ラム酒入りホットチョコレート
お酒が出てくる歌やダージリンに使われる「紅茶のシャンパン」という表現を早く体感したくて、子どもの頃は大人に憧れていた。当然のことだけど、その頃からお酒は大人の飲み物だった。
▼本筋には関係ないけれど、「お酒」が出てくる私の好きな曲 「大人と子供」矢野まき
大学生の時、初めてお酒を飲んだ。一番最初はきれいな紫色のバイオレットフィズ。どんなに度数が少なくても、甘いジュースみたいな味でも、「お酒だ」と分かる感覚や味があることを知った。同時に、自分があまりお酒に強い体質ではないことも。その頃から今に至るまで、お酒とはたまに嗜む程度という付き合いが続いている。
社会人になると、大人というのは想像していたほど良いものではないと知った。特に大人になれば人間関係の中で他人の価値観に振り回されることも、無関係な諍いの緩衝材になることもないと思っていたのに、さらに煩雑になったというのは大きな見込み違いだった。
そんな煩わしさに疲れた時、甘いものは心を落ち着かせてくれる。特に寒い夜にホットチョコレートを飲む時間は幸せだ。刻んだチョコを温めた牛乳に溶かすだけというお手軽さだが、この温かさと甘さが、体も心も休めてもいいのだという合図となり、余計な体の力が抜けてほっと一息がつける。
それでもリラックスできないこともある。この歳になっても人間関係で上手く立ち回れないことに、子どもの頃に戻ったような無力感や不安を感じ、肩の力が入ったままになってしまうのだ。
そんな時には少し飲んだホットチョコレートに、小さなティースプーン半分〜1杯のラム酒を垂らす。秘蔵の酒を棚からいそいそと取り出すのは子供の頃に憧れていたことの一つで、それだけで落ち込んでいた気分が少し持ち直したりもする。
ほんの少しのお酒なのに、ホットチョコレートの甘さがすっきりと奥深い味に変わるのが面白い。
その味を口の中で楽しんでから飲み込むと、同時に余計な力が体の内側に押し戻され、力強さに変わっていくように感じる。その力強さとお酒独特の味と感覚が、今の私はもうお酒も飲める大人なのだから何とかなるという気持ちを作り、心地よい安心感をくれる。
大人なんて憧れていたほどいいものじゃない。普段はそう感じることが多いけど、この不思議な変化が体の中で起きる瞬間だけは、そんな弱い大人で、そしてわずかながらもお酒が飲めてよかったと思う。
最初からラム酒を入れてもいいが、個人的にはラム酒を入れる前後で味の変化を楽しむのがおすすめだ。大きく変わる味が、自分が大人になったことをよりはっきりと感じさせてくれる。