2023年コリアカップ・コリアスプリント観戦記
2023年9月10日(日)、韓国・ソウル競馬場で開催された第6回コリアカップ(ダ1800m)・コリアスプリント(ダ1200m)を現地観戦してきました。
思い起こせばこのnoteやX/Twitterを始めたキッカケが去年のコリアカップ・コリアスプリント。「これから1年かけて韓国競馬のことを勉強し、来年こそは絶対に現地観戦してやるぞ!」と思い今日まで過ごしてきましたが、今般その思いを果たすことができ今は大きな満足感でいっぱいです。
それでは、長文・駄文(約7100文字)にはなりますが今回の観戦記を以下の通り書き綴っていきます。
レース前
ソウル競馬場到着
朝10時ちょうどにソウル競馬場に到着。地下鉄4号線「競馬公園」駅から競馬場に続く歩道の装飾は思ったより地味でしたが、それでもオシャレなものでありこういうシンプルさも良いなと感じました。
韓国では入場者誘致のためか、大レースがある時はよく入場無料になるのですがこの日も無料ということでラッキー。入場門で「無料」と書かれた入場券を貰って早速中に入ります。
パドック大作戦
この日の番組編成はソウル10レース+釜山慶南6レース。韓国では両場間を日本のように同時間帯の10分差でレースを組むのではなく、1時間間隔の本場・他場のレースをほぼ30分おきに交互に組むようにしています。
具体的には、ソウル7Rコリアスプリント(15:25発走)はソウル6R(14:25発走)が終わってからの1時間後ですが、その合間に釜山慶南4R(14:50発走)を挟むという形です。
韓国の方々の大多数は他場の馬券も買いますのでその釜山慶南4Rを観るべく本馬場やスタンド内に籠っていることから、その間にパドックでの席取りをすれば良いだろうと思っていたところその読みは当たり、余裕で最前列の確保も可能でした。(ちなみに園田競馬場のようにパドックのビジョンでもレース中継は放映されます)
パドックは日本と違いちゃんとした座席が並んでおりベストは2列目か3列目かなと思うものの、しかし1列目や2列目で立ち上がるオッサンもいますのでこれがなかなか難しいところ。それならば5列目以降から角度を付け、且つズームを利かせて写真を撮る方が良いのかなとも思いました。手持ちの機材に合わせて場所を選ぶのが良いようです。
パドックの様子(7R コリアスプリント)
パドックの様子(8R コリアカップ)
それにしても、韓国のパドックは熱すぎる!
日本ではいまパドックで騎手が観客と意思疎通することは禁止されていますが、韓国では掛け声に対して騎手が頷いたり右手を上げたりする程度のことは許容されていますので、とにかく韓国の方々の声援が熱いこと。後ほどご紹介する騎手インタビュー動画にも出てきますが、これが川田騎手をして「パドックの盛り上がりは韓国が世界一」と言わしめた所以でしょう。
実際、多くの韓国の方たちが日本の騎手の登場に「카와다(カワダ)!」「사카이(サカイ)!」と熱い声援を送っていましたが、さらに印象的だったのは日本調教馬がパドックに出てきたときの反応。
出てくるやいなやみな詠嘆のため息を付きながら「うわぁ、日本の馬ってこんなにリッパなのか!?」「カッコいい!」「素晴らしい!」と口々に漏らしていました。(韓国はたてがみを短く切っている馬が多いので、それを風で揺らせながら歩く姿がサマになっているのではないかと思います)
レース結果
コリアスプリント(ダ1200m、3歳以上)国際G3/韓国G1
脚質的に最内の絶好枠を引いた①バスラットレオンですが、ハナを切ったのは伏兵的存在の⑬BEOLMAUI STAR(ちょっと綴りと異なりますが”ポルマエスター”と発音します)でした。ちなみに同馬は他馬への進路妨害というほどではないですが内へ切り込みスタート後100m区間のセパレートルール(直進義務)に違反したため、騎乗していたソ・スンウン騎手が来週2日間の騎乗停止処分を受けています。
3コーナーを過ぎてからは手が動き出したバスラットレオンに対し中団の内から進出してきた圧倒的1番人気(単勝1.3倍)のリメイクは持ったまま、直線残り250mからようやく追い出すと先行するBEOLMAUI STARとバスラットレオンを一気に抜かし、結局一度もムチを使わないまま2着に4馬身差を付けて圧勝。タイム1.10.0とコースレコード(0.4秒更新)が表示された時の場内のどよめきはスゴイものがありました。
なお、ワタシが買った馬券は印を付けた5頭の馬単ボックスと◎バスラットレオン-○EOMA EOMA(オマオマ)の馬単表裏の買い足しでしたが、BEOLMAUI STARはノーマークにつきハズレ…
2着は意外でしたが3~5着は順当といったところでしょうか。香港調教馬⑪DUKE WAIが4着に入りましたが、昨年5着のCOMPUTER PATCHともどもグレード競走は未勝利の馬。しかし入着するのですからやはり短距離の香港馬は侮れないものがあります。
コリアカップ(ダ1800m、3歳以上)国際G3/韓国G1
先ほどのリメイク同様圧倒的1番人気(単勝1.3倍)に支持されたクラウンプライドはしばらく2番手で先行するものの、向正面に入るとすぐに新・韓国総大将と称された⑫투혼의반석 (TUHONUI BANSEOK/発音は”トゥホネバンソク”)を交わして先頭に立ち、持ったままで直線へ。
直線では外から迫るグロリアムンディに対し軽く手綱をしごいただけであとはまた持ったままでどんどん加速し、終わってみると2着に10馬身差の圧勝。このレースは日本調教馬2頭で決まりだろうとは思っていましたがその着差に驚きましたし、韓国の方々も最後は唖然としたような表情を見せていたのが印象的でした。
昨年の覇者WINNER'S MAN(ウィナーズマン)は3着に入りましたが、実は同馬は2か月前に骨片骨折を起こしており、そこから急ピッチで立て直しての3着。さすがは本家・韓国総大将ですし、その走る姿に感動も覚えました。
馬券はスプリント同様、印を打った5頭の馬単ボックスに日本調教馬2頭の馬単表裏の買い足しで、クソ安い1.9倍の的中。1,2着がひっくり返っていれば10倍近くが付いたのですが、10馬身差ではどうしようもありません。トリガミにて完敗です…
レース後
表彰式
レースが終わると表彰式。川田騎手ばかり何度も写真を撮る必要は無かろうということで、スプリントのみのご紹介です。
騎手インタビュー
KRA公式がレース後の騎手インタビューをアップしています。日本の騎手はそのままお聴きいただくとして、韓国の騎手についてはそのコメント内容を要約しながら簡単にご紹介します。
コリアスプリント
川田騎手は1:15~1:54、坂井騎手は3:12~3:49に登場しますが、後者では現地観戦に訪れていた藤井勘一郎騎手の姿も映っています。
コリアカップ
川田・坂井両騎手は6:03~7:54あたりで続けて登場します。
所感・考察
日韓のレベル差(中距離戦)
そりゃ今の日本勢を見れば、ウシュバテソーロ・テーオーケインズ・ジュンライトボルト(奇しくもこの度引退してしまいましたが)・メイショウハリオ・クラウンプライドに加え、ややマイル寄りながらもカフェファラオ、芝路線からはパンサラッサやジオグリフ、そしてちょっと前まではオメガパフュームやチュウワウィザードといったものすごい面子が日本や中東の大きなG1/Jpn1舞台でしのぎを削っている(いた)訳ですから、クラウンプライドから15馬身差以上を付けられた韓国勢とのレベル差は明らかでしょう。
今回川田騎手がコリアカップ後のインタビューで「サウジやドバイと比べると楽なメンバー構成に・・・」と言ったことに対しなんだかネット界隈で少しザワザワしているのを目にしましたが、それは事実が述べられただけですし、韓国のファンもあの大きな着差を見たら何も反論できないと思います
。
実際、上でご紹介した騎手インタビュー動画のコメント欄をみてみると、日本競馬の強さを称え、韓国競馬の発展を願うといった前向きなコメントが多く見られました。そのコメントを一個一個翻訳にかけて読む手間を省いてくれる動画がありましたので、よろしければこちらもご覧ください。
そう言えば開催3日前の枠順抽選会ではクラウンプライドの扱いが目に見えて別格で、司会者が「このような馬をお呼びできたことを光栄に思います」とまで言っていました。あと、場内での紹介もUAEダービーG2優勝やサウジC(G1)・ドバイWC(G1)での5着入着が強調されており、格的にはG2馬ながらもクラウンプライドはもはや世界トップレベルのダート馬であることを認識済みであったのは間違いないところでしょう。(韓国はドバイ信仰みたいなものがありますので、なおさら中東遠征成績が注目されたのだとも思います)
本節の最後として、今回のYouTube中継のアナウンサーによる締めの言葉をご紹介します。
日韓のレベル差(短距離戦)
一方、スプリントについては5着EOMA EOMA騎乗のユ・スンワン騎手が言うように、韓国調教馬でもそこそこ戦えるレベルに来ていると改めて感じました。レース体系も日本とは異なり1200mは花形の一つですし100%ダートでワンターンのコース形状でもあるため、ときに「1400mを一周するスプリント戦」もある日本と比べると普段から走り慣れている度合いが異なるとも思います。
あとはこれに関連して、今回は残念ながら骨折により戦線離脱してしまいましたが昨年のコリアカップを2着、グランプリKG1(2300m)も2着、しかし今年はスプリント戦線で無敵のRAON THE FIGHTER(牡5)という、まるでヤマニンゼファーのような距離不問の快速馬がいることを挙げたいと思います。
今回の馬場は含水率7%でしたが、RAON THE FIGHTERは含水率8%の馬場で1200mを1.10.5(2021年11月21日 ソウル馬主協会長杯KG3)、そして同5%の馬場で1.10.6(2023年5月14日 SBSスポーツスプリントKG3)という速い時計を持っています。
競馬では相手なりに持ち時計を更新することが往々にしてありますし(実際、スプリント2着馬BEOLMAUI STARの持ち時計は1.11.7/含水率2%で今回1.0秒更新しました)、もしRAON THE FIGHTERが出ていたらリメイクとの勝負はどうなっていたのだろう・・・と勝手な想像を行わずにはいられません。
もうこれで韓国では来年春まで1200m重賞がありませんので、個人的には12月のカペラステークスG3で韓国調教馬の姿を観たいと思うのですが、皆さまはいかがお思いでしょうか?
最後に・・・
ネット投票・配信の普及により競馬観戦は以前より便利になりましたが、でもやはり現地で観ると全然違うと言いますか、例えば今回のリメイク・クラウンプライドの加速感は映像よりエゲつないものに感じられましたし、レース前後における韓国の方からの日本馬への声援、息遣い、賞賛、嘆息・・・これらはやはり生で観てこそと思いました。
坂井瑠星騎手が「またここに戻ってきたい」、そして川田将雅騎手が「パドックでの声援は世界一」というぐらい熱いのが韓国競馬。まだ残暑厳しくその意味でも暑かったのですが(寒ぅ~)、特にパドックでの声援は本当に情熱的なものがありました。
2019年の日本調教馬の招致取り止めに代表されるように日韓間の外交関係は浮き沈みが激しく、そのせいで特にスポーツ関係となると健全な対抗心や愛国心を越えた聞くに堪えない声も聞こえてきたりするのですが、ワタシの見る限り競馬の世界ではそういうことも少なく、強いものは強いと冷静に分析・対処している気がします(これは日本→韓国も同じです)。実際、今回リメイクやクラウンプライドの単勝オッズが1.3倍に支持されたというのはその冷静さの証左ではないのでしょうか。
あまりレーティング関係には詳しくないのですが、今回のカップはもちろんのことスプリントも年間レースレーティングは110を超えるのではないのでしょうか。となるとG2昇格、そしてゆくゆくはG1昇格に向けた道も開けてきたのではないかと思います。
一方、韓国調教馬にとってレーティングを上げるためには海外に打って出て良い成績を収めるのもまた必要。過去、2019年アルマクトゥームCR3(G1)で3着に入ったDOLKONGや、2019年BCダートマイル(G1)で3着に入ったBLUE CHIPPERといった馬もいましたが、それ以外ではあまり海外で良績を残せていないのが韓国調教馬。
もちろんドバイやアメリカを目指すのも良いですが、すぐ隣にパート1国・日本がありますし、今や世界レベルの強豪がゴロゴロしているのが日本のダート路線。よって、いつの日か近いうちに韓国調教馬が日本のグレード競走で疾走する姿を観たいと思うのと同時に、今回の現地観戦を通じてますます好きになった韓国競馬を今後もウォッチしていきたいと強く思いました。
それではこれが本当に最後として、今回ネット上で見かけて一番刺さった言葉を書きとどめてこの記事を終えたいと思います。ここまでお付き合いいただきありがとうございました。