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心の中に薬箱をもつ

「私、時々すごく死にたくなるんです」

去年高校を卒業して、うちで働き始めて半年のスタッフが、話があると言ってきた。
彼女にはメンタル疾患があって、定期的に死にたい衝動になるんだと告白された。頭の中の声が、それを指示すると、抗えなくなるのだと。

高校生の時から始まって、今では上手にそれと付き合えるようになった様子。
死にたい気持ち、死ぬように指示する声が、大きくなると、カウンセラーと相談して2週間ほど病院に入る。その間のリズムある暮らしと、まわりからの見守り、などで、自分を取り戻すきっかけになるのだと言う。

そろそろ今、病院に入るタイミングがきているから2週間の休みが欲しい、という話だった。(ということは、今、とても死にたい気分なのだということで、従業員用に置いてある、救急箱の中の痛み止めを全部、飲んでしまったのは自分だと、それも告白してくれた)。

何と、まあ!
童顔の彼女の、可愛らしい丸顔を、私は見つめた。
紫色に染めたおかっぱ、
手作りのネックレスをじゃらじゃらまとった彼女は、お金を貯めて、ニューヨークでアートを学びたいのだと、初めて会った時に話してくれたっけ。


「ぜんぜん、気づかなかったわよ、あなたがそうだったなんて。
毎日笑顔で一生懸命仕事に励んでくれていたから。
あなたの笑顔がうちのお店にあると想像しただけで、私はいつも嬉しくて、感謝していたのよ、
ありがとね、
自分のことで精一杯なはずなのに、たくさんの笑顔をうちのお客さんに与えてくれて。」

そう言って、私は彼女を抱きしめた。

私に話すのも勇気が必要だったようだ。
彼女は涙を滲ませて、ほっとしたような笑顔を私に向けた。

高校の時に始まったそれと、こうして付き合えるようになるまでには 色んなことがあったらしい。

病院やカウンセラーの助言も聞かずに、自分がどんどん壊れていくのを発見してきた。
現在は、自分に今、何が必要か、それを分かって実行できる。客観性が持てるようになったのは、本当に素晴らしい。
自分へ与えられたサポートを、うまく活用できる彼女は立派に自立していると思った。

しばらく二人で色んな話しをした後で、私はふとこんなことを言った。

頭の中の声なんて、誰にでもあるものなの。あなたが聞こえるほどにはリアルじゃないけどね、自分を責めたり、意地悪な声がすることはあるのよ。

私は心の中に薬箱を持っていて、そんな声にはいつも薬箱から言葉を取り出して自分を取り戻すの。

自分がどんなに素晴らしい存在かを、思い出させてくれる言葉や、どんなことが起こっても、自分を安心させてくれる言葉をね。

心の薬箱!
彼女の瞳が輝いた。
私も、それ、やりたい、薬箱持ちたい。

じゃあ、薬箱に入れる言葉や、アフォメーションをいっぱい集めてね。きっと楽しいわよ。ネットで探せばいっぱい出てくるから。
「自分を愛する言葉」で探してみて。


それから3日後、
彼女から、明日から病院に入ります、と連絡があった。

2週間の間に 彼女が自分の薬箱に入れる、キラキラした言葉をたくさん見つけるといいな。
自分の選んだ言葉を信じる、強さが、今の彼女にはきっとあるのだと思う。
でなければ、心の薬箱に興味を示すはずはないのだから。

ネックレスを手作りするように、その言葉たちが宝石となって、彼女のまとうものとなりますように。



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