新年の抱負ではなくて感謝を
「明けましておめでとう!」
友人からメッセージが入った。
久しぶりに雨がやみ、今日は気持ちのいい、晴天だった。
庭の、お腹が山吹色の鳥、初めての来客を眺めながら、私はお茶を飲んでいた。
「明けましておめでとう?」
日本人の彼女とは、今年に入って何度も話していて、とっくに新年の挨拶も済ませたはずだったのでは?
そう、メッセージを返すと、
「ルナー・ニューイヤー。旧正月でしょう、今日。」
そうだった、そうだった!
ぼんやりしてたアタマの中が、急にピントを帯びた。
旧正月ね、だからこんなに空気がきれい。
先週は、たくさんのお客様から、
「Happy New Year」の挨拶を貰っていた。
こちらでは、太陰暦にパワーを見出す人が多いのか、違うカルチャーに敬意を払う気持ちからなのか、旧正月は何かと話題になる。
お年玉、と赤い子袋(日本でのお年玉袋)に、1ドルを入れて渡してくださる常連さんも。
だから私も普通に、「Happy New Year」と返すけれど、日本はアメリカと同じ、1月1日をお正月として祝いますよ、と伝えるとたいていの人はびっくるする。
中国だけでなく、韓国、台湾、ベトナム、マレーシアと旧正月を祝う多くのアジアの国の中に、日本だって入っていると思われるのも仕方ない。
もう、日本は150年も太陽暦なのよ、と言うとかなりがっかりされる。
アメリカナイズされるんじゃないよ、と(笑)。
「個」を大切にするアメリカでは、「オーセンティック」という言葉がよく聞かれる。
人へ向けて使われるときは、自分をよく知り、考えや、価値観など、「その人らしさ」を貫いている人へ。
オーセンティックであることは、その人の本当の幸せに他ならないし、それによって社会も豊かなはず。
アメリカ人からしてみれば、太陽暦にしてしまった日本はオーセンティックの要素を一つ、失ったことになるようだ。
レストランにおいては、オーセンティックな日本食、とか。「本物」の日本食、という意味で使われる。アメリカナイズとは真逆の言葉。
うちは、オーセンティックの日本食レストランではない。
おスシには、クリームチーズや、ガーリックや、マンゴーソースなど、様々なソースがかけてあるものもあって、おスシ(巻きスシ)の範疇を超えている!
様々な味と触感が合わさった、こういったおスシは、カリフォルニアスタイルとして、こちらでは定着している。
うちでは、スタッフやお客さんの好みの組み合わせを聞いていくうちに、出来上がったメニューの数々が喜ばれて定着した。いつも、「答えはお客さんが出してくれる」、そうやってお店は舵をとってきた。
日本に比べれば、魚の種類も少ないので、そういったアメリカナイズされたおスシはバラエティに富んで、しかもクリエイティブ、見た目にも楽しくて、とても美味しい。
ベジタリアン人口も多いので、カシューナッツや、バジルを使ったソースで野菜の巻きスシも盛りだくさん。ベジタリアン、ビーガン向けのレストランサイトにも紹介されて、それで旅の途中に寄ってくれる人も多い。
ふつうに、日本ならではのメニューもあるから、「オーセンティック」と、勘違い(?)されることもあるけれど、
看板には、「カリフォルニアスタイル」と、ちゃんと書いてある!
でも、まさにこれがうちのお店らしいな、と感じる。
「日本食」ということではオーセンティックではないけれど、「店」としての個であれば、唯一無二のオーセンティックではないかと自負しているのだ。
そうやって、お店は、今年7月で20年を迎える。
来月には地元のミュージアムで、「海藻の世界」というテーマで、展示が始まるので、そのオープニングにうちのおスシを提供して欲しい、と打診があった。
125人のゲストが集まるそのイベントで、どんなおスシを出せるのかな。
クリエイションのプロセスがどのように開いていくのかを考えると、楽しみでしかたない。
これまでも、たくさんの人の手や、アイデアで、お店が育ってきた。
時代が今、風の時代、と言われるようになって久しい。
努力して、大変な思いして、頑張って、
と、いうよりも、
やってくる状況に心を開いて、流れを信頼して、出来ることをやっていくスタンスが、しっくりくる。
だから、日々の営業だけでいっぱいいっぱいだけど、望まれているのであれば、一緒に何かをやるのは楽しいから、やりましょう!と言えるね。
今年も、たくさんの笑顔を見ることができますように。
お店という場所がなければ、
私は、こんなにも多くの笑顔に、今までも、これからも出会うことはなかった。
ありがとう。
ルナー・ニューイヤーの今日、
新月の力に委ねて。