【名画座でしか観れない作品】 橋本忍 原作の社会ドラマ、伊藤雄之助 vs 佐田啓二 〜 中村登 「いろはにほへと」
シネマヴェーラ特集「名脇役列伝IV 伊藤雄之助生誕百年記念 怪優対決 伊藤雄之助vs西村晃」が本日:2019/07/06から開始となる。タイトルの中で、特に未ソフト化のオススメ作品について推しておきたい。
「いろはにほへと」中村登 監督、1960年。原作は橋本忍の佳作である。
53年の保全経済会事件をモデルにした社会ドラマである。59年にTVドラマが放映され、好評を受けて映画化された。
匿名組合のしくみを利用して私的な投資銀行を作り上げた男(佐田啓二)と、彼を追う刑事(伊藤雄之助)。
佐田は、法の抜け道を使い、政治家にも実弾攻撃を行って、エネルギッシュに成り上がってゆく。こういった主人公の物語は64年「傷だらけの山河」にも似ているが、本作はもう少しお茶の間的な人間ドラマに近く、試される刑事の姿もやや寓話的に思える。
月給3万円の刑事の自宅に初めてテレビが入ってくるシーンが印象に残る。買収工作なのだ。泣く子どもを叱ってテレビを返品させる。貧乏人にはほんとに辛いしうちだ、と佐田に吐き出す伊藤雄之助。
最初の「つくりばなしです」という表示が、ラストシーンで効いてくる。音楽は黛敏郎。不安定な部分で20世紀音楽的な不協和音。
「ただひとりだけカネに動かされなかった」刑事・伊藤雄之助。手塚治虫のキャラみたいな受け口のもっさりした、しかしはまった役である。鹿島茂「昭和怪優伝」に1章費やして紹介がある。
以上、5年前に観たときの感想を再掲してみる。再見したら印象が変わるだろうか? 現在の政治状況をみるに、むしろこういった問題提起すら埋もれ、潮流を逆行している可能性はありそうだ。