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フェデリーコ・バロッチ(Federico Barocci)作の『聖シモンの聖母』(La Madonna di San Simone):ミラノのマリーノ宮で毎年開催、クリスマスシーズン限定の特別展
ミラノのマリーノ宮(Palazzo Marino)では、毎年12月から翌年の1月にかけて、クリスマスシーズンに合わせて、イタリア各地の文化施設から貸し出された作品が無料で公開される。
ミラノ市が、イタリアの大手銀行インテーザ・サンパオロ(Intesa SanPaolo)やミラノの百貨店のリナシェンテ(Rinascente)の支援を得て、毎年開催しているこの展示。
普通の美術館の展示と異なる点は、展示されている作品は毎年1点から数点ほどである上に、イタリア語ではあるがガイドの人が10分程度の説明をしてくれるということである。
美術館というと、多くの作品が展示室に並び、見て終わる頃にはへとへとということも多いが、この展示は、作品に集中して鑑賞することができるのもポイントである。
毎年、マリーノ宮で開催されるこの展示は、今やミラノの人々にとって、クリスマスの季節を彩る美と献身に触れる機会となっている。
過去のnoteでも何度かこの展示について紹介している。
毎年、「今年はどのような作品が来るのだろうか」と楽しみな展示であるが、2024年12月4日から2025年1月15日にかけて開催された展示では、フェデリーコ・バロッチ(Federico Barocci)作の『聖シモンの聖母』(La Madonna di San Simone)が展示された。
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1566年から1567年にかけてバロッチが作成したこの祭壇画は、279x187cmというとても大きなもの。
今回ミラノ市は、ウルビーノの国立マルケ美術館からこの傑作を本展のために借り受けた。
ラファエロ(1483-1520)と同じウルビーノ生まれのフェデリコ・バロッチ(1533-1612)は、ジョルジョ・ヴァザーリにも「期待の若手」(giovane di grande aspettazione)という評価を受けており、若い頃はローマで活動した。
ところがラファエロが若くしてローマで活動することを選んだのに対し、フェデリーコ・バロッチは30歳で、生まれ故郷のウルビーノに留まるという決断をした。
参考:
こちらは木炭と白チョークによって描かれたバロッチのスケッチ。
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ウルビーノでの活動の中でバロッチは、パトロンであり友人でもあったウルビーノ公フランチェスコ・マリア2世デッラ・ローヴェレ(Francesco Maria II della Rovere)の力添えもあり、自身の作品を通して、当時の様々な権力者とも関係を築いた。
また1595年以降、バロッチは、ミラノの枢機卿兼大司教であったフェデリコ・ボッローメオ(Federico Borromeo)のお気に入りの画家の一人となった。
この枢機卿は、自分のコレクションを充実させるために多くの画家を登用し、ミラノを国際的な芸術に開かれた都市にしようとした。
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フェデリーコ・バロッチは、フレスコ画、宗教画、肖像画、そして世俗画も描いているが、彼の代表作として知られているのは30点ほどの祭壇画である。
今回、ミラノにやってきた『聖シモンの聖母』は、1567年頃に描かれたとされておりウルビーノのサン・フランチェスコ教会第7礼拝堂の祭壇の上に飾られていた。
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この作品には、聖母の右側に殉教の矛を持つ聖ユダ・タダイ(San Giuda Taddeo)、そしてこのタダイとペルシアで殉教したとされている聖シモン(San Simone)、そして聖母子が描かれている。
このシモンは、彼を拷問した者が彼を殺すために使った鋸を持っている。
幼いキリストに読書を教える聖母は、慈愛に満ちた表情で柔らかに描かれている。
またこの主題に加え、右下には教会にこの作品を寄贈したパトロンの肖像も描かれており、この聖なる場面に生き生きと参加している様子が表現されている。
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ちなみに本展が行われているマリーノ宮は、ファッションブランドのトッズグループ(TOD'S)が支援する形で修復工事が進められているとのこと。
イタリアに滞在していると、自治体や企業が主体となって、街の歴史的建造物や芸術を保護し、発展させ、次の世代につなごうとしている精神を様々な場面で感じることができるのである。
フェデリーコ・バロッチ(Federico Barocci)『聖シモンの聖母』(La Madonna di San Simone)
会場:マリーノ宮(Palazzo Marino)
住所:Piazza della Scala, 2, 20121 Milano, Italy
会期:2024年12月4日から2025年1月12日まで
公式ホームページ:comune.milano.it
参考:
・「トッズ グループがミラノ市庁舎のマリーノ宮の修復をサポート」『The Rake』(2023年12月2日付記事)