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【NOVEL】アートマン 第4話

三者による会談が平行線を辿っていると、障子が勢い良く開いた。蝋燭の火は大きく揺らぐと、三人は、開けた主である軽装の男に目をやった。

「あ、もう始まってます?すいません、遅れて…」

流行りモノで身を包み、自分が一番と思っているこの人物を以下【青春】と名付ける。

短気「遅い!それに、すいませんじゃなくてすみませんだ!何度言えば分かる!」

【中道】は【青春】に、ことの経緯を説明してみせると、彼はすぐさま膝を崩してこう言った。

青春「うぅん、確かにここ最近、僕の出番がめっきり減ったと思ったらそういうことだったのか。まぁ、僕はあんた達みたいな柄じゃぁないし、社会に出れば、どうせ借りてきた猫のようになってしまう。むしろ、愈々お払い箱と思っていたのは僕の方だよ。この歳になっても、ちっとも交友関係は以前のまま、大学院での交際関係は一向に改善されない。学生の時分、あの闊達した『私』は何処へやらと思っていたよ。

うん、要するに僕らも所詮、今時の若者にありがちな現代っ子なのさ。確かに、中学受験で見事某有名進学校へ入学、そこからは絵に描いたような優等生振りが評価され、大学まで苦労無く、学生的人間生活は幸せに送ることが出来た。しかしそれは当たり前さ。両親の溺愛のもと、彼らの経済力に僕らは乗っかりおんぶで頑張れた。頑張った分だけ僕らは評価されたのさ。しかもそれは、学校の初回的な基準とは大いに外れた、常識と言えばそうなのだが、現実社会が常識からは逸脱していることに気付いていない。そこに齟齬が生じたのさ。すなわち、大人になるということは、常識的なこととそうでないことを本来統合して考え、受け入れなければならない。僕は…いや、僕らはちっとも慣れていない。

学生だった愛憎玩具は一言『え、習ってない。聞いてない』これで周囲の大人は何とかしてくれたからね。

故に、予想だにしないことが起こると途端に使い物にならない。違うかな?レールの上を淡々と走ることで評価を受けていた僕らが、支えてくれていた車輪が急に無くなってしまったため、どうして良いか分からなくなっている。違うかな?」

一同「……」

皆が黙り込んだ中、まず口を開いたのは【悲観】だった。

悲観「一理ある。イヴァンイリチの著書【脱学校の社会】によれば、『学校の仕事は、生徒のための仕事ではなく、教師のための仕事である』と記載されている。後悔先に立たずだが、今思えば、与えられたことで評価を受ける社会は学校しか存在しない。その状況下で褒められていたが、いざ世間に出て蓋を開けてみれば御覧の通り、褒められる要素も無ければ、褒められる行為自体が、むず痒く感じる年齢になってしまった」

短気「いや、だとすると恰もエスカレーター式の学生がまるで使い物にならないという論調になってしまう」

悲観「もちろん例外はいるはずさ」

中道「だったら、我々がどうしてその例外になれなかったのか、その原因も考えるべきじゃないのか?確かに、学校というものは、イノベーションを全く必要としない分、物事の要点を見つけることが仕事だった。それに、良い育ちをしている方が、社会に適合し易いという言い分であれば、どちらかと言えばこの器は例外とも言える。

所謂、良くあると言うべきか、知識を養うのではなく、能力を培わなくてはいけないのだと…昨今の自己啓発本の見出しのようで恐縮だが、もっともらしいことを言うが、全人類、与えられた時間は同じであるにも拘わらず、この格差は否めない。経験に基づく以前の問題だ。

実際、高校卒業後、早くして社会人になった連中は、その若い感性で世間に触れることで、良くも悪くも社会慣れしており、その点『仕事は生きていくため』と、割り切っている奴も多い気がする。

それこそ、糞真面目に勉強する必要など無く、ほどほどにやっておくべきだったのではないかと思う節が出てくる。彼らの悩みが極端に幼稚に思えてしまうのも、人間味を見せられているようで却って羨ましい。

どうだろう、結局のところ人生を生きていれば、真面目も不真面目もトントンなのではないか」

短気「そうだ!だから誰も振り向いてくれなかったのだ。我々が抱える悩みなんて、世間では知れたことだし、特に変わったことはこれっぽっちも無かったから、別段、私に同情しなくても良いに決まっている。見ろ、気付いたら周りには誰一人いないじゃぁないか!これは、自身が求めていた環境であると同時に、未知の領域でもあったはずだ。それをどうして好奇心だけで飛び込もうとしたのだ?我々は思っているほど、精神性が成熟していないのだ」

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ここまで読んでいただきありがとうございました。第5話は近日投稿するので、よろしくお願いします。

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