対GDP比政府債務残高258%の日本ではなく106%の英国政府で財政の信認が問われたのか~トラス政権経済政策の教訓

1 はじめに

 英国のリズ・トラスが2022年9月の就任からわずか1か月半で、辞意表明に追い込まれたのは記憶に新しい。経済失策をきっかけに市場、与党、国民の信頼を失い、求心力低下に歯止めがかからなかった。
 トラス首相が採用した経済政策とは、大型減税策だった。しかし大型減税による国債増発が嫌気され、金融市場では英国の通貨・債券・株が大幅に売られたのである。

 でも、おかしくない?

 日本の政府債務残高は対GDP比で228%もあり、額にして1200兆円の債務を抱えていて、財務省はさかんに財政破綻の危険性を訴えているやん?
 それからみると、対GDP比政府債務残高が106%にすぎないイギリスがどうして大型減税を発表したぐらいで、通貨・債券・株のトリプル安に見舞われ、首相が辞任に追い込まれることになるねん?
 それなら、我が国日本の首相は何度も辞任に追い込まれるやろ。でも経済政策の失策で首相が辞めたなんて聞いたことない。
 病気か政局の行方によって辞めるほうが多いやろ。

 
 おかしない?

 日本銀行は円安が進行しても頑として金利をあげようとはしない。それは日銀が為替政策には責任を負っていないからだ。原則的には為替政策は財務省の責任において実施されている。

 しかし、物価安定という大きな観点からいえば、たとえコストプッシュ型のインフレであろうとも、英国中銀は為替の安定を重視しており、物価高が続くなかで政府が財政拡張策を実施すれば、英国中銀は金融引き締めをむしろ強化することで為替・物価の安定を図ることになる。これがポリシーミックスという政策選択である。

 ※ポリシーミックスという考え方
  政府   積極財政政策→物価高騰
  中央銀行 金融引締め→金利の上昇→為替安定→物価抑制

 これに対して、赤字国債発行で賄われる大型経済対策が正式に決まっても、日本では英国のように国債の金利が大きく上昇することは容易には考えられない。大きな原因のひとつは、日本銀行が金融緩和を維持しているからである。
 

 それでも、財務省が主張するように財政に対する信認が問われる状況なのであれば、大型減税や積極的な財政出動を実施すれば、市場の信認を失い首相が辞めざるを得ない場面が生じるのではないか?

 ところが・・・

2 日本国債の信認


 クレジットデフォルトスワップ(CDS)でみたG7国債の5年以内のデフォルト確率を比較すると、日本は0.33%とG7諸国中ドイツに次いで2番目に低いのに対し、英国は0.70%と日本の2倍以上の水準に達しており、イタリアに次いで二番目に高いことがわかる。
 

 クレジットデフォルトスワップ(CDS)とは発行体の信用リスクを 対象とするデリバティブの一種である。債権を移転することなく、信用リ スクのみを移転させることに特徴があり、発行体のデフォルトに対する「保険」に似ている。

https://www.dlri.co.jp/report/macro/205686.html

 このようにデフォルト確率が低いのは、日本国債に対する信認が高いからである。これは、各国国債の信認を左右するとされる4つの指標について国際比較をするとその理由がわかる。
 具体的には、G7諸国における2021年時点での「政府純債務/GDP」「経常収支/GDP」「対外純資産/GDP」「政府債務対外債務比率」の四指標をリスクの度合いで並べ替えた。
 結果は、日本は政府純債務/GDPだけでは最もリスクが高くなるが、それ以外の3指標で見れば、対外純資産/GDPと政府債務対外債務比率が断トツ一位、経常収支がドイツに次いで2位と圧倒的にリスクが低く、相対的に財政リスクが高い国ではないということになる。

3 英国政府の財政状況

 一方の英国は、政府純債務/GDPと政府債務対外債務比率はG7中3番目に低いものの、基軸通貨国米国に次ぐ経常赤字/GDPが大きい国である上、米国とフランスに次ぐ対外純債務/GDPが高い国である。

 このように総合的に考えれば、そもそも基軸通貨国でもなく対外純債務・経常赤字国が需給ひっ迫でインフレ率が加速する中で財政支出を拡大しすぎれば、財政リスクが高まるのは当然の帰結といえる。

4 まとめ

要するに、国債の信認を左右する指標は政府債務残高対GDP比だけではないということである。そのほかの指標である①経常収支/GDPや②対外純資産/GDP③政府債務対外債務比率をも検討する必要があるだろう。
 そして、世界の潮流は、財政健全化を図る指標として、政府債務残高対GDPではなく、政府純利払費対GDPを見るようになっている。
 いまだに政府債務残高対GDP比をさかんに吹聴して国民を不安にさせ貯蓄に走らせて消費を低迷させる結果をもたらす政策はいい加減辞めたらどうだろうか。消費を喚起して消費税の納税額を増やす方が政策としては質が良いと思うのだが。



 日本の利払負担比率(歳入比)はG20諸国中カナダと並び、最も低く抑えられている。債務残高の規模が突出する一方、利払負担は低水準に抑えられており、日本の財政がいかに低金利の恩恵を受けてきたかが示されている。

内閣府 平成22年度 年次経済財政報告 第1章第3節 2長期金利の安定と財政再建

平成22年(2010年)の経済財政白書の記述だが今でも参考になる。

 2024年現在、日銀はマイナス金利を解除したため金利の上昇圧力は強まるだろう。今後の金利上昇が財政の持続可能性に影響を与えるという論者は多いのだが、金利上昇の局面というのはインフレが過熱している局面であり、それはすなわち景気が高揚している局面ではないのか?だとすれば税収も増える局面だから、財政破綻論者の主張がはたして正しいのかはなはだ疑問である。

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