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ゲーム音楽はどこから来たのか 書評

書誌情報


田中”hally"治久.2024年.『ゲーム音楽はどこから来たのか ゲームサウンドの歴史と構造』.株式会社Pヴァイン.

本書は、ゲーム音楽の歴史とその本質について研究を続けている著者の集大成と言える本である。帯にも書かれているが著者はこの領域の第一人者であることは異論がないと思われるが、逆に他にあまり聞いたことがある人がいないという領域でもある。本書にも書かれているが日本はゲーム音楽というものについて先駆的な歴史を持っているにも関わらず、それを俯瞰して研究しまとめている研究者がいないというのは、寂しい限りではある。

序章から2章までは、いわゆるゲーム音楽以前の古代ローマ時代の遊びにまで遡った、遊びに付随する音・音楽に関する歴史の考察である。その時代における音や音楽の性質について六つのカテゴリに分けられると著者は主張している。一方で、これは現代にも通ずるが、ゲームに付随する音とは、それがなくてもゲームとしては成り立つものが大半であるということも示されている。
3章と4章では、いわゆるヴィデオゲームにおける音楽がどのように変遷していったかの歴史が述べられている。いくつかのエポックとなるゲームが紹介され時系列でその変化が語られているが、まさにゲーム音楽を切り口としたゲームの歴史といえるだろう。
5章では、ゲームから独立して音源となったゲーム音楽についてレコード、CDやライブなどの歴史からその変遷を辿っている。1984年から2022年に至るゲーム音楽のレコード・CDの機種別の割合からも興味深いゲーム音楽の歴史が垣間見ることができる
6章では、趣を変えてゲーム音楽がどのように語られて、批評されてきたかを振り返っている。
最後の7章では、これまでの歴史を踏まえて、筆者が考えるゲーム音楽の構造について、海外の研究論文を踏まえた考察でまとめられている。

こういった形でゲーム音楽をまとめることが出来るのは日本ではおそらく著者くらいしかいないのではないかというくらい様々な視点から分類と歴史的考察がなされた内容となっていた。まだ本書で示されている楽曲について著者が直接作曲者にヒアリングできるうちにこのような記録がなされたことは喜ばしいことである。
本書を読んで、改めてゲーム音楽というのは何なのか?ということがわからなくなったというのが正直なところである。筆者もその構造を解析しながらやはりその問いについては、明確な解を出せていないようにみえる。しかし、間違いなく旧来のカテゴリに属さない新しい形態の音楽であることには間違いない。ふだん何気なく聴いているゲーム音楽を改めて見つめなおすには最適な手引きとなる一冊である。

目次

はじめにーゲーム音楽ってなんだろう
序章「最高のノイズがあった頃
1.音の必然性ーヴィデオゲーム以前のゲームサウンド
2.エレメカ・サウンドとヴィデオゲーム・サウンド
3.ヴィデオゲームにBGMが定着するまで
4.「映画」になりたがるヴィデオゲーム・サウンド
5.音盤化するゲーム音楽
6.「ゲーム音楽語り」の構造
7.メカニクス/シグナル/ワールド
あとがき

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