子育て本に学ぶマネジメント術
自分で言うのもなんだが、自分は温厚な人間だと思っていた。仕事で誰かに対して怒ったことは、記憶にある限り一度も無い。そもそも怒るようなシチュエーションがほぼ無いというありがたい環境にいることも理由だが、たとえ感情が荒ぶることがあったとしても、それはすぐに抑え込み、けして表には出さない。チームのメンバーに「この人には何を言っても大丈夫」と思われることはマネージャーとして必須だと思っている。
それなのに、自分の子供に対しては、まったくもってうまくいかなかった。4歳と1歳の育児に奮闘しているが、少しの小言も含めると、ほぼ毎日というくらい怒っていたと思う。子供の将来を考えると、善悪の区別を付けて貰わなければいけない。悪いものは悪い、ダメなものはダメだ、と教えなければと考えていた。
もちろん、怒るのは良くないこともわかっていた。怒ってしまうたびに後悔するし、自分自身が深く落ち込む。子供も怒られるのは嫌だろう。こんな親を見て育った子供が、同じように他の人に強い言葉をぶつける大人になってしまったら、という恐怖もあった。そうはなって欲しくない。
ジレンマ。安全のため、また社会生活を営むためにすべきでないことは教えなければいけない。でも、子供の表情を見ると、言葉だけではいまいち理解されていないように感じる。多少強い口調で言わざるを得ないけれど、怒るという手段は避けたい。というか、自分はリスクも心の呵責も負って伝えようとしているのに、子供の行動はまったく変わっていないように見えた。それどころか子供は、父親である自分より母親や祖父祖母(自分に対してはいつも怒っていたのに孫にはまったく怒らない…)を慕っているようにも感じるし、やったことを「やってない」と明らかなウソをつくようにもなってきた。
自分のやり方は間違っている。
そんな状況があり、子育て系のYoutube動画や本を観/読み漁っていたのだけど、そこで得られるノウハウは「あ、これ仕事にも活きるな」と思えるものが多かったので、共有したい。仕事に対人関係の悩みは付き物だし、特にマネージャーな人は、メンバーとの接し方や、どうやってメンバーを育成するかについて、日々悩まれているのではと思う。優秀で立派な大人のメンバーを子供扱いするのはどうなのという話はあるけれど、あくまで「子育てにも仕事にも共通する要素」ということ。子供に特化したものは4割、大人にも共通と思われるものが6割という感覚だ。
本記事の内容の多くは、『子どもが伸びるスゴ技大全 カリスマ保育士てぃ先生の子育て〇×図鑑』をもとにしている。なお、マネージャーとしての仕事にどう応用するかという点では私の解釈が多分に入っていて、本書の主張とは異なる可能性があるので、ご留意いただきたい。
自己肯定感と自己有用感
「自己肯定感」と「自己有用感」を区別して考える。人が健全に生きるには「自分は誰かに必要とされている存在だ」という自己承認が必要という考えはあったけれど、この2つを区別できていなかった。
自己肯定感は、「自分に自信がある」、しかも「根拠のない自信がある」という状態。他人と比較することなく、ありのままの自分を認めることで生まれる感覚。これが高いと、新しいことに挑戦するときに、自信を持って「やってみよう」という気持ちになりやすい。もし失敗したとしても、「今回は失敗したけど次はできるかも」と素早く立ち直ることができる。逆に自己肯定感が低いと、「どうせできないからやめておこう」とか、失敗したときに「だからやりたくなかったんだ。もうやらない」となってしまう。
自己有用感は、「自分は誰かの役に立っている」、「自分は必要とされている存在だ」という感覚。そのことによって、自らの存在価値を感じるということ。自己肯定感と違って、他者との関係の中で感じられるものが自己有用感である。
自己有用感は、自己肯定感の上に成り立つ。そうでないと、他人に必要とされることを求めるようになり、他人に依存する。だから、両者を区別して意識しなければならない。行動と報酬がセットになった職場という環境にあっては、どうしても「他人への貢献」に気が行ってしまうが、そればかりを追い求めると、相手にどう思われているかが気になり、自分のセルフケアが難しくなる。
自己肯定感を生むには、たとえば「その人の良いところを見つけて褒める」ことが挙げられる。マネージャーとして日々メンバーと接する中で、その人をポジティブな目で見て、良いところをリストアップし、それを会話に織り交ぜて積極的に伝えていく。特に新たに加入したメンバーのオンボーディングの時期には、このことを意識したい。たとえ豊富な経験を持ったメンバーであっても、新しい環境に馴染むまでには不安を感じるものだろう。
自己有用感を生むには、たとえば「あなたがこの仕事をやってくれるおかげで、チームのみんながとても助かっている」と伝えることが挙げられる。貢献には承認が必要だ。承認されると、自分の行動が認められた、意味があったという感覚が得られる。「ありがとう」だけでなく、プラスの一言を足したい。
悪い姿ではなく、良い姿を指摘する
先に「その人の良いところを見つけて褒める」と書いたが、人の悪いところや良くない行動には自分も他人も目が行くのに、良いところや良い行動には気付きにくい。人の良いところや良い行動に目を向けるには、普段からそれを意識して人を見る習慣が必要だ。
何かが出来なかったとしても、常に出来ないわけではない。普段は無意識にやっていたことが、たまたま抜け落ちてしまい、失敗に繋がることもある。病院で騒ぐ子供がいたとして、常に騒いでいるわけではない。頻度の多少はあるとしても、静かにしている間は必ずある。
出来なかったときではなく、出来ているときにそれを伝え、それが継続すべき行動であることを明示する。そのことによって、失敗を未然に防ぐ効果も期待できる。病院で騒ぐ子供の例であれば、騒いでいるときに叱るのではなく、(たとえ10秒でも)静かにしているときに、そのことを褒める。
KPT方式で振り返りをしていれば、「Keep」を活用するのも良いだろう。タスクの成功に繋がった良い行動を再認識する場になる。正直なところ「Problemばかり挙げると暗い振り返りになるから」という感覚でKeepを挙げていたのだけど、Keepを挙げる大切さを再認識した。Keepには自分自身では気付けないことも多いので、振り返りでは、自分だけでなく他のメンバーの良かった行動も積極的に挙げるようにしたい。
これを自分の子供に対して実践してみたところ、いろいろと良い方向に向い始めた。叱りたくなるような場面が減った気がするし、何より叱るより褒めたほうが自分自身の心地が良い。「悪いことは悪いとわかってもらわねば」という不安からも開放された。怒らなくなったので、「パパと遊びたい」と言われることも増えて、良いこと尽くめである。
褒めかた
ここまで「褒める」という言葉が頻出している。褒めかたについてもう少し深堀りする。
結果を褒めるのではなく。その結果に至るまでに努力したこと、工夫したことを褒める。そのことによって、「人は努力によって変わることができる」という意識がより強まっていく。成長マインドセットが身につく。
「プレゼンがうまいね。」より、「いっぱい練習したでしょう。プレゼンがとてもうまくなったね。」と伝える。「仕事が速いね」より、「仕事が速くなったね。何か工夫したの?」と伝える。
報酬
報酬(ご褒美。仕事では、主に金銭報酬にあたるだろう)で行動を促すのは、その場では良くても、長期的には良くない。報酬が目的化した結果、行動に対する興味や関心、やる気が薄れていくという研究結果がある(アンダーマイニング効果)。さらには、指示待ち人間になりやすいとも言われる。
報酬を手段に取るなら、あとからサプライズで出すのが良い。また、結果や成果に対してではなく、過程や努力に対して報酬を出す。「やったらあげる」ではなく、「○○に一生懸命取り組んでいるのが良かった」と、努力や姿勢を褒めたり、それに対して報酬を出したりする。そのほうが、次はさらに頑張ろうというモチベーションに繋がる。
失敗を責めない
メンバーの失敗を責めない。責めの圧があると、失敗のリカバリーではなく、自分を守る行動に走ってしまう。そこには何の生産性もない。最悪の場合、失敗自体を隠そうとしてしまう。
失敗しても大丈夫だという安心感が、高い目標に向かってチャレンジしやすい環境を作る。よく「心理的安全性」と呼ばれ、今さら感があることかもしれないが、やはり子供相手に限らず重要なことだろう。
私の4歳の子供は、何かに失敗したとき(たとえばコップに牛乳をいっぱい注ごうとして大量に溢してしまったとき)に、「ごめんなさい、ごめんなさい」ばかり言うようになっていた。やったこと(弟を叩くとか)を、「やってない」と言い張るようにもなっていた。そのようなときに、まず「怒ってないよ」と伝えることから始めるようにしたら、溢した牛乳を自分でタオルで拭いたり(=リカバリー)、弟に謝るようになってきた。
やったことを責めるのではなく、起こった問題をどう解決するか、環境やプロセスに原因がなかったか、今後どうすれば防げるか(リカバリーが容易であれば、防ぐ必要がないこともある)に焦点を当てて、一緒に考えるようにしたい。
自律的な成長をサポートする
メンバーを育成するのではなく、メンバーの自律的な成長をサポートするという考えで動く。適切な環境があれば、メンバーは自ら学習し、内在する力を発揮する。
「モンテッソーリ教育」という教育法があるらしい。日本モンテッソーリ教育総合研究所のサイトには、次のようにある。
もちろん、これは子供を対象にしたものなのだが、考え方は人材マネジメントに応用できるものだと感じた。マネージャーの役割の一つにメンバーの育成があるが、「マネージャー」と「チームメンバー」の違いは役割だけであり、能力的にマネージャーが優れているわけではない(むしろ最新の技術についてはメンバーのほうが知識を持つことも多い)。だから、上から感のある育成という言葉に違和感があった。「環境を用意することで、メンバーの自発的な学習を促す」という考えにはしっくりくる。
チームのメンバーはそれぞれ、置かれた環境からさまざまなことを学びとり、成長していく内在的な力を持っている。この内在する力を存分に発揮できる環境を整えて、定期的な1on1を通じてメンバーの話を聴き、壁打ち相手になりながらその人の成長を下支えしていくことが、マネージャーの役割だ。
まとめ
ということで、まとめ。大事な要素を3つ:
メンバーが安心してチームに所属し、自己肯定感と自己有用感を持って働ける環境を整える
悪い姿ではなく良い姿を見つけて、それを伝える
自分の価値観で一方的に教えるのではなく、メンバーの自律的な成長をサポートする
今回取り上げたのは子育てがテーマの本だが、人の成長を支えるという意味でマネージャーの仕事にも共通する要素が多い。仕事ではなくプライベートの悩みをきっかけに本を読み漁ったのだが、意外な収穫があったので、共有した。
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