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【#3】なか又のブランディング ー ビジョンとらしさの具現化
デザイン会社nanilaniが2018年夏から営業をしている和菓子ブランド「なか又」について、始めた理由と、そのつくり方などをご紹介しているこの連載。
#1:デザイン会社nanilaniが、なぜ菓子ブランドをはじめたのか。
#2:”和菓子界のApple” 「なか又」ができるまで
ここまでで、なぜ群馬県前橋市なのか?なぜ和菓子なのか?どら焼きなのか?「なか又」というブランド名の由来、「和むをふやす」というビジョンについて、まで書いてきましたので、3回目の今回は、「ヴィジュアル・アイデンティティ(VI)の設計」や、「お店のデザイン」についてご紹介したいと思います。
ロゴ(マークとタイプフェイス)
かまぼこ屋時代のマークを、和む菓子屋としてアップデートして使うことにしました。
元祖「なか又」のロゴ
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「丸の中に又」が、元々のアイデンティティでした。
この構造は引き継ぎつつ、「和の輪」と、前橋の市章「○」をアイデンティティと再定義。
そのまま使うのではなく、現代版にアップデートさせたいと考えました。
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黄金比を用いた幾何学的なアプローチと、毛筆のニュアンスを“和え”、新たな造形の再構築を図りました。
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そうして誕生したのがこちら。
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ちなみに掘り起こしていたらこんなものが出てきました。
コースターの裏に描いた2017年10月あたりの画像?
マークとロゴが並び、その下にコンセプトが英字で入るイメージ。
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この原案はカタチになっていて、贈答用の箱で箔押しで再現されています。
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“なか又ブルー”
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ブランドの顔つきを決定づけるブランドカラーは、代々縁のある海の色である「青」にしました。
ちなみにナニラニはハワイ語で「美しい空」なので“空の青”。
なか又は“海の青”になりました。
VI計画で気をつけていること
いちばん大切にしているのはビジョンの具現化です。
なか又で言えば「和むをふやす」の具現化です。
また“らしさ“の具現化とも言えます。
ビジョンとらしさの具現化がヴィジュアル・アイデンティティになると考えています。
ではなか又“らしさ“とは?
それは「普通の和菓子屋がやらないことをやる」です。
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寂れた商店街を、なか又ブルーの紙袋をもった女性が歩いていたら素敵だなと想像しました。
ちなみにこのブランドカラーについては、本当にブルーで良いのか...?ブルーは、「
食」では普通使われない色です。
しかし、“和菓子界のApple”として戦うのですから、「普通の和菓子屋ではやらないことをやるのが私たちの戦略の一つ。」と
確信を持って決めました。
「和菓子屋でこの色はないよね。頭おかしいよ、ほんと。」と最上級の褒め言葉を度々いただいています。イェーイ!
「差別化」できている証拠かな、と嬉しく受け止めています。
高速プロトタイピング
ちなみにデザイン会社がやっているからこそなか又でできていることがあるとすると、これ。まさに「デザイン思考」のやり方です。
PDCAを高速で回して繰り返す。
良いと思ったらどんどん挑戦してみる。作ってみる。
そして、すぐリリースし(なか又の場合は販売し)、反応を見て検証して直して、再度出してみて...の繰り返し。
商品を企画して、反応があって、それを踏まえて次の企画に挑戦する。
自分たちでやっているブランドだからこそ出来ることです。
ただしお題があって取り組むクライアントワークとは違い、
終わりがない大変さ。
自社で事業をする、というのはこういうことなのだ、というのを実感しています。
お店のデザイン
お店のデザインは、スキーマ建築計画・長坂常さんにお願いしました。
理由は、“コーヒー界のApple = BLUE BOTTLE COFFEE”の日本の店舗デザインを手掛けているため。
長坂さんには、
・自分たちの意思
・「和菓子界のApple」になろうとしていること
・再発明する、をやろうとしていること
を伝えた上で、商店街の状況や実際の見分を丁寧にしていただきました。
ちなみにこの
「前橋市でなにか新たなことにチャレンジしようとする人」と、
「物件・建築デザイナー・インテリアデザイナー・デザイン会社など」をコーディネートするスキームがありました。
MMAこと「前橋まちなかエージェンシー」の存在です。
MMAに相談し、実際には代表理事の橋本薫さんがこうしたコーディネートや、現地の案内などを動いてくださいました。
「なか又」を挟んで隣のポートランド発ハンドクラフトパスタ「GRASSA」は中村竜治さん、反対隣の「前橋カツカミ」(現在は日本橋が本店の海鮮丼「つじ半」)は髙濱史子さんと、3軒とも建築家は異なりますが、
このMMAコーディネートのプロジェクトは、「前橋デザインプロジェクト」として建築が進みました。デザインコードは“レンガ”。
デザインは全く違うものですが、レンガを使ったこの3軒の建物は素敵な一群であり、この商店街の中でも一際異彩を放っています。
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さて、想いを伝え、状況も見てもらった上で、この「なか又」の特徴ある店舗デザインはなぜこのようになったのか...?
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(詳細はスキーマ建築計画HP内の該当ページをぜひご覧いただきたいのですが、)ブランドのらしさの体現はもちろんですが、なによりも「まち」のことをすごく考えていただきました。
シャッター通りになってしまった旧態依然とした商店街。そこにわざわざ新参者がお店をつくろうとしている。せっかくやるなら、新しい商店街の姿、在り方を模索する必要がある。
商店街に人が来なくなってしまった理由の一つにあげられるのは大型ショッピングセンターの存在。いろいろなものが一気に買い揃えられるので便利です。
そんな時代にわざわざ商店街のなか又に足を運ぶということは、
予定調和な体験では満足しきれない人たちの期待の受け皿になり得る
ということ。
こういったことをたくさん考えていただき、デザインを提示されました。
「オープンキッチンにしたい」ということはリクエストしていました。和菓子屋さんの製造工程がオープンになっているところなんて見たことがありません。
全ての工程をオープンネスにしたいという構想がありました。
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最初の案は敷地面積全体を使って建物を建てて、全部がガラス張りというもの。
コンセプトは“エンプティ”。「空をつくる」「如何様にでも変えられる」「あえて作り込まない」という。
ただ、予算が倍以上かかることになるので諦めざるを得ませんでした。
紆余曲折、コンセプトは残して現実的に擦り合わせていった結果、ガラス面の上に白い塊が浮いているような不思議な建物に。
手前に店舗、奥に倉庫。敷地はレンガ貼りし、路地としました。
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従来の商店街というのは、一本道が伸び、両側に店舗が面で並んでいますが、「なか又」の場合は敷地の中に誰でも迷い込めるような余白の多いデザイン。
イートインスペースはなく、ガラス張りで厨房の様子が丸見えの店舗。「女性が多く、若いスタッフたちが生き生きと働いている姿が見えるので、商店街の活気にも一役買っている。」といった嬉しい言葉をよくいただきます。
上記のMMA・橋本さんは
「前橋市民はなか又を誇りに思っていますよ。」
と言ってくださいます。
前橋市創生プロジェクトをきっかけに生まれている「なか又」にとって、これ以上嬉しい言葉はありません。これまで行ったことのない人にもぜひ訪れていただきたいです。
その際には前橋土産にぜひ「なか又」の「ふわふわ わぬき」を!
ちなみに、世界で最も影響力があると言われているイギリス発の建築デザイン系ウェブマガジン「dezeen」にて、我が店舗をご紹介いただきました。
https://www.dezeen.com/2021/04/02/schemata-architects-nakamata-sweet-store/
そうこうして、2018年8月にようやく開店に漕ぎ着けます。
商品戦略、マーケティング施策などはまた次回!