6.デンマーク教育視察レポート|キャリア支援センター(Studievalg 学びと就労のガイダンスセンター)
2022年8月13日〜22日に、北欧のデンマークとフィンランドの2カ国に、教育視察(概要のnote記事はこちら)に訪れました。
子連れなら子連れなりの学びもあるのではないかと思い、思い切って2歳の息子を連れて行ってきました。
今回はデンマークのStudievalg=学びと就労のガイダンスセンター
https://studievalg.dk/の視察についてレポートします。
国営でキャリア支援をしている機関で、どのような対象者にどのような支援をしているのか。また、支援の中でスタッフが大切にしていることなどについて伺いました。
Studievalg(学びと就労のガイダンスセンター)とは
Studievalg(学びと就労のガイダンスセンター)https://studievalg.dk/ は、
進学や就職、キャリア支援をする国営機関。
Ministry of Higher Education and Science(高等教育科学省) 日本でいう文部科学省の管轄です。
2つのキャリアガイダンスセンター
2004年にガイダンスに関わる法改正があり、その際にキャリアガイダンスを担う2種類の機関が設けられました。
1つは、
若者教育ガイダンスセンター Ungdomens uddannelsesvejledning Centre(通称UU)。
もう1つが今回視察に訪れた、
研究選択センター Studievalg(学びと就労のガイダンスセンター)。
です。
若者教育ガイダンスセンターUUは、義務教育から青年期教育への移行を。
Studievalgは、青年期教育から高等教育への移行を。
それぞれの役割として担っています。
キャリア支援は国民学校6年生段階から始まり、全ての生徒がカウンセラーとの面談をし、進路選択に向けてのガイダンスを受けることができます。
デンマークの教育制度は、通常の教育制度(子供と青少年の教育)(※図右側) と継続教育制度(成人教育)(※図左側) の2本柱で構成されています。
キャリアガイダンスの2つの機関の支援は下の図のピンクとグリーンの矢印部分にあたり、2つの柱を横断的に支援しています。
※各名称の説明
EUX…職業教育資格と普通教育資格の両方を取得する機会を提供する学校
STX…普通高校/HHX…商業高校/HTX…技術高校/HF…2年制の学校
職員はどのような経験やスキルを持つ人か
大学でキャリアガイダンスの理論、実践を学んでいることが必要となっています。
視察したStudievalgでは、同等の知識・経験を持つ人も職員をしているということでした。
デンマークの学校には“進路指導室”を置いていない
デンマークには子供のキャリアガイダンスを担当するカウンセラー(vejleder)がいます。
日本のスクールカウンセラーを想像する方もいるかもしれませんが、vejlederは人間関係、家族関係などの相談には応じず、キャリアガイダンスに特化しているそうです。
法改正によるカウンセラーの資質向上
2004年の法改正の目的はカウンセラーの資質向上にありました。
当初は各学校の中にキャリアや進路指導室がありました。ガイダンスカウンセラーの多くが教科指導も兼任している学校の教師で、訓練を受けて所属学校のカウンセラーとなっていました。
生徒は学校内でいつでも相談できる良さがある一方で、
”先生は自分の経験の中でしか生徒への進路指導ができていない” 。
このような研究結果が出たことによって、
子どもたちのキャリアや進路指導を行う上では、幅広く子どもたちのニーズに対応できる体制を整えることが必要という判断がなされました。
このような背景から、ガイダンスカウンセラーがカウンセリングに特化した活動に専念できるよう、改正以前に国民学校に所属していたガイダンスカウンセラーを学校から切り離し、ガイダンスセンターに集約されました。
Studievalg(学びと就労のガイダンスセンター)での支援
誰を支援しているか
Studievalg(学びと就労のガイダンスセンター)では、
下記にあるように学生から成人までを支援しています。
どのような支援をしているか
支援プログラムの内容
個別の進路、キャリア、家庭の相談対応、またプロジェクト活動などの機会を提供しています。
・自己理解の促進
将来のイメージングや自己理解カードなどを実施しています。
・進路選択の支援
希望の進路を目指すための学校選定なども実施しています。詳細は伺えませんでしたが、親への進路指導も実施しているとのことでした。
これらは、学校での必須就労ガイダンス(Guidance in Highschool)の他、希望者への個別指導(20-30分程度)の形で行われています。
上記の他で大変興味深かったのは、
「ボランティアワークショップ」、「自主研究インターンシップ」、「地域のキャリア学習活動や同窓会イベントの提供」などです。
ワークショップやプロジェクトベースの様々な経験、そして他者との協働機会を通じてキャリアを考える機会が提供されていたことでした。
机上で考えるだけではどうしても自分の思考の範囲でしか考えることができません。
多くの人との出会いの中で、自己理解を深めたり、他者理解も進むことでしょうし、疑似的に社会の中における自己を経験できます。
このように机上だけではなく経験も題材に自分のキャリアを考えていく機会がメニューにあることは、手間もかかるでしょうが、よりよいガイダンスとして求められるものだと感じました。
ガイダンスカウンセラーの役割
支援の中で大切にしていることについては、“支援のコンセプト”として下記のように説明されました。
日本でも人生100年時代の社会人基礎力とも言われますが、進学、キャリアなど自身のキャリアオーナーシップを育んでいくためのマインドの醸成が支援されていました。
その他関連情報
・デンマークでは継続教育制度の機関で実務の技術も磨きます。そのため、会社には即戦力として採用されます。
・新卒一括採用で就職して経験を積み育成していくスタイルとは異なります。自分のキャリアは長期で形成していくもの、という感覚を持ち転職している人も多く、労働市場の柔軟性も高いのが特徴です。
・これらの背景には、デンマークのフレキシキュリティ政策も影響しています。雇用・労働市場の柔軟性が高く、そのかわり教育の無償化や、社会保障によって失業中の労働者の生活が守られる政策がとられています。
参考書籍
『転換期と向き合うデンマークの教育』
『デンマークのスマートシティ: データを活用した人間中心の都市づくり』
感想・学び
6歳から自身の進路、キャリア面のオーナーシップを育むことをエンジンに。その意思を教育無償化の制度の中で知識・技術習得や生活の費用をサポートし、労働市場との接続を果たしていく仕組み。
技術をつけて即戦力として入職していくキャリアパスは、個人にとっても即経験の場が得られ、キャリア形成がしやすいだろうと感じます。
ビジネスの変化も大きい時代にあっては、これからのビジネスに必要な人材を公費で育成してくれて企業に送り出してくれるなんて、企業にとっても大きなメリットだろうなと思います。
一方で、国民は辞めても生活費の保障や無償で仕事の技術を獲得できる。この恵まれた仕組みにあぐらをかくようなことはないのだろうか…とも思いました。
働き手が非常に恵まれているようにも見えます。(実際は、失業後の転職にむけては細かい実行計画を求められるなど楽ではないので、早くにつきたい人が多いようです)。
しかしながら、雇用の流動性が低ければ時流に必要なビジネスも育ってはいかない。人という資本を仕事を通じて社会の中で活かしていく長期的な戦略の中では必要なことなのだろうな、と頭で整理したりしています。