”コロナ”なんかより”健康イデオロギー”の増殖のほうがよほど怖ろしいんです
【画像:著作者:macrovector_official/出典:Freepik】
第3回❐2023年3月16日記
寿命の話に関して言えば,『ナショナルジオグラフィック日本版 1月号』(特集:より長くより健康に生きる)(2022年12月30日発行)に,興味深い記事がいくつか掲載されていたので眺めておこう。
もう一つ,デジタル技術を使って病気の予防や治療をはかる「デジタルヘルス」なるものの市場が,欧米を中心に急成長しているという話が「朝日新聞」(2023年2月5日4面 Sunday World Economy)で特集されていたので,それも取り上げておきたい。
2023年1月上旬にラスベガスで開催された世界最大級の技術見本市「CES」会場の注目をさらったのが,デジタルヘルスだったそうだ。関連の出展企業・団体は467にのぼり,ウェアラブル端末だけでなく,手軽に健康状態を検査できるような機器やサービスが登場したということである。
この分野の世界市場は,2016年には約733億ドル(約9兆円)だったものが,2021年には約1650億ドル(約21兆円)と倍増,2031年には何と約8261億ドル(約106兆円)まで膨らむ予測というから驚くばかりだ。
もっとも,わが国は例によって,データの安全性やプライバシーの信頼性の低さがネックとなって大きく出遅れているようではあるが…。
ことほどさように,人間の”健康”は今や「資本」の恰好の標的となってしまっているのだが,”健康”保全に対する過剰な執着がいつの間にやら”健康”管理の強化を助長し,「権力」にとって甚だ都合の良い情況を生み出してしまう危険性をも内包するという事実に思いを馳せる人は少ない。
今般のコロナ騒動に引きつけて言うならば,コロナ禍に対応した一連の統治諸策に安易に与することは,同時に,ひたすら”健康”であることを志向する不安心理にうまく付け入り,”健康”管理体制の強化を正当化せんとする言説にも巧妙に搦め捕られてしまうということでもあるのだ。
ひとまず今回は,『対論 1968』(集英社新書,2022)の中での笠井潔氏の発言をもってまとめとしよう。
ちなみに笠井氏は,推理作家,SF作家としても著名であるが,現代では本当に数少なくなったきわめて真っ当な批評家であり,その著作からは学ぶべき点が多い。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?