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お風呂日記/信頼の中で。

半月が空に浮かんでいる。
それが、今夜はとても遠い。

手を伸ばして引き寄せてしまいたい。

肉体的にも忙しい一日だったけれど、
長く働いてくれている、年配の人とのミーティングがこたえたのかなあ。

今回は、言いたいことを言った。
もう彼女のストーリーを聞いてはいられなかった。

毎回誰かをターゲットにして、不信感を露わにする。
証拠はない。
「ユニバースからのサインよ、私には分かるの」

そういった思い込みに、これまで丁寧に付き合いながら、「事実」に気づいてもらっていたけど、今日の私にはそこまでの忍耐も、そうしたいという意欲もなかった。

彼女が確信する、ユニバースからのサインにはイラつくくせに、
私は天使にお願いする。

どうぞ彼女が疑惑という思い込みから自由になって、曇りのない事実が彼女の目に明らかになりますように、と。

「あなたからギフトに貰ったマグカップが壊れたのよ、これはサインじゃない?もうここを離れるべきだって?」
そう囁くように言う彼女に、私は答えた。

「その通りだと思うわ。」

私は彼女の、ユニバースからのサインにのっかることにした。

「あなたはとっても良くやってくれてるけど、
この仕事は、重労働よ。私だって、もうできない。営業時間中は店を走りまわって、それが終わったら後片付け。大変過ぎるのよ。もっとカラダに楽な仕事を探すべきよ」

年上の彼女に日頃感じていたことを正直に言ってみた。

でもそれは、彼女の期待していた返事ではなかったらしい。
今度はどんなにこの仕事が好きで、続けていきたいかを話し出す。

そうやって、お互い言いたいことを言い合えば、あとは流れに任せるだけ。

私たちは25年近く、お互いを知っている。
私たちの子供達は同じ世代で、同じ小学校に通っていた。
いつも変わらない笑顔を向けてくれる彼女のことを、私の子供たちは大好きだった。

そしてこれまでに、彼女は幾度となく、その薄紫色のオーラで私を抱きしめて励ましてくれたこともあった。


彼女の疑惑というストーリー、自分が被害者だというドラマが、差し挟まることのない、システムを店に構築することが私のミッションだとつくづく思った。

けれど、色々策を練っても、彼女はどうしても自分を「被害者」にしてしまいたい傾向がこの1年くらいあった。

一緒に働く仲間を 疑心暗鬼の眼差しで見ながら働くなんて、そんなことを自分に課さないで欲しい。
それがどんなに自分の心に 重さと影を落とすのか、彼女は気づいているのだろうか。

どうしても疑いが晴れないのなら、いっそのことこの場から離れた方がずっといい。
ひょっとすると、彼女のユニバースからのメッセージは本当かもしれない。



そろそろまた、彼女をこのお庭の露天風呂に招待しよう。

仕事を離れたところから、互いの立場なく話した時、私たちはもっと自由になって、心から触れ合える。

そんな軽さを、彼女に思い出して欲しいし、私もそこに一緒にいたい。

どんなネガティブな感情が起ころうとも、何が私たちの前に立ちはだかろうとも、ぜんぶひっくるめて受容できるだけの信頼が、私たちにはある。
誰にでもある。気づいていないだけで。

個人的な信頼を超えた、大きな信頼の海の中にあることを思い出して、私は彼女の話に耳を傾けたい。




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