ベレゾフスキーの件を少し調べてみた
パリAFP時事のニュースによると、ロシアのピアニスト、ボリス・ベレゾフスキーはロシア国内の政権寄りテレビ局のトーク番組で「ウクライナへの圧力を強化するため首都キエフに対する電力遮断を呼び掛け」たとのこと。
その番組の動画をとにかく観てみたいと思い、探してみたら見つかった。
https://www.youtube.com/watch?v=utEjiBBroHA&t=221s
ロシア語のわかる友人にこれを見せたところ、キエフの電力云々に関する箇所は、「(爆撃などではなく)効率よく戦果をあげられないのですか、電気を止めるとか」と隣りの将校に冗談めかして言っているとのこと。
将校は「冗談じゃない、そんなカタストロフをわれわれが起こせるわけない」と返し、全員が失笑。これはゴーゴリ以来のロシア伝統のブラックジョークで、視聴者はだれも本気で受け止めていないだろう、とのことだった。
「欧米のメディアはロシアの言っていることを信用せず、間違ったことばかり伝えている」ともベレゾフスキーは言っているけれど、これはロシアの人々の多くが昔も今も口にすることで、いまに始まったことではない。
このテレビ番組の動画を見る限り、「ベレゾフスキーがウクライナへの圧力を強化するようにキエフへの電力遮断を呼び掛け」という時事の報道は、どうもセンセーショナルに過ぎるように思われる。
ベレゾフスキーは過激で非人道的な主張を展開したわけではなく、ロシア人特有のジョークとして言っただけなのだろう。「爆撃するくらいなら、キエフへの電力を止めるとか?」といった調子で。
むろん、ベレゾフスキーは軽率だった。冗談でも許される発言ではない。こうしてニュースとなって世界中に知れ渡ってしまったおかげで、多くの人々の憤激を買ってしまった事実は拭いようもない。
私も正直ショックだったが、表面的なニュース報道や、SNSの伝聞だけで、にわかに信じ込んで、すぐに怒り狂うのではなく、多面的な角度から真意のほどを確認できるまでは、軽々に判断しないという態度が大切だろう。
ベレゾフスキーの演奏をどう思うかという問題は、ここでは一切関係ないし、関係させるべきでもない。
彼の演奏のファンだった人々のことを侮辱することが正当だとも思わない。
政治的な信条(などという強いものをほとんどの音楽家は持っていないし、プロパガンダによって誤った考えを何となく持ってしまっていることも多い)を、音楽家の価値を決めるための踏み絵のように扱う昨今の傾向には、強い抵抗感を覚える。