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マッシモ・デ・カルロ ギャラリー(Galleria Massimo De Carlo):ミラノが誇るポルタルッピ建築を利用したギャラリーがここに

ミラノのポルタルッピ建築といえば、ヴィラ・ネッキ・カンピリオ(Villa Necchi Campiglio)が有名であるが、このヴィラと同時期にポルタルッピによって建てられた邸宅が、チッタ・ストゥディ地区にある。

それは、カーザ・コルベリーニ=ワッセルマン(Casa Corbellini-Wassermann)であり、ドイツの製薬企業家アウグスト・フォン・ワッセルマン(August von Wassermann)の邸宅として、建築家ピエロ・ポルタルッピ(Piero Portaluppi;1888-1967)によって、1934年から1936年にかけて建てられた。

オーナーである製薬企業家ワッセルマンとその家族が住む居住スペースは1階と2階に、その上は賃貸マンションにというように集合住宅として設計されたこの建物。

ところがワッセルマンは完成前に亡くなった後に、彼の娘は、著名なエンジニアのコルベリーニと結婚。

コルベリーニ家がこの建物を維持することになったために、この建物は、カーザ・コルベリーニ=ワッセルマン(Casa Corbellini-Wassermann)という名前で呼ばれるようになった。

邸宅のファサードは、グレーとピンクのオルナヴァッソ大理石で彩られており、庭側には大理石とコンクリートで作られた螺旋階段がある。


またこの螺旋階段は、第5回ミラノ・トリエンナーレ(1933年)に出展された「土曜日の結婚式の家」(Casa del Sabato degli Sposi)の一部であった。

邸宅の1階には、各地から取り寄せられた緑や白、赤やオレンジなどの貴重な大理石がふんだんに使われている。

このように内装も外装も豪華なこの建物は、1990年代までコルベリーニ家が所有した後、銀行のオフィスとなったが、2001年に放棄されてしまった。

(壁の模様も1930年代の建設当時のものをなるべく残す形で修復)

2019年、マッシモ・デ・カルロ ギャラリー(Galleria Massimo de Carlo)は、そんなカーザ・コルベッリーニ・ワッセルマンの修復をミラノの建築事務所に依頼し、ここにギャラリーの事務所と展示スペースを移した。

ポルタルッピが建てたカーザ・コルベリーニ=ワッセルマンを修復するにあたり、ミラノの建築事務所スタジオ・ビノクレ(Studio Binocle)のロレンツォ・ビーニ(Lorenzo Bini)は、建築家アントニオ・チッテリオ(Antonio Citterio)とともに3年にわたる修復プロジェクトに取り組んだ。

(アールデコ様式の邸宅によく見られる暖房器具)

このプロジェクトでは、ミラノ市当局と協力して、ファサードや内装などのポルタルッピがデザインした本来の華やかな特徴を損なわないように改修を行った。

もともとダイニングサロン、ラウンジ、ベッドルームといった家のオーナーによって使われていた主要な居住スペースは、展示スペースとして生まれ変わった。

また縞模様の大理石の床がある大きな廊下は、この家の主人が住むスペースと、奥にある使用人の部屋、台所、家庭教師の部屋とを分けるものであったが、今ではこれらのスペースはつながっている。

さらにスタジオ・ビノクレは、廊下にあるオリジナルのテンペラ画の洗浄と補修に気を配ったほか、ポータルッピの贅沢な混合大理石の装飾は見事にそのまま残されている。

またスタジオ・ビノクレは、庭に続く螺旋階段というこの特徴をギャラリー内部にも反映させるため、内部階段も同じような形の螺旋階段に取り替えた。

2001年にこの邸宅が銀行としての機能を失い、放棄された後に15年以上も放棄されていたのは悲劇に思えるかもしれないが、修復を担当したスタジオ・ビノクレは、邸宅が悪人の手に渡っていたら、ポルタルッピ建築の美しさが失われていたかもしれないというコメントを出している。

綿密な修復を経て、ようやく近代建築の価値が表立って認識されることになったのであった。

このようにポルタルッピの名作を現代に蘇らせたマッシモ・デ・カルロギャラリーはどのようなギャラリーなのであろうか。

マッシモ・デ・カルロ ギャラリーは、1987年の創設当初は、ジョン・アームレダー(John Armleder)、オリヴィエ・モッセ(Olivier Mosset)、フェリックス・ゴンザレス=トレス(Felix Gonzalez-Torres)など、イタリアではあまり知られていないアーティストに焦点を当て展示を行ってきた。

その後、アリギエロ・ボエッティ(Alighier Boetti)、キャディ・ノーランド(Cady Noland)、マウリツィオ・カテラン(Maurizio Cattelan)などの著名なアーティストの展示も行うように。

本ギャラリーは、1987年の創設以来、30年以上にわたり、絵画、ドローイング、インスタレーション、彫刻、写真、パフォーマンス、ビデオなど、ジャンルの垣根を越えて、様々な分野のアーティストと、批評家、キュレーター、コレクターとの関係を豊かにすることを試みることで、現代アートシーンにおいて基本的な役割を果たしてきた。

2019年に修復完了後のカーザ・コルベリーニ=ワッセルマンにおいて行われた最初の展覧会MCMXXXIVでは、ポルタルッピがこの邸宅を建てた時代と同じ、1930年代の作品が主に展示され、人々の話題の的となった。

古い建物の価値を損なうことなく、次の世代に伝える形で活用するギャラリー マッシモ・デ・カルロ。

世界的に注目を集めるアーティストの展示も定期的に開催されているので要チェックである。


ギャラリー マッシモ・デ・カルロ(Galleria Massimo De Carlo)/
Casa Corbellini-Wassermann

住所:Viale Lombardia, 17, 20131, Milano, Italy

開館時間:11:00-18:30(火曜から金曜まで)

公式ホームページ:


参考:
「Studio Binocle brings a 1930s Piero Portaluppi apartment to life for Massimo De Carlo」『wallpaper』(2022年10月10日付記事)

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