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午後のスタバで涙ごと飲み干す。

お気に入りの麦わら帽子をかぶり、次男を抱っこ紐で固定して準備完了。散歩がてら少し遠くにあるスーパーを目指した。

…のだが、あっさりと暑さに負けて途中のTSUTAYAで涼をとることにした。気になる短編小説集があったのでそれを買い、隣のスタバで冷たいものを飲みながら束の間の読書。

一作目、カバータイトルでもある「海の見える理髪店」。50ページにも満たない短編小説で、海辺の僻地に佇む床屋の男性とそこにやって来た若い男性客のやり取りを描いた物語だ。

と言っても、しゃべっているのはほぼ床屋の亭主のみで客はもっぱら聞き手に徹する。よって読者は亭主の独白を聞いているような気分になる。リズミカルな鋏の音を合いの手に、自分も髪切られ耳澄ましているような錯覚に陥りながら。

亭主が語るのは取り立てて悲しむべき要素のないひとりの人間の半生ではあるのだけれど、最後の最後にちょっとしたどんでん返しがあって、私は俄かにこみ上げてきたものを薄くなったホワイトモカと共に飲み干さねばならなくなった。

こう来たか。これが直木賞なるものを受賞した所以か。

ふたりの男が〝亭主″と〝客″として出逢い別れるまでの束の間のドラマ。ドラマチックという言葉とはほど遠いけれど、愛を素朴さでコーティングしたような、体に優しいスウィーツがここにある。

ふぅ。寄り道して良かった。

心も満ち足りたことだし、二作目はお預けにしてそろそろ店を出ようか。



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