見出し画像

No.16 観覧車

 龍太郎がラオスへ向けて旅立った。「ちょっとそこまで」といった風な感じで、フラッと自転車に荷物を乗せて。
 私たちも、いろいろな所に寄りながらアユタヤを目指して出発することにした。
ンゴとアユムは寂しそうに、
「また、絶対に来てくださいね。」
と、それでも笑顔で見送ってくれた。
 タットパノムまで600キロ。バスの外に広がる風景は、まるで絵画のように美しく、鮮やかな緑の田園が広がっていた。
 メコン川に近いNIYANAゲストハウスのドミトリーに宿泊した。小さな町で、歩道を歩いている人はまばらで閑散としていた。ラオス風建築で建てられた寺院が有名だというので、観光をして夕食をとり、宿までの道のりをメコン川の風に吹かれながら散歩していた。街灯もない夜道に、幻のように遊園地が現れた。6カゴしかない観覧車に手の届きそうな所から滑落するジェットコースター。メリーゴーランドにも馬が5頭しか走っていない。それでも、子供達は嬉々として走りまわり親の手を引いていた。私たちは、終わりかけで人影もまばらな手動観覧車に乗り、綿菓子を手にした。ゆかとの微妙な関係が、ほんのりと暖かく、そして少し寂しく感じられるひと時だった。
 次の日、メコン川沿いをウボンラチャタニーへ南下しRIVER MOONゲストハウスへ泊まる事にした。
 地図に載っていたゲストハウスは、高床式のロッジ風で、ここ内陸の街には少し異質な雰囲気を醸し出していた。店員はアロハシャツを着ており、
「ハロー。チェックイン?部屋はどうする?ダブルベットルームでいい?」
と尋ねてきた。私は戸惑いながらも、
「あ、いや、シングル2部屋で」
と答えた。ゆかと目を合わせたが、彼女の心は読み取れない。
 店員は、
「OK!ちょうど空いたところだったんだ。ラッキーだったね。」
と言った。しかし、私の心はラッキーとは程遠かった。

 夕方までお互いの部屋で休憩し、食事に出かけた。タイのナイトマーケットは、観光地でなくても活気に満ちている。私たちは、賑やかなところを避け、昼間見かけた静かな食堂で、昨夜のことや明日の道のりのことをビールを傾けながら話していた。その時、暗闇から現れた巨大なゾウに驚かされた。象使いが、餌のバナナを買わないかと勧めてきたのだった。そして、通りを行き交う車を縫うように現れたゾウは、ゆかの手から器用にバナナを受け取り、1房を口に放り込んで去っていった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?