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<<創作大賞 恋愛小説部門>>連載小説「憂鬱」- 28 『憂鬱』を乗り越え新たなるビジネスへ

SMビジネスは順調に広がり、美里とユリアの経営するクラブは口コミで評判を呼び、様々な国籍の女性ダンサーが集まる場所となっていた。

客層も多様で、日本人だけでなく、IT業界で働くインド人や営業マンの韓国人、中国人、さらにはヨーロッパから来るビジネスマンも増えていた。特にアジア系の富裕層が多く、その影響でクラブは繁盛していた。

美里とユリアは日々の忙しさに追われながらも、クラブの成功に喜びを感じていた。美里は経営の面で、ユリアはダンサーとしてのコネクションを生かしてクラブを支え合っていた。二人の関係はますます深まり、信頼と愛情で結ばれていた。

しかし、順調だったビジネスに突然の暗雲が立ち込めることとなった。ある夜、ユリアの友人でSMクラブに立ち上げから協力してくれていた芹那が首絞めプレイを行っていた際、客から強引に縛りの道具を使ったプレイにより急に意識を失ったのだった。

パニックに陥った客はすぐに911に電話し、救急車がクラブに到着する騒ぎとなった。

芹那はその場で意識障害を起こし、緊急搬送された。医師の診断によれば、一時的な酸欠状態であったが、大事には至らなかった。だが、この事件はクラブにとって致命的な打撃となった。

SMクラブの存在が公になり、メディアにも報じられたことで、クラブの評判は急落した。信頼を失った顧客たちは次々に離れていき、ビジネスは急速に衰退していった。美里とユリアはクラブを閉じざるを得なくなった。

「ビジネスが軌道に乗り始めていたっていうのに、『憂鬱』だね。」ユリアは心なく笑った。しかし、その笑顔には失望と諦めが滲んでいた。

美里はそんなユリアの様子を見ながらも、新たなる希望を胸に秘めていた。「ユリア、お友達の芹那さんが大事に至らなくてよかった。SMにリスクはあるってわかってたことだけど、生きていることが救いだわ。

『憂鬱』だなんて言ったら負けよ。

芹那さんは生きているんだから、まだまだ色々なチャンスがある。それに、私たちにだってまだできることがあるわよ。新しいビジネスを考えましょう。」

「新しいビジネス?」ユリアは疑問の表情を浮かべた。

「そうよ。」美里は力強く頷いた。「失敗したことを糧にして、もっと安全で、誰もが楽しめる場所を作りましょう。私たちにはその力があるわ。」

ユリアは美里の言葉に耳を傾けながら、少しずつその可能性を考え始めた。失敗の痛みは深いが、美里の消えることのない情熱と決意が、ユリアの心を動かしていた。

「美里さん、本当にありがとう。『憂鬱』なんて言葉は、もう二度と使わない。」美里は静かに頷いた。「そうよ『憂鬱』なんて吹き飛ぶくらいのビジネスに、もう一度挑戦してみましょう。」

二人は再び力を合わせ、新しいビジネスプランを練り始めた。まずは失敗の原因を徹底的に分析し、安全性を最優先に考えた新しいサービスを提供することを決意した。

美里とユリアは、より多くの人々が楽しめるエンターテインメントスペースを構築することを目指し、ダンスやパフォーマンスに特化した新しいクラブの開設を計画した。

ここでは、ダンサーたちが安全にパフォーマンスを行い、観客も安心して楽しめる環境を整えることが最重要課題となった。

新しいクラブのコンセプトは「エレガンスと冒険心の融合」だった。ユリアのバレエやダンスの技術を活かし、美里の経営ノウハウを駆使して、かつてない魅力的な空間を創り上げることを目指した。

二人は徹底的に安全対策を講じ、医療専門家のアドバイスを受けながら、ダンサーたちのトレーニングプログラムを改良した。ダンサーたちにメンタルの面からもサポートできるよう、カウンセラーの相談窓口も設置した。

さらに、クラブの雰囲気を一新するために、インテリアデザインにも力を入れた。

豪華で洗練された内装に加え、最新の照明技術を駆使して、訪れる人々に非日常的な体験を提供することを重視した。クラブのメニューも充実させ、多国籍の料理やドリンクを楽しめるように工夫を凝らした。

「お店の名前はGroove Dance Tokyoなんてどう?」美里は思いついたように言った。
「Groove、アフリカンアメリカンの音楽とかでノリって意味ですよね。いいですね。東京をつけるのも日本っぽいイメージあって素敵です。」

Groove Dance Tokyoはオープン直後から話題を呼び、口コミで評判が広がった。

かつての顧客も戻り始め、新たな客層も次々とクラブを訪れた。特に、エレガントな雰囲気と安全性が評価され、ビジネスマンや富裕層だけでなく、若いカップルや観光客にも人気となった。

「ユリア、私たちやったわね。SMクラブなんて裏社会みたいなことをやらずに、最初からこっちの方向を目指していればよかったのかも。」ある夜、満席のクラブを見渡しながら、美里はユリアに微笑んだ。

「ええ、美里さん。これも美里さんのおかげです。ダンサーたちがのびのびと踊れる場所を提供され、それを観客が楽しめる場所。これこそダンサーが求めていた場所かもしれません。」ユリアも微笑み返し、その目には感謝と愛情が溢れていた。

二人は新たなビジネスの成功を手にしながら、さらなる夢を追い求めることを誓った。これからも挑戦を続け、お互いを支え合いながら進んでいくことを心に決めた。

そして、夜が更けるとともに、美里とユリアはクラブのステージに立った。美里はユリアの手を取り、観客に向かって宣言した。「ここは皆さんのための場所です。どうか、この特別な空間を楽しんでください。」

拍手と歓声がクラブに響き渡り、その中で二人は新たな未来への希望を感じた。失敗を乗り越え、再び立ち上がる力を得た美里とユリアは、これからも共に歩んでいくことを心に誓った。

その夜、クラブの照明が美しく輝く中、美里とユリアは手を取り合いながらステージの幕を閉じた。新たな挑戦と冒険が二人を待ち受けていることを感じながら、彼女たちは未来に向けて力強く歩み始めた。

二人はNYだけでなく、LAそしてラスベガスやテキサスへとクラブ経営を広げていくことを計画しているのだ。

美里とユリアの物語は、挑戦と再生の物語であり、愛と信頼がどんな困難も乗り越える力を持つことを証明していた。彼女たちの絆はますます強固なものとなり、これからも新たな冒険と成功を掴むために、共に歩んでいくことを決意したのだった。

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