子どもは立派な社会の一員。デンマーク社会と子どもの成熟した関係
新型コロナウイルスの感染拡大で世界中が揺れうごく中、ひとつ感銘を受けたことがある。デンマークのメッテ・フレデリクセン首相が開いた「子ども向け記者会見」だ。
3月11日、デンマーク政府は2週間の学校やレストランなど店舗の閉鎖(※ 4月13日まで延期)、国境の封鎖など重要な決定を発表した。その2日後である3月13日、デンマークの放送局を通じてメッテ首相は子どもたちに向けて新型コロナウイルスに関する3分間の質疑応答をおこなったのだ。
メッテ首相の子ども向け記者会見の動画。大人も見る価値あり
ガラガラの会場に並べられた椅子。そこに一人ずつ子どもの顔が映し出され、9人の子どもたちが新型コロナウイルス対策に関する疑問をメッテ首相にぶつけた。メッテ首相は短く、明瞭なことばで応えていく。
エマ(12歳)
コロナウィルスの隔離対策中でも外出していいのですか?
フレデリクセン首相
外出して大丈夫です。むしろ、ぜひ外に出かけてください。例えば、森や自然の中での散歩などは非常に良いことです。ただし、お互いから距離を取ることを忘れないでください。
引用元:hyggelig news 他質問の日本語訳も読める
日々あふれる情報に大人でさえ混乱する中で、学校閉鎖の当事者である子どもたちはもっと不安だろう。でもきっと、子ども記者会見をおこなった理由は「子どもが可哀想だから」ではない。
デンマークでは、常時から「子どもは立派な社会の一員」と考えられている。今回のように大人が重要な決定をした際には、子どもにしっかり説明する。疑問があれば聞く。さらに、大人の意思決定の場に子どもが大きく関わることもある。短い時間であれど、今回首相自ら子どもたちと向き合う場を用意したのは、なんともデンマークらしいなと思った。
子どもの意見が反映された図書館
今回の子ども記者会見をみて思い出したのは、デンマーク第2の都市・オーフスにある公共図書館『DOKK1(ドッケン)』だ。2015年に建設された比較的新しい図書館兼市民サービスセンターで、北欧らしいシンプルかつ機能的なデザインが目を引く。
注目すべきは、DOKK1の建設プロセスに子どもが関わっていることだ。図書館建設に向けて「未来の図書館」について子どもたちにインタビューすると共に、子どもたち自身が未来の図書館を工作するワークショップを実施。図書館側は依頼する建設会社に「子どもたちのアイデアを一つは入れること」を依頼したという。
結果、DOKK1には子どもたちやその家族のための場や機能がいくつも誕生した。赤ちゃんや小さな子どもたちが本に囲まれながらくつろげるスペース、工作ができるラボスペースや作品の展示場、テレビゲームまで設置されている。子どもたちは遊ぶもはしゃぐも寝るもよしだが、通常の図書スペースとは階が分かれているので、本を読んだり勉強したい人も心配なく図書館を利用することができる。
ちなみに私がDOKK1を訪れた日には、大手IT企業の主催で子ども向けプログラミングワークショップが開催されていた。図書館中央に広がる大きなイベントスペース(下・写真奥)に、沢山の子どもたち。デンマーク語だったので何を言っているかは分からなかったが、楽しそうな笑い声を聞き、思わず「いいなあ」と心の声が出たりした。
大人が子どもの意見を聞き、子どものアイデアを形にする。そして子どもから大人まで全員が楽しめる空間を共に創り上げた良い例である。
大人に聞いてもらった経験が、子どもを育てる
デンマークの子どもたちは自分の意見を持ち、人に伝えられるとよく聞く。たしかに、デンマークの若い友人たちを見ていてもそう感じる。教育のさまざまな要素が効いた結果だろうが、小さい頃から「大人に耳を傾けてもらった機会」が総じて多いことも大きい要素ではないかと思う。いくら自分の意見を持って一生懸命伝えたところで、誰も聞いてくれなかったら話す気もなくなってしまうだろう。
今のところ日本では、新型コロナウイルス対策に関する子ども向けの記者会見はまだない。(大人向けにもあったか、怪しいが。) 仮に形だけ取り入れたところで、あまり意味もないだろう。でも、デンマークにおける子どもとの関わり方は今後参考になる所があるはずだ。大人が子どもをみくびることなく、話し合いを面倒くさがることなく、同じ目線で向き合うことで変えられる未来もあるのではないかと思う。
何かと暗い話題になりやすい今のご時世だが、まだまだこの国で変われることがあると、希望すら見えた瞬間だった。