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機会をつくって自分を磨き、未来をひらく
「プランド・ハップンスタンス・セオリー(Planned Happen-stance Theory)」というキャリア理論がある。
これは、アメリカのカウンセリング学会誌などでクランボルツ博士らが提唱したキャリア理論で「計画的偶発性理論」と訳されている。
簡単にまとめてしまうと、次のようなことになる。
「変化の激しい時代になればなるほど、キャリアは自分の思い描いたとおりに実現するものではない。
したがって、むしろ現実に起きたことを受けとめて、そのなかで自分を磨いていくことのできる力が重要である。
さらに、自分のキャリアをひらくためには、自分のほうから何かを仕掛けて予期せぬ出来事をつくりだし、そこで自ら実体験して学習して不要な間をおかず次の手を打っていくということが必要になる」
こうした機会を自らつくりだし、機会をものにしてキャリアをひらくには五つのスキルが必要だとしている。
好奇心(Curiosity)
執着心(Persistence)
柔軟性(Flexibility)
楽観主義(Optimism)
リスクテイク(Risk Taking)
つまり、さまざまなことにたいする幅広い興味・関心が、自分の企画の幅を広げるいっぽう、偶然の機会に出会いやすくなるし(好奇心・Curiosity)、どんなことが起こっても、ひとつのことにこだわりつづけたり、自分の柱をもちつづけることで長期的に自分のキャリアが花開くことになり(執着心・Persistence)、状況が変化してもそれに柔軟に対応し、学習して自分の血や肉にしてチャンスをいかし(柔軟性・Flexibility)、すべての出来事は、かりにそのときは悪い結果になったにせよ、後でかならず生きてくると楽観的に考えて前向きにとらえ(楽観主義・Optimism)、一見不連続に見える先のわからぬ状況のなかでも、積極的にリスクをとって進んでいく、またそれがかえってより大きなリスクを回避し、自分や自分とかかわる人たちの幸せにつながると考える(リスクテイク・Risk Taking)ということが重要だというのである。
プランド・ハップンスタンス・セオリーは、変化の激しい時代だからこそ注目されるようになったと言われている。
しかし、この理論には社会の変化の激しさに関係なく通用する普遍的な要素がふくまれている。
この理論が発表されるはるか以前から、このコンセプトを社員の行動規範として取り入れていた企業は、じつは非常に多かったと考えていい。
たとえばリクルートでは、昭和四十三年に制定された「自ら機会をつくり出し機会によって自らを変えよ」という社訓が、文字どおり社員たちの行動規範になっていた。
これは、「新しい仕事のフィールドを自分の手でつくりだせ。そこで体験し学習し能力を磨き、新しい自分をつくりあげろ。キャリアは自分の手でひらけ」というメッセージである。
これは、けっして、リクルートのなかでしか通用しない言葉ではない。むしろ、
「自分の能力が開発されて世界がひらけていけばいくほど、さらに新しい機会をつくりだして会社の枠にとらわれず自分の道を行きなさい」というようにも解釈できる言葉である。
電通の「鬼十訓」、サントリーの「やってみなはれ」の精神も、根本は同じである。
これらの言葉の意図するところはいずれも、プランド・ハップンス・セオリーそのものであるといってよく、類似の要素に満ちている。
実際に仕事をしたり、現地調査をしたりすることで、現実世界、あるいは現実に近い世界で体験しながら学習し、専門能力を身につけ、さらに磨き、アウトプットをだし、同時に自分の実績をつくるワークをフィールドワークという。
フィールドワークにはいつも予期せぬ出来事、偶然の要素が伴う。新たな発見が必ずあり、自分の将来を左右するような出会いや、考えもしなかった機会が生まれることがある。
その際、自分の仮説を修正したり、機会をいかして最大限にチャレンジしてみるということは、自分のキャリア創造にとって非常に大きな意味を持ってくる。