砂漠の花
その花は水を必要としなかった。
ここは広い砂漠。
水も日陰もない、全てが吹きさらしの大自然。
生き残れったモノに罪はない。
生き残れなかったモノが悪いのだ。
その花の周りには、
およそ『仲間』と呼べるモノはいなかった。
彼女が最初に咲いたとき、
周りには同じような『仲間』が大勢いた。
近くには水があって、
木々の木漏れ日があって、
色とりどりの花が咲く場所だった。
だけど、時間が経つにつれて、周囲の環境が変わっていった。
芝生が荒らされた。
木々は切り倒された。
豊富な水は徐々に勢いをなくし、
遂には陽の光で枯れ果てた。
自然が過酷になる中で、
彼女だけが生き残った。
他の仲間はとっくにいない。
あるモノは水をなくして死に絶えた。
あるモノは種のタネを風に乗せて、別の大地に旅立った。
この場に残ったのは彼女だけ。
だだっ広い砂漠でただ一輪。
白い花弁を咲かせて、
狂おしいほどに青い空を眺める毎日だった。
寂しいとは思わない。
悲しいとも思わない。
すべてが各自の実力で、耐えられなかったモノから消えていく。
それが自然で、当然で、
一輪でいることに疑問はなかった。
ある日、耳慣れない足音が聞こえてきた。
それは旅人のものだった。
白いローブを目深にかぶっている。
男とも女とも付かないその人が、
砂漠に咲く彼女を見つけてこう言った。
「よく頑張ったな」
旅人は水筒を開けて、
その花に冷たい水を少しばかり分け与えた。
そうして、
旅人はまた歩き出した。
彼女に振り向くことなく、
目的地に向けて歩き出す。
その旅人の行き先を、
砂漠の花が知る由もない。
砂漠の花は、今日も咲いている。
でも、いつもより霞んだ白い花を咲かせている。
植物に感情があるのなら、
彼女はきっと、
寂しく感じているのだろう。