自己肯定感をあと押しするのは、誰かの応援
プロデュースは、何かをやりたい人間の情熱、気持ちの強さが、重要な説得材料となる。ビジョンの魅力や実現性、信用度もそこから生まれる。
もともと、本人の高いモチベーションがなければ構想自体が生まれない。
「自分の思いに従って自分ができるプロデュースをやり、自分の所属する会社やお客さまや社会に役立つように着地させていけばいい。だから、まずは一歩を踏み出そう」と考えるのが、プロデュース思考である。
プロデュースは、自分の感情や直感、ひらめきを積極的に肯定して構想を進めていくものである。
自分を肯定し、自分がやりたいことを追求する。自分を生かしてできること、自分が納得できること、自分が楽しいと思い、喜びを感じられることをイメージする。それを自分だけでなく周囲にとっての価値に転換する方法を考える。
このことが重要なのである。
ロジカルに考えるのは望ましいし、人を説得するために役立つ参考データが豊富にあるのも、もちろん望ましい。
だが、それが思考のはじめにある必要はない。
自分を肯定し、感情や直感もプロデュースを進めるための思考の重要な一部と考え、まずは「自分本位に」構想を進めるというプロセスは、一見、独善的にみえるかもしれない。だが、それはプロデュースにとっては非常に重要なプロセスなのである。
自分の「個人的なこだわり」や「偏った部分」、精神的なトラウマが背景にあるような「屈折した部分」さえ、否定する必要はない。
自分を生かし、自分がエネルギーを燃やしてやりたいことを実現する方法を、自由に考えていけばいい。
だが、最後まで自分本位では、自分のやりたいことは実現しない。
他者の力を借りなくては、プロデュースは進まないのである。
誰の力を借りるのかを考え、プロジェクトへの参加、資金協力、情報提供など、協力の形態にあわせて相手を説得する方法を考えなくてはいけない。
また、プロデュースに参加する協力者一人ひとりの能力を尊重し、生かしきる方法を考えなくてはいけない。
なぜなら、プロデュースに参加する人は、やはり、自分がそこに参加する意味、協力する意味を感じ、おもしろいと思い、何かの役に立つと思い、自分を最大限に生かせると思えるからこそ、エネルギーを注力し、すごい力を発揮するからだ。
チーム全体のモチベーションをつくりだすには、プロデュースに参加する人たちがどういう感情を持つかということに想像力を働かせることが非常に重要なのである。
人は誰も、自分が肯定されたとき、自己愛が満たされたときに、エネルギーを出せる。
自分のやる気を維持するために、他人の肯定的な反応を必要とするのが人間というものなのである。
新しいことに挑戦しようとするときは、特にこの傾向が強い。
プロデュースという、説明が難しく、しかも不確実なことをやろうとするときは、ただでさえ、理解してくれない人がたくさんいるのがあたりまえだ。
自分の意欲を受けとめてくれ、発想を肯定してくれる人との心理的な交流は、非常に大きな心の支えになる。
いくら自分のビジョンや戦略に自信を持っていたとしても、構想を現実化していくときに、反発を受けたり、たたかれたり、妨害されたりすれば、気持ちが揺れるのが人間である。
新しいことを仕掛けるときには、必ず壁があるものなのだ。
そのときに、「あなたは正しい、あなたならできる、私は信じる、応援する、一緒にやっていこう」というメッセージを送ってくれる人が身近にいることによって、はじめて前に進んでいける、という部分が多かれ少なかれ人間にはあるのである。
乳幼児精神医学の権威ロバート・エムディは、子供がはじめて何かに取り組むときに、やり方を教えてくれる人、見守ってくれる人がいて、うまく行ったときに喜んだり褒めてくれたりすると「やる気」を起こすという。
これは、大人になっても変わらない。
新しいことに踏み出そうとするとき、人間は、かつて自分が子供の頃何かをやろうとしたときに母親や先生が温かい目で見守ってくれたように、自分を肯定してくれる誰かの応援を心理的に強く必要とする生き物なのである。