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第44号(2025年2月28日)光ファイバードローン対策始まる、ゲームの軍事利用が示すハイテク技術の終わり(2025年1月期)

みなさんこんにちは。今号は2025年1月期の話題を中心にご紹介します。


光ファイバードローンを無力化せよー戦場のプロジェクトXー

概要
Forbes JAPAN に2025年1月27日掲載(記事本文

要旨
 
ロシアとウクライナの戦争では、従来の無線通信に頼るドローンや対ドローンシステムがジャミングの問題に直面する中、両国は光ファイバーケーブルを用いた「耐ジャミング」ドローンの使用を拡大している。
 このドローンは、光ファイバーケーブルを巻きつけたスプールが機体に取り付けられていて、発進するとそこからケーブルを繰り出しながら飛んでいく。したがってドローンは有線通信により操縦者との接続を維持できるが、無線信号を発しないため従来の映像や電波を利用した探知手法では検出が困難となる。
 そこで、ウクライナの企業Kara Dagは音響と視覚シグネチャーを組み合わせた高度な探知技術(指向性マイクや赤外線カメラを活用)を開発しており、ロシアも同様に防衛産業界から情報を募って対策を模索している。
 音響情報からのドローンの探知は、ドローンのモーターやプロペラのブレード(羽根)から発生する特徴的な音を多数のマイクからなるシステムで拾い、識別するというものだ。光ファイバー型ドローンは、ケーブルスプールで重量がかさむ分、プロペラでより大きな推力を生む必要がある。そのため、通常の無線型ドローンよりも騒音が大きくなるという。音の距離減衰に対抗するため、指向性マイクシステムが用いられる。

7インチFPVドローンのプロペラ(出典 Amazon)

 視覚情報によるドローンの探知は小型ドローンと鳥の区別が難しかったり、見通し線の確保の問題がある。しかし有線ドローンに対しては、光ファイバーケーブルが赤外線領域では光を反射する性質を活かして、赤外線レーザーで広範囲に空域を照らしてそれに対する反射を赤外線カメラで発見するという。両国は今後、物理的(キネティック)な対抗手段の導入やAIを活用した信号処理技術を組み合わせ、ドローン探知・無効化の能力を高めることで、戦場での優位性を競い合うと考えられる。

光ファイバードローンの一例

コメント
 この光ファイバーケーブルドローンとその探知方法の模索は、まさに技術と対抗技術のいたちごっこの典型例と言えるだろう。このいたちごっこがどこまでいくのか非常にワクワクする。
 興味深い点としては光ファイバーケーブルは赤外線を反射する性質を活かして、赤外線レーザーを広範囲に照射し、光ファイバーケーブルの反射を赤外線カメラで捉える点だ。このアクティブ探知は初期の暗視装置(ナイトビジョン)を思い出す。初期の暗視装置も赤外線を自ら照射して、その反射を捉えるという仕組みであった。
 しかしこのアクティブ探知は、現代の戦場で使用するには少々危ないのではないか。なぜなら自ら赤外線を照射するということは相手が赤外線カメラ等の装置があれば自分の位置を公開することになってしまう(この点についてはmssn65氏の以下のポストが詳しい)。

 現代戦は何かを発すれば痕跡が見つかり、痕跡が見つかれば敵の攻撃が飛んでくるようなな状況である。米海兵隊はこうした状況を「兆候の戦い」と呼んでいる。この兆候の戦いを前提にした際、このアクティブ探知は危険である。アイデア自体は良いので、例えば赤外線照射する装置と赤外線カメラの場所を分けるといった工夫が必要と考える。(以上、NK)

 とりあえずタイトルだけ見て〜風の中のすばる〜♪と「地上の星」が脳内再生されるようじゃ解決出来ない課題なのは間違いないw失敗したらお涙頂戴どころか死が待ち受けているからね。うん、これぞ技術の総合格闘技みたいなもんですな!そう確かに音に目をつけるのは良いと思う。
 ただ音をAIに学習させるには環境音がある上でのプロペラ音のノイズに近い高音域という点や、音は空気の振動であるが故に気候などの条件で微妙に変化も起こる事を考慮すると、そこで役に立つのがDTM(DeskTopMusicの略)の経験。
 音を波形で可視化して編集するのが主になるので、例えば特定の音域を抽出して環境音のトラックと重ねたり、音圧を上げたり等の加工した波形を学習させる事で音そのものではなく波形の形をAI物体検出で分別(分類)させるなど様々思いつく。自身であれば間違いなくその手を使う。

MAGIX社の波形編集ソフトSOUND FORGE

 プロペラの枚数を考えても3、5枚羽であればあたりもつけられ、記事にあるように飛ぶ距離分の光ファイバーの重さの分だけモーターも高速、高回転であるため、ある程度の条件は整う。
 問題は現場で学習データを集められない分を編集などで水増しが必要であるが、リアルに近づけるには実際に光ファイバードローンの脅威にさらされた経験を持つ兵士の協力も欠かせないだろう。
 さらに以前からこのNoteでお見せしているが、現代戦研究会の為に作ったDrone検知用のAI物体検出と高画質、サーマルなどのカメラとの組み合わせによって発見するしかなかろう。
 一方で弱点もあるはずだ。光ファイバーを使うと線自体の長さがボトルネックになるため距離や離陸場所は限られる。さらに言えば機体と操縦者の間の電波こそ出ないが、それ以外は従来の自爆FPVドローンと変わらない。このあたりを考えると弱点も見える筈だ。
 例えば有線であるのなら実弾や散弾を使って迎撃する時にもドローン自体を狙いつつも機体後方に接続された光ファイバー線に当たれば不時着させられるわけで、ドローンが飛び去った後方からも光ファイバー線を狙う事も考えうる対策になるだろう。
 そして大切なのは、この光ファイバードローン対策にばかり気を取られていると従来の無線伝送方式の自爆FPVドローンに背後を取られかねない。その様相は現代戦が総合格闘技のバトルロワイヤルとも言えるし、頭柔らかくしたもん勝ちの世界。嘆いてる暇もなく、口を開けば「ドローンとAIなどがー!」といった分析という名の大雑把な個人の感想で済ませるほど単純でも古典でもない…続きは後方の技術解説コーナーにパスしたい。
(以上、量産型カスタム師)

 まずはこの光ファイバードローンの意味について論じたい。この電子戦に対して強力なドローンは、月単位、下手すれば週や日単位でソフトもハードも改造・改良される電子戦装備華やかりしウクライナの戦場ではもてはやされている。
 それを象徴するのが以下のポストで、クルスクでは大量に使用された光ファイバーで地面が覆いつくされる事態となっている。

 しかし、ここで重要なのは光ファイバードローンは戦闘システムの一部だということだ。日本の防衛関係者はすぐに個別の装備にばかり注目し、全体のシステムという視点を忘れる。強いモンスターのカードがあれば勝てるのは遊戯王ぐらいなのだが。
 実際、今後紹介する予定だが、ウクライナの戦場では光ファイバードローンは尖兵の役割を果たしている。電子戦システムーおそらくは偵察ドローンやアナライザーで発見したーを狙って破壊し、その後に従来型の無線操縦のFPVドローンが敵戦力を叩く戦術が両軍で使われているという。
 これは光ファイバードローンが低空を飛ばざるを得ない―航空を飛べば断線しやすくなる―ことから偵察に向かず、電子線を乗り越えれば従来型FPVの方が機動性も自由度も高いからだろう。
 実際、ロシア軍もクルスク攻勢が発動した当初は窮余の一策として光ファイバードローンを未完成な状態で運用を始めたが、一か月ほどしてウクライナ軍の電子線を無効化できるようになると、光ファイバードローンよりも普通の無線誘導FPVを多数投入したことはその証左だ。
 このように全ての装備も道具も組み合わせであり、それが戦闘を形成し、複数の戦闘が戦術を形成し、複数の戦術が作戦を形成し、戦略へとつながっていく。
 筆者が懸念しているのはこれを電波法改革をしないでもいい点にばかり注目し、基本の無線操縦方式のドローンをおろそかにすることである。量産型カスタム師が指摘するように光ファイバードローン”ばかり”に注目すれば、しっぺ返しを食らうのである。
 以上が光ファイバードローンの意味するところだが、本報の内容である対策については文末の拙コメントで触れたい。(以上、部谷直亮)

EUがゲーム用コントローラーを輸出禁止

概要
PCMag に2025年1月28日掲載(記事本文)
原題 "EU May Ban Gaming Hardware Shipments to Russia Over Use in Drone Warfare"

要旨
 欧州連合(EU)は、ロシアがウクライナでの戦争遂行のために、軍用ドローンの操縦支援としてビデオゲーム用機器を使用していることを懸念している。欧州委員会副委員長カヤ・カラスは、ロシアにビデオゲーム関連のハードウェアが流通するのを防ぐために、新たな制裁措置の導入を検討していると述べた。
 「我々は、ロシアがこの戦争を遂行するのに役立つあらゆるものを徹底的に調査しており、それらを制裁対象リストに載せるつもりだ」と記者会見で語った。「たとえば、ドローンの操作に使われているとされる、ビデオゲーム用のコンソールさえも対象である」

 また、フィナンシャル・タイムズ紙によれば、今回の禁止措置には、ゲームコントローラー、フライトシミュレーターのコントローラー、ジョイスティック、そして空中ドローンを遠隔操縦する際に利用できるその他の入力デバイスも含まれる見込みである。
 2022年3月、マイクロソフト、ソニー、任天堂は、ロシアによるウクライナ侵攻を受け、ロシアへのビデオゲーム販売をすべて停止した。しかし、第三者の業者や中古市場を通じて、ビデオゲーム機器が依然としてロシアに流入しているようだ。制裁が実際に施行された場合でも、中国が主要なビデオゲーム機器の生産国であることから、ロシアが依然として必要な物資を調達できるため、効果には疑問が残る。
 一部の証拠によれば、ロシア兵はNintendo Switchなどの家庭用ゲーム機のコントローラーを用いて軍用ドローンを操作しているとされる。一方、ウクライナ兵は機関銃の遠隔操作にゲーム機、例えばSteam Deckなども活用している。

ロジクールのゲーム用コントローラーで偵察ドローンのorlan10を操縦するロシア兵
steam deckでAI物体検出付リモート操作機関銃を操作するウクライナ兵。ゲームが兵器化する時代が来た!

コメント
 
冷戦期の輸出管理(今日の安全保障貿易管理)では、共産圏諸国への技術や製品の移転管理を実施する上で、その方針をしばしば変更させてきた。冷戦崩壊後は大量破壊兵器不拡散が政治的な課題とされたため、WMD製造にかかわる技術や製品の管理が中心となったが、それ以前は共産圏諸国の軍事能力のキャッチアップを妨害するため、特定の技術の優越性を維持するための管理が実施されていた。
 そこでの原則の一つに、対外入手可能性(foreign availability)と一般市場規定(mass market provision)が重視された。これらは、管理対象の技術や製品の多くは汎用技術(dual use technologies)であったため、共産圏諸国が代替入手先を確保し、また市場で一般的入手される製品を管理対象にするのは無意味である、との考慮を政策に適用した。この原則に基づいて、管理する必要がない技術や製品は、規制対象から外されたのである。
 安全保障貿易管理の歴史を振り返ると、たとえ規制を強化しても、ロシアが何らかの手段で入手可能なのであれば、規制対象に加える意味はない。しかし、それを踏まえても、あえて規制対象に加える理由として、3つ考えられる。
 まず、ハードパワーに象徴される軍事能力ではなく、訓練などを含めた運用能力を標的にした規制を導入する必要がある、というものである。戦争のあり方が変化し、それに向けた準備のあり方が大きく変化している中で、ゲームなどを通じてシミュレーションや訓練が可能になっている。もしゲーム関係品がそれに貢献するのであれば、規制のあり方を根本的に変化させる必要が生まれる。
 次に、象徴的な姿勢である。たとえロシアが必要な製品や技術を第三国等から入手することが可能であったとしても、従来の規制制度の「抜け穴」を埋める姿勢を示すことは、政治的な意義が大きい。ロシアの運用能力を標的にすることは難しいが、冷戦初期に包括的な輸出管理を実施した経験を持つ欧州諸国は、敵対勢力にメッセージを伝える上で、象徴的な制裁を加えることの重要性を理解している。
 そして、輸出管理をめぐる政治方針の変化、である。冷戦後のWMD不拡散を前提とした輸出管理から、戦略的な考慮や経済安全保障を目的とする輸出管理への移行は、その必要性が指摘されながら、各国はその転換をどのように進めるかについてのコンセンサスはなかった。ロシアに対するゲーム製品の移転管理は、輸出管理の転換を推進するために、適切な機会を提供した。
 このように、ロシアに対するゲーム関係製品の移転管理強化の検討の背後には、様々な政治的考慮が検討されているのであろう。この見当がどのような結果につながるのか、注目していく必要がある。(以上、拓殖大学海外事情研究所所長 佐藤丙午)

佐藤丙午教授近影(出典:海外安全危機管理の会)

 記事にもあるように例えゲームコントローラのメーカーが欧州だとしても現行の生産において以前ほどではないが、やはり中国の存在は欠かせない。例えEU、欧米が足並みを揃えて規制したとて公式非公式関係なく、ジェネリック製品も含めゲームコントローラはゲームそのものより流入は防ぎようがない状態にある。
 仮にゲームコントローラとセットでフライトシミュレータなどを規制するのであれば、いっそのことFPSなどを中心としたオンラインゲームそのものを配信せず、オンラインサーバに徹底的にアクセスさせない、を強固に実施してロシア国内でゲームそのものをアングラに追いやった方が先々考えて効果的だろう。これはゲーマー人材が従来の軍人を打ち砕く事がウクライナ戦争の様相を見ても明らかだ。

巷に溢れる汎用コントローラ@Amazon

 佐藤丙午さんの言う規制の在り方を根本から変える方法としては、汎用品として流通しているモノがこんな事に使える!といった技術的かつリアルな示唆と政治的考慮のセットアップでガチっと囲い込んだら面白い。任天堂、ソニーカプコン、セガ、という世界的なゲーム産業大国である日本だからこそ先導する意義は大きい。そう、それはかつてソ連崩壊への導いた米国主導のカルチャーの兵糧攻めあってのMonsters of Rockや欧米系ファストフードチェーンなどを与えていくデカルチャー作戦の再来なのかも知れない。(以上、量産型カスタム師)

In 1991, Metallica performed in Moscow at a military airfield. With a staggering attendance of over 1.6 million people, the concert set a record at that time and was hailed as a symbol of democracy and freedom.

空母で働くドローン達ー各国で試験・運用が目撃される空母搭載型ドローンー

概要
The War zoneに2025年2月6日掲載(記事本文)・・・・①
原題 "Iran’s Wacky Aircraft Carrier Has Entered Service"
The War zoneに2025年1月28日掲載(記事本文)・・・・②
原題 "Spain Wants To Convert Its Aircraft Carrier For Drone Operations"
BREAKING DEFENSE が2025年1月28日発表(記事本文)・・・・③
原題 "MQ-25 will fly in 2025, fly off carriers in 2026, says Navy’s air boss"
The War zoneに2024年11月19日掲載(記事本文)・・・・④
原題 "TB3 Operates From Turkey’s ‘Drone Carrier’ Amphibious Assault Ship For The First Time"

要旨
①イランのドローン空母の要旨:イラン・イスラム革命防衛隊(IRGC)は運用を開始した新型ドローンキャリア「シャヒド・バゲリ」の最新映像を紹介した。商用コンテナ船を改造したこの艦は、約180メートルの飛行甲板にスキー・ジャンプやアレスティング・フックを備え、無人機の発着艦を実現している。改造型のアバビル‑3ドローンは、ターボジェットエンジンを搭載しており、短い飛行甲板でも安定した運用が可能である。

イランのドローン空母は多様なドローンを積載しており、海自の先を行く

 さらに、イランが独自に開発した戦闘機であるQaher 313の無人型と見られるドローンや、有人ヘリコプターも搭載可能と見られている。注目すべき点は、船体の両側から小型ボートを発進・格納できることであり、ミサイル艇やUSV等の運用能力があるのてはないかと指摘される。
 艦自体も対艦巡航ミサイルや自衛用武装を装備している。今後、イランはこの艦を用いて、ドローンや他の兵器システムを組み合わせた多様な作戦展開を狙い、従来の航空母艦とは異なる新たな海軍戦力として、国際的な軍事バランスに影響を与える可能性が示唆されている。

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