(南海沿線のいい仕事#4)和歌山県のものづくり―和歌山ものづくり文化祭:菊井健一さん×黒江るるる:山家優一さん―
南海沿線で活躍する方をご紹介する「南海沿線のいいしごと」。
久し振りの第4弾は、11月5日(土)・6日(日)に和歌山県のものづくりの担い手達が開催する2つのオープンファクトリー「和歌山ものづくり文化祭」実行委員長:菊井健一さんと、「黒江るるる」実行委員長:山家優一さんを紹介します。
ものづくりの未来を創る、体験と学び:和歌山ものづくり文化祭(実行委員長:菊井健一さん)
和歌山ものづくり文化祭が企画され始めたのは2021年末頃-。和歌山市で理容師用の鋏を製作する菊井鋏製作所の3代目:菊井健一さんが温めていた構想を居酒屋で話した事から本格検討が始まりました。
<和歌山ものづくり文化祭(概要)>
日程 11月5日(土)・6日(日) 10:00~17:00
会場 和歌山城ホール
出展 和歌山県北部のものづくり企業 20社
内容 ①ワークショップ or 製作実演
②和歌山で作られる商品の販売
「自分自身ものづくりをしていて感じますが、和歌山に住んでいる人が和歌山のものづくりをあまり知らないと思います。端的に言えば、若い人やその親御さんが就職を考える時に『和歌山で働く』というのが選択肢にすら上がってこない。そして和歌山県外で就職してそのまま帰ってこない。じゃあ状況を良くするために、まず知ってもらおうという話になりますが、職人が手作りしている企業の1社1社は小さいから発信力には限界があるし、特に和歌山県内は特色の違う小さな産地が点在していて繋がりが弱い、良い物を作っているんだけど一般の方には分かりにくい…課題は山積みです(苦笑)」
「課題山積みだからこそ、何とかしなくては和歌山のものづくりの未来は先細っていく…和歌山でものづくりをしている人間として、課題に向き合って未来を良い方向へと変えていきたい!そこで目を付けたのがものづくり企業が主役になるオープンファクトリーというイベントでした」
「和歌山県内やその周囲の方々へ、まず紀北の技術と職人の存在を知ってもらい、その凄さ・格好良さを感じてもらい、ものづくりの楽しさを体験してもらいたい。和歌山ものづくり文化祭は『産地としての和歌山』の未来を切り開いていく第一歩です。また、2025年に大阪で開かれる万博も意識しています。国内外から大阪に訪れた方達に南へ、和歌山へ足を伸ばしてもらう為にも今からでも僕たち自身が地力を磨いていかなくては。和歌山のものづくり企業の底力を地元にも関西にも、もっとその先にも魅せていきますよ」
黒江の町を、あるく・みる・つくる:黒江るるる(実行委員長:山家優一さん)
和歌山ものづくり文化祭の狼煙が上がった時、一緒にいたのが2020年から和歌山県海南市で開催されているオープンファクトリーイベント:黒江るるる実行委員長にして、日本三大漆器の一つ:紀州漆器を取り扱っている山家漆器店の3代目:山家優一さん。
<黒江るるる(概要)>
日程 11月6日(日)10:00 〜 17:00
会場 黒江・川端通りエリア
内容 ものづくりワークショップ、まち歩きイベント(謎解き)等
「自己紹介させてもらうと僕自身は最初は一般企業に就職、3年ほど海外の駐在員もやってから実家に戻り、山家漆器店の店長になりました。一度外に出ていたからこそ、紀州漆器の可能性はもっとあると思っていて、前職や海外で学んだ経験を活かして紀州漆器のリブランディングや、ECサイトを通じた日本全国から海外までの販路開拓にチャレンジしています」
「それで、黒江るるるについてですが、そもそもは2020年に31年間毎年開催されてきた紀州漆器祭りが新型コロナ流行の影響によって中止になってしまったのがきっかけで生まれました。紀州漆器まつりって海南市の黒江というエリアに2日間で数万人(2019年は約4万5000人)が来場するという、地域の経済的にも精神的にも凄く大事なお祭りなんですよね。それが中止になってしまって、漆器業者やまちづくりに携わる人たちと『自分達で出来る事をやろう!』と考えて、職人との交流やストーリーを楽しんでもらえるような製作体験をクラウドファンディング等を活用して売り出したのが黒江るるるです。」
「海南市黒江周辺には紀州漆器以外にも伝統産業としては棕櫚(しゅろ)たわし、手漉き和紙、更に木製タンブリンや家具木工等の様な全国に誇れる確かな木工技術が息づいていて、2021年からは漆器に加えてそういった地場産業も黒江るるるに参加してくれました。僕自身、家業と違うものづくりの方々と会って話して凄く勉強になったし、黒江るるるは「あ”る”く・み”る”・つく”る”」の3つの”る”を体験してもらう機会、参加いただいた方々も街並みも含む黒江の持っている魅力に気づいたり再発見してくれたのではないかなと思います。今年は遂に紀州漆器まつりと同時開催!黒江るるるは3回目だけど、気持ちを新たに今年が初回だと思って取り組んでいきますよ!頑張って更新しているので、詳しくは黒江るるるのnoteも見てください笑」
【対談】菊井健一×山家優一
冒頭の居酒屋で一緒にいた、という事でお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、菊井さんと山家さんは友人同士。以下、2人のオープンファクトリー主催者による赤裸々本音トークです(聞き手:南海電鉄)。
※以下、敬称略
人で繋がる・人が繋げるオープンファクトリー
―いよいよ本番が近づいてきましたが、振り返っていかがですか?
菊井「イベント事を主催するとは思っていなかったので、自分のやりたい大きな部分:目指したい形は描けたんですが、具体的にどういう行動をすれば良いか最初は分からなかったですね。普段はイベントではなく鋏を作っているんですから笑」
山家「黒江るるるは漆器まつりの中止がキッカケになって生まれたんです。なので、漆器という1つの旗印があったし、実行メンバーに最初から知り合いがいるベースもありました。だから、『地域のものづくりが集まる』という菊井くんの思い描いていたものと重なる部分もあるけれど、違う部分も少なくないし、僕もイベント作りの専門家ではないので、菊井くんが100%納得する様なアドバイスは難しかったんです」
菊井「そんなボワっとした状態で『なんか情報持ってる人いないかな』と。それで、地元ってことで和歌山市や南海電鉄の人に話を聞いてもらいましたね。そこから、南海さんから延生さん(貝塚オープンファクトリー2021実行委員長)を紹介してもらって、お話聞いて、やるべき事が見えてきました」
山家「僕も一緒に聞いたんですが、あれで和歌山ものづくり文化祭はかなり具体的になっていった感じがありましたね。黒江るるるについて、僕自身としては黒江にもっと人が来てもらいたい、さらに言えば子どもたち=未来に繋がるお客様に来てもらいたい、そして黒江の人たちに自分たちのものづくりの凄さを再発見して伝えられる機会にしたい、という想いがあった。他のメンバーもそうで、『黒江』という産地への想いが横串になっているんです。だから、和歌山ものづくり文化祭をどうやって作ろうかと、具体的な部分を考えるとアプローチ方法が違ったんですよ」
菊井「『地域』が横串となっている黒江るるるに対して、和歌山ものづくり文化祭は『ものづくり』が参加メンバーの横串なので、根っこになっている部分が違いますね。最初からぼんやりとしたコンセプトは僕の心にありましたが、山家くんや延生さんはじめ色んな方と話したりして、より明確に認識できた。それと、僕自身、趣味で色んなものづくりの現場やオープンファクトリーを見に行っていました。だから、色んな場所のエッセンスを取り込んで、和歌山ものづくり文化祭を自分がベストだと思う形に練り上げていっています。まあ、和歌山県では初めて、自分も初めてだから、自分が見たい景色を純粋に追いかけられていますね笑。逆に、山家くんはこれまでと比較されてしまうから僕よりも苦労している部分もあると思います」
山家「黒江るるるだけで見ればまだ3回目なんだけど、紀州漆器まつりは34回も続いている。だから、黒江で何かやるとなると漆器まつりと比較されたり、お客様を取り合うんじゃないかという心配は生まれましたね。ましてや、今年は紀州漆器まつりが3年振りに開催されるという事もあって。でもそれは、黒江の人たちと一緒にやっていきたい、黒江にこだわりたいという事を大事にしているからこそ発生したもの。紀州漆器まつりは販売会などを通じた漆器そのものを提供、黒江るるるは黒江のまち歩きやものづくりの体験を提供するから相乗効果を狙っていける、という事を理解してもらって準備しています」
地元のものづくり達が主役!~コトづくりへの試行錯誤~
―主催者として、こだわっているポイントはどこですか?
菊井「和歌山ものづくり文化祭は『実際に自分の手、職人の手でものをつくっている方が主役』という事にとことんこだわっています。これは、昨年に菊井鋏製作所として出展した日本工芸産地博覧会の影響が大きい。全国から集まったそうそうたる工芸メーカーのなかで、菊井鋏製作所は一般の人からは全く知られていない。そんな中でお客さんにどうやったら興味を持ってもらえるか、悩み考えた甲斐もあって、ブースにはいろんな人が来てくれました。 有名とか無名とか関係なく、本気で見せたいという職人の思いは伝わる―。この体験を、和歌山ものづくり文化祭に関わってくれる全社に共有したいという思いがあります」
山家「既に実行委員長というのを経験している立場からすると、お客さんやイベントに対する意識というのが揃っていた方が動きやすいのは事実。もちろん、出展企業それぞれのスタンスや状況を無視して主催者の理論を押し付ける事はできない。でも、イベント主催者や一部の人だけが盛り上がって、出展企業や来場したお客さんが白けてしまうのは違いますし、それは誰も本意ではないはず」
菊井「山家くんの経験も聞いて、僕は『自分達の技術を見せたい・伝えたい!』という前のめりな企業を和歌山ものづくり文化祭の仲間として集めました。商工会や組合といった集合体ではなく、基本的には企業さん1社1社と話をしていったのもそのためです。当然、時間もかかるし正直に言って簡単ではありませんでしたが、集まった皆さんは本当に凄い、誇れる技術を持った一流の企業・職人さんばかり。キックオフミーティングで揃ってもらっただけでも感動でしたね!」
菊井「それと、和歌山ものづくり文化祭は運営にかかる必要経費は出展費用として支払ってもらっていて、皆さんも『支払ったからには元を取る!!』という気概でいてくれています。主催者側としてもお金をいただいている以上、これは責任重大ですし、その熱意にきちんと応えるイベントにしたい!そんな緊張感があります」
山家「一応補足すると、菊井くんは出展費用で儲けているわけではないですからね笑。菊井くんの人件費を横に置いてもカツカツですし。むしろ主催者として色んな所に掛け合って、和歌山ものづくり文化祭が成功するように協力を取り付けてきています」
菊井「少しでも活かせそうなものがあれば、貪欲に取りにいきますよ笑。新規のイベントという事もあって、色んな方面から協力をいただけてますね。その分、僕の責任も重くなっていきますが。例えば、11月3日には近畿経済産業局さん主催の『関西オープンファクトリーフォーラム Vol.12』にも登壇する機会をいただきました。ご興味のある方は是非(笑)!」
菊井「それと、協力を取り付けるのはPRの機会みたいな実益的な部分もありますが、山家君がさっき言った通り、内輪だけの盛り上がりにしない効果もあります。実行委員長の立場としてたくさんの人の話を聞いたり、色んな場所を訪れる事はかなり重要だと感じています」
山家「実行委員長になってみて、そして動いてみて初めて分かる事や新しい気付きは多いですね。もちろん、かなり大変な部分もあるんですが、黒江るるる実行委員長をやって良かったと思う」
菊井「僕ら中小企業は毎日、本当にどうやってお金をいただくか考えなくてはいけない。でも、時には損得勘定から少し離れて自分たちの足元を見直したり、逆に外の世界を見たりすると、損得抜きだったのに結果としてプラスになるものが多いです」
山家「そうそう。プラスになる事が分かれば、仲間が増えて更に大きな力になっていくし。それに、既にある事実として良いものが和歌山県では作られているんだから、わざわざ来てもらって損はさせない自信が僕らや出展企業にはありますよ!」
―ちなみに同日開催ですが、連携した企画などはお考えですか?
菊井「もちろん、それも色々と考えました!折角の同日開催なんだから、それは活かさないと。で、和歌山城ホールと黒江って、バス一本でいける事が分かりました」
山家「そうそう。少し南海さんには気まずいかもですが、僕らは初めて黒江~和歌山城がバスで繋がっている事を知ったんですよ笑。僕らにとってはこれも地元に関する1つの再発見です!」
菊井「経験的にも、乗り換えなしで移動できるのは楽ですよ!折角の機会ですし、是非とも両方に足を運んでください!」
菊井・山家「皆さんにあまり知られていない和歌山のものづくり、実は意外と近くにあった良い景色をお見せしますので、和歌山市の和歌山ものづくり文化祭(11月5日・11月6日)・海南市の黒江るるる(11月6日)へ是非お越しください!」
あとがき
これが、ものづくりを生業とする人のこだわり―!
企画や目的の様な大きなところから、告知物のデザインや手続きの様な細やかなところまで、持ちうる限りの方法でベストを追求されています。書いてしまうと月並みな言葉だなと我ながら思いますが、実際に行動に移して形にしていく事は本当に凄い、しかも菊井さん・山家さんは鋏・漆器という本業があるのに!
鉄道会社として、これ程の方々が近くにいらっしゃるのは大変にありがたいですし、一個人としても和歌山ものづくり文化祭の誕生や黒江るるるのリスタートに立ち会えたことはとても誇りです!もちろん、こだわっているのは二人だけでなく、出展する企業さんも創意工夫を凝らした体験やワークショップの内容を計画していますし、並行して色んな事例を研究されています。
この稿で書ききれなかった内容、直に見ていただきたいモノ、会場や産地で触れていただきたいコト…11月は是非、和歌山ものづくり文化祭や黒江るるるを見てみてはいかがでしょうか?
ものづくりの、そして和歌山の新しい波にお乗り遅れのないようにご注意ください( ・・)σ
PR・お役立ち情報
①和歌山市民図書館蔦屋書店ポップアップストア
和歌山市駅直結の和歌山市民図書館蔦屋書店では2022年10月4日(火)~30日(日)の期間、和歌山ものづくり文化祭の出展企業10社が出品するポップアップストアを開催しています。和歌山ものづくり文化祭にどんな産品が並ぶのか、何を作っている職人さんが出展するのか、その雰囲気を直に一部感じる事が出来ます。こだわりの和歌山産の品物を手に入れたい方、和歌山ものづくり文化祭へ行くか迷っている方、チラッとのぞいてみてはいかがですか?
②2つの会場を回ってGET!キーノ和歌山クーポン券
和歌山ものづくり文化祭と黒江るるる、両方へ行くと和歌山市駅直結の複合施設:キーノ和歌山で使える1,000円分のクーポン券を先着50名様に提供します!どちらかの会場でパンフレットを入手したら、それぞれの会場の本部でスタンプを押してもらうだけ。
11月5日(土)に和歌山ものづくり文化祭→11月6日(日)に黒江るるるへ行くのも良し、11月6日(日)に2会場を回るのも良し!和歌山のものづくりに触れたら、キーノ和歌山で名産品・食事にも触れてください!
そして、お二人にも紹介してもらった通り、それぞれの会場のアクセスは和歌山バスで乗り換えなしで移動できます。和歌山ものづくり文化祭会場~黒江るるる会場まではバスで約30分+徒歩10分強。
ちなみに、バスで往復するなら和歌山バスの1日フリー乗車券(1,000円)がお得です(和歌山城前~琴の浦:片道520円)!折角なら1日フリー乗車券を使って、普段は行かないような場所や気になっていたお店に行ってみてください!
③両会場アクセス案内(バス)
<和歌山ものづくり文化祭→黒江るるる>
・和歌山城前バス停から乗車
【和歌山バス(マリーナシティ・海南駅前方面)約30~40分】
→琴の浦バス停で下車、黒江るるる本部受付(池小漆器店前)まで徒歩10分強
<黒江るるる→和歌山ものづくり文化祭>
・琴の浦バス停から乗車
【和歌山バス(JR和歌山駅方面)約30~40分】
→和歌山城前で下車、和歌山城ホールまで徒歩約3分
詳しいスタンプラリーの案内は和歌山ものづくり文化祭のnote記事、バスの案内は和歌山バス:わかやま交通案内をご利用ください。
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