仮面なんて存在しない、全部あなた自身だ。

 よく裏だとか表だとか、そんなふうに人の性を表現する人がいる。

 私も少し前までは、どちらかというと周囲の目に対して気を遣う方だと思っていた。
 よく初対面の人と仲が良くなった人とは態度が変わるからだ。このことについて、私はあまりその行為を好意的には考えていなかった。

 心を打ち明けた人には裏の顔を見せれるのに、そうでない人には猫を被っているような。そしてそれはまるで悪いことみたいに言われる。

 「八方美人」初めこの言葉を聞いた時、何となく悪い意味合いなんだろうとは思いながら、ことわざ辞典から意味を調べた。
 そして私は ただ驚いた。今でもはっきりと記憶にあるように。
 そこに書かれてあることは、いつも自分がしていることでは無いか と。しかもそれはまるで悪いことみたいに説明されて、自分がやっていたことは悪いことだったのかと、当時小学生私はそう知った。

 しかし今の私なら分かる。私のこれらの行為に間違いなどなかったことを。

 なぜって人に裏も表もないからだ。裏だから本音を言えるだとか。ネガティブなことを打ち明けているからそれが本音だとか。そんなことは間違っている。

 相手に合わせて良いふうに振る舞うあなたも、気持ちの高ぶりに任せて思い切ってしまうあなたも、紛うことなき同じあなたのした事だ。自分勝手な人も、人に気ばかり遣っている人も、それがそれぞれの自らの性格の表れである。

 後者はただ良いふうに見られたいがために気を使っていたとしても、その彼の態度を偽りの姿だと言うのはなんと無礼なことだろうか。それは言ってしまえば、その人の個性を否定していることと何ら変わりない。

 明るい人の前では明るく振る舞い、大人しい人の前では大人しく振る舞う。これら 私の行いにはどちらも 裏も表もない。
 本音を隠してしまうと言うなら、それは裏の自分を打ち明ける場がないのではなく、本音を言わないあなたの性格ゆえだ。

 彼が本音を見せてくれないと思っても、それは彼自身があなたに対してそう振舞おうと選択した結果である。

 だから私は言う、私に裏など無いと。

 あなたに裏はある?

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