No.12 雨季の奇跡
雨季だというのに、全く雨の降らない日が1週間続いている。乾いた大地は熱を吸い込み、木陰さえも焼けるような暑さを帯びていた。
私達は、世界から隔離されたような、ゲストハウスのテラスで日々を送り、飽きたら遺跡巡りや市場での買い物を楽しんだ。みんなでバンコクへ日帰りで遊びにも行った。そして、夜になると川沿いのナイトマーケットで酒を酌み交わし、星空の下で語り明かした。
ゆかと清美がロータスに買い物に行った夜、龍太郎とTee、そして私は庭にゴザを敷き、屋台で買ってきたガイヤーン(焼き鳥)をつまみながら夜風に身を任せてビールを飲んでいた。隆もどこかへ出かけている。ンゴとアユムはナイトクルージングに出かけた。
その夜の龍太郎との会話が、私の心に新たな気づきをもたらすことになるとは、思わなかった。
唇を照からせながら、鳥の骨にかぶりつき龍太郎は、
「隆は毎晩ゆかを誘っているけど、彼女の心は、なおやにあるよ。なおやを見る時の彼女の目は、俺たちと話すときとは明らかに違うんだ。」
と言った。
その言葉に、私は驚きとともに言葉を失った。ゆかの心の変化に、私はまったく気づいていなかったのだ。
翌日、私はゆかの視線を意識せざるを得なくなった。龍太郎の言葉が頭から離れず、しかしどう接していいかわからない。そして、そんなことも知らずに隆は相変わらず、ゆかを誘惑している。どうにか部屋に連れ込もうとしているようだ。
その晩も私たちは再びナイトマーケットで食事を楽しんだ。しかし私の心は、昨夜の龍太郎からの告白に戸惑い、芽生えた感情を持て余すのだった。
私たちの未来がどうなるかはわからない。ただ、遠い異国の地で出会った私たちは、PSゲストハウスで日々を過ごすうちに家族のように感じていた。
突然、チャオプラヤー川に冷たい風が吹き始め、雷雨が響き渡り、星空は雲に覆われた。乾いた大地に、待ち望んだ雨が降り始めたのだ。私たちは大粒のスコールに打たれながら、生命の息吹を感じ楽しんだ。そしてこの雨は、新たな物語の始まりを告げているかのようだった。
「明日、どうするんだ、なおや。」
屋台のパラソルの下、雨音に声をかき消されないように顔を擦り合わせるようにして、龍太郎は聞いてきた。
次の日、私たちはそれぞれの道を歩み始めると決めていた。旅は出会いと別れがあり、共に過ごす尊さを教えてくれる。