒールの低いパンプスをはいてるビジネスウーマン風だということもあるからか、ユリアは怖がることなく話を続けた。
「そうだったんですね。インターナショナルスクールって興味深いですね。」美里は今度は、興味津々な様子を装って尋ねた。案外、インターナショナルスクールに通っていた日系のITエンジニアは、少なくないからだった。
ユリアは微笑みながら、「はい、そこでさまざまな国の文化や言語を学びました。それが私の英語力を高める一因になりました。」と答えた。
二人はそれからも書店での出会いを重ね、徐々に親しくなっていった。たいていは、それぞれの読んだ本の内容を伝えあったり、オススメの本の情報を分かち合ったりした。
本ばかりの話に少しだけ退屈してきた美里は、ある時、「私は何か新しいことに挑戦したいと思っているのだけど、バレエを教えてもらえないかな。」と、ユリアに相談を持ちかけた。
ユリアは微笑みながら、「一緒に挑戦しましょう。私がダンスを教えるので、」と提案したのだった。
自分の子供くらいの年齢のユリアに、まさか恋心を抱くとは、この時、美里も思っていなかった。