栄養剤の比較 (1)〜今さら聞けない在宅医療の基礎知識 Vol.1〜
あけましておめでとうございます。
さて、今年は各論に入っていきたいと思います。
題して、「今さら聞けない在宅医療の基礎知識」シリーズ!
このシリーズでは、主に在宅医療に関わりはじめの方や、介護・福祉・保育・教育・行政など医療機関以外で在宅医療を要する方の支援をされている方に読んでいただくことを想定して、よくいただく質問を中心にまとめていきたいと思っています。
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なお、当面は無料記事として公開しますが、一定期間が経過したら有料記事に変更するかもしれませんので、ご了承ください。
【なぜ栄養剤が必要なのか?】
在宅で栄養剤を使用している方には、大きく分けると3つの理由があります。
1)十分な栄養を食事だけで摂れないため、補助的に経口摂取
2)食事が十分消化吸収できないため、消化しやすいものを経口摂取
3)経鼻胃管や胃瘻などから経管栄養で注入
1)には、食事量が減っている高齢者の方や、慢性呼吸器疾患で呼吸がハアハアしているために消費カロリーが多く、普通の食事ではカロリーが足らなくて痩せてしまう方、嚥下機能が低く固形物を十分に食べられない脳性麻痺の子ども、などが当てはまります。
2)には、クローン病や潰瘍性大腸炎などの消化器疾患や、手術で腸を切除した後腸が短くなり消化吸収力が低下した方、胃腸の動く力が弱い脳性麻痺の子どもなどが当てはまります。
3)には、子どもから大人まで、さまざまな理由で経口摂取が難しい方が当てはまります。
全量を注入している方もいれば、食べたり飲んだりできる分は口から摂取して、足りない分だけ注入している方もいます。
【処方ができる栄養剤、できない栄養剤】
栄養剤には、医師が処方する薬剤の位置づけのものと、市販の食品の位置づけのものがあります。
最近はいろんな会社から栄養剤が市販されるようになり、液体だけでなく、ゼリーやプリンのようなものなど、バラエティや味も豊富になっています。
あまりにも多岐にわたるので、今回の記事では個々の商品には触れませんが、うまく使うといいものがいっぱいあります。
【栄養剤の基本スペック】
薬剤の位置づけのものは、一般的には以下の表のものだけです。(※1)
この9種類が処方可能な栄養剤で、半消化態栄養剤、消化態栄養剤、成分栄養剤、の3つの区分がありますが、この詳細は次回以降で後述します。
まず目につく違いは、性状・1本あたりのサイズ・濃さです。
<性状>
ほとんどの栄養剤は液体なのですが、2014年に登場したラコール半固形剤はその名の通り半固形で、プリンのような?ゼリーのような?性状です。
エレンタールとエレンタールPは粉末で、水で溶解して液体にして使います。
<サイズと濃さ>
最も濃いものはイノラスの1mlあたり1.6kcalで、わずか187.5mlで300kcalの摂取が可能です。
1回に1本まるまる使用する成人の方であれば、特に水分量を控えたい方や、経口摂取で少量で栄養をまかないたい方にはいいかと思います。
ただ、小児では分割投与することが多く、「何mlで何kcal?」とカロリー計算するのが非常に煩雑で、ちょっと使いにくいのは否めません。
エンシュア・ラコールはともに歴史のある栄養剤で、1mlあたり1kcalと計算しやすいですね。
エンシュアHも歴史があり、1mlあたり1.5kcal、250mlで375kcalで、少量でカロリーを摂りたい方へは長い間第一選択の位置づけでした。
なお、エレンタールとエレンタールPは液体ではなく粉末なので、どれだけの水で溶解するかによって量や濃度が変わります。
<水分量>
いずれの栄養剤でも約75〜85%が水分です。
細かく見ると、濃度の高いエンシュアHとイノラス、そしてプルプルのラコール半固形の水分が幾分低めですが、厳格な管理を要する方を除き、だいたい8割が水分としてイメージするくらいで良いのではないかと思います。
なお、エレンタールとエレンタールPでは当然、溶解する水の量によって代わります。
【なぜこんなに種類があるのか?】
「栄養剤ってみんな同じようなものなのに、なぜこんなに種類があるの?」
・・そう思ったことはありませんか?
実は、全ての栄養剤が昔から存在していたわけではありません。
特に種類の多い半消化態栄養剤6種類の中で、比較的歴史が長い栄養剤は、
エンシュアリキッド・エンシュアH・ラコール
の3種類です。
これらはもともと、手術後などの短期間の栄養補助を主な目的として使用されてきた歴史があります。
しかし、経管栄養を在宅で行う方の増加などにより、これらの栄養剤を年単位で長期間使用する方、しかも栄養剤以外の食品をほとんど摂取されない方が増えてきました。
その中で、これら3種類の栄養剤を長期間使用する際の課題がいくつか見つかってきたため、その課題を解決するために、
2014年にラコール半固形剤・エネーボ
2019年にイノラス
が誕生したのです。
<ラコール半固形剤>
液体の栄養剤しかなかった頃、経管栄養を行う上で厄介な問題が2つありました。
それは、胃食道逆流とダンピング症候群です。
胃食道逆流とは読んで字のごとく、胃に入れたものが食道へ逆流することで、胃の中身が液体の場合に起こりやすいことは想像しやすいのではないでしょうか。
胃食道逆流により、嘔吐しやすい、誤嚥のリスクが高い、特に小児では喘息様の症状の原因となる、などの悪影響がみられます。
これらはとろみを付けると改善することがあり、液体の栄養剤を用いる場合には市販のとろみ剤などで対応します。
ダンピング症候群とは、胃から入った栄養剤が腸へ一気に流れ、血液中に糖分が急激に吸収されて高血糖になり、それを下げようとインスリンがガンガン分泌され、その後インスリンが効き過ぎて結果的に低血糖になる、という状態のことを言います。
これを避けるためには、液体の場合にはある程度ゆっくり時間をかけて注入する必要があります。
この2つの問題を解決したのが、ラコール半固形剤なのです。
プルプルとした性状にすることで、逆流しにくくなり、かつ胃から腸へ流れるスピードがゆっくりになるので、2つの困りごとが一気に解決できる選択肢として、とてもありがたい存在です。
<エネーボとイノラス>
エネーボとイノラスが登場した理由は、全く違う課題からでした。
長期間栄養剤を主な栄養源として使用していた方に思わぬ問題が生じていることが、2000年代後半頃から明らかになってきたのです。
それは・・。
・・長くなってきましたので、ここからは次回にまとめたいと思います。
今回はあまり触れなかった消化態栄養剤と半消化態栄養剤についても、次回説明しますので、しばらくお待ちくださいね。
【注】
(※1)一般的には、と前置きをしたのは、肝機能障害や腎機能障害などで、栄養バランスを通常の食事とは違う形で管理しなければいけない方のための栄養剤も処方可能なためで、これらは今回の記事では触れません。
また、それぞれの栄養剤の正式名称はもっと長いものであったり、発売当初から名称が変更になったりしたものもありますが、この記事内では分かりやすくするため現在の通称で記載しています。
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