2023年1月に読んだ本まとめ
今月はたっぷり本を読むことが出来ました。本を読んでいると色々と新しい情報が入ってくるからか一カ月が非常に長く感じました。『三体0』や『コンテナ物語』『「静かな人」の戦略書』『脳の外で考える』辺りが印象に残りました。
文芸書
宿野 かほる著『ルビンの壺が割れた』
この話はSNSのDMでのやり取りがメインになるので、台詞がメインであったり、書簡でのやり取りがメインとなる小説は文章に嘘があったり、意図的に隠している事項があるというのはある種常識なので、面白いけれど、どんでん返しをメインに売るのは誇大広告感がある。まぁ、どう売ればいいのか?と言われると窮するわけですが。
米澤 穂信著『満願』
短編はあまり好きではないのですが、こちらの短編は非常に良かったです。
夜警の渋みにやられ、柘榴の情景、満願の執念に驚きました。
万灯もよかったなぁ。大胆過ぎるやろwと思ったりはしますが。
劉 慈欣著『三体0【ゼロ】 球状閃電』
『三体』以前に書かれていた本作を日本語訳して出す際に、『三体0』とリブランディングして出された本。三体世界は関係ないのですが、『三体』で活躍した丁儀が出てきますし、実際『三体』でもこちらの話に触れられているので前日譚とするのは無茶ではないと思います。『三体』はSFの中で最も好きなシリーズなのでこちらも楽しく読むことが出来ました。
読み終わった後、『三体』の第34章「虫けら」を読み返してみました。最初に三体を読んだときには多分マクロ原子についていまいちイメージ出来ていなかったんじゃないかと思うのですが、こちらを読んだ後では鮮明にイメージすることが出来、自分も原子の中にいるような不気味な感覚を味わいました。
これは、どっかのタイミングで三部作を再読せねばなぁ。
先崎 学著
『うつ病九段 プロ棋士が将棋を失くした一年間』
『三月のライオン』が好きなので、先崎氏は私が知っている数少ない将棋の棋士の一人です。
最後の方に書かれてますが、この本はうつ病回復期末期の患者が書いた世にも珍しい闘病記で、それだけにうつ病に対する偏見を和らげてくれるのではないかと思っています。
ただそれよりも個人的には、うつ病になってしまった著書が、小学生の頃にはパッと解けるようになっていた七手詰みの詰将棋に池のほとりで唸りながら挑戦し、うつ病に打ち勝って将棋を取り戻すのだと誓うシーンや、どれだけこれまで将棋に助けられてきたのか思い返す箇所に目頭が熱くなってしまいました。
なにか、これは!というものを持っているというのは素晴らしいことですし、それが奪われるというのは本当につらい体験だったろうなと思わされました。
著者の先崎氏は感覚派だということですが、優秀な株のトレーダーってのも同じように脳で考えるんじゃなくって感覚で売買しているそうですね。一説によると人間の脳は意識に上るよりも早く何かしらのパターンを認識することが出来て、その無意識下にあるパターン認識を検知する能力が高い人を感覚派だというって話を見かけたりしました。
人文書
マルク・レビンソン著
『コンテナ物語 世界を変えたのは「箱」の発明だった 増補改訂版』
コンテナリゼーション万歳!!!
以前『誰が音楽をタダにした?』を読んだ時にも思いましたが、規格化というのはその産業を発展させるためには、必要でありつつ選定されなかった規格を担いだ会社には大きなダメージがあるので熱いなぁ。と思ったり。
荷役や沖仲仕、海運業界に胸やけしたり、マルコム・マクリーンの発想や行動に胸アツになったり。
海運コストの低下は日本の高度経済成長期にも影響あったんだろうなぁと自国のことを思ってみたり。
年始からずっと読んでいましたが、上記のように飽きずに読むことが出来ました。ただ、こんなに長く詳細に説明する必要あるか?と思わなくもない。でも、良書なのは間違いないですけどね。
ジル・チャン著『「静かな人」の戦略書』
私の場合ブクログにレビューを登録すると、Twitterに自動的に投稿されるようになっているのですが、投稿されたツイートに対して作者のジル・チャンさんと思われるアカウントからいいねされました。日本語でもエゴサされてるんだろうか、すごい。良い本だったので以下の記事に感想をまとめ直してみました。
P.G.ハマトン著『ハマトンの知的生活』
知的生活と聞くと大上段に構えた感じがして敬遠したくなりますが、内容としては、知的労働者なら誰しも押さえておきたい思考を鈍らせないための方法や、環境の作り方が書かれています。
それぞれの章で、こういった人に向けて書かれていますというのが明示されているので、ここはじっくり読もうとか、ここはぱらっと読もうとか調整出来て良かったです。
100年以上前に書かれた本なので科学的にどうなのよ?という箇所は複数ありましたが、現代でも通じる箇所の方が多く非常に参考になりました。
取得する情報に気を遣うなんてのは、情報の取得が容易になった現代においては必須スキルといえるでしょうし、「お金は時間を守るために使いお金のために時間を消費しない」というのは金言だなぁなどと思いました。
佐藤 航陽著『世界2.0 : メタバースの歩き方と創り方』
ずっと積読にしてたんだけど、もっと早く読めばよかった。思った以上に面白い。
タイトルにもある世界の創り方というのは、自走するコミュニティを作るというのとほぼ同意で、評価社会という言葉がもてはやされたころに、コミュニティやらオンラインサロンの運営について書かれていた内容とよく似ているなぁと思ったけど、そういった本を読んでいないが、仕組みは作らなくてはならない人にとっては、図解してありしかも平易な文章で開設されているこの本は使えるんじゃないかと思った。メタバース関係ないけど。
また、メタバースの浸透によって、平野啓一郎氏の提唱した分人主義がさらに進むだろうというのは如何にもありそうで面白かった。本文ににも書かれているが他人からどう見られるかという認識の上に、自己があるのであればアバターや世界が変われば自己や、振る舞いが変わるのは当然で、それが当たり前になることで誰しもが分人を意識せざるを得なくなるんじゃないだろうか。
佐藤 航陽著『未来に先回りする思考法』
どこかと言われると未来の社会を予測している2章が良かった。それぞれの仕組みの原理から未来を予測するというのは理にかなっているので、期間がどの程度かかるかはわからないですが、この本に書かれているような未来はいつか来るのでしょう。
個人的にはプライバシーとコミュニケーションの話が一番飲み込み辛かったですね。ということはそこが私は凝り固まっているのかもしれないです。
この本にも書かれてましたが、イノベーションのジレンマしかりアンラーニングというのは肝要ですなぁ。
実は5年近く積んでた本。思った以上に好物な内容だったのでもっと早く読めばよかった。原理を知るという意味ではそういった人類学とかの本も読んでいきたいなぁなどと。
アニー・マーフィー・ポール著
『脳の外で考える――最新科学でわかった思考力を研ぎ澄ます技法』
事例なども結構紹介されていて内容がボリューミーだったので何とも感想がまとめ辛いんですが、本の後半2割が本やら論文が大量に並んだ注釈なので、やりはしないもののしたければ書かれている内容の検証が可能という点で信頼できる本なのではないかと思う。
脳トレとかをするよりも環境を整えたり、取り組み方を変える方が何倍も効果はありそうです。
今後は、内受容感覚を鍛えて、良いものはどんどん模倣して、抽象的なものは脳の外に出して、PCでは出来るだけ大きい画面を使って、体を動かしたりジェスチャーをしながら考え事をしたいと思います。
チームで協力してトランザクティブメモリーシステムを構築するのは難しそうなので、ラバーダックにでも話かけてやろうと思います。
ラバーダックは何も覚えてくれないので人の代替にはならないですが、一人で考えるよりは人に説明するためにアウトプットする点で優れていそうなので。
谷川 祐基著
『賢さをつくる 頭はよくなる。よくなりたければ。』
何気なく読んでみた本ですが、思いの外面白かったため、以下にまとめてみました。
実用書
佐々木 俊尚著『現代病「集中できない」を知力に変える読む力最新スキル大全 = NEW READING SKILL ENCYCLOPEDIA : 脳が超スピード化し、しかもクリエイティブに動き出す!』
タイトルが凄くダサいですし、序文に「知の王者にあなたもなれる」的なことが書かれていてたので、読むのを止めようかと思ったんですが、逆にネタになるかもと思って読んでみたら思ったよりも同意する点が多く、最後まで面白く読めてしまいました。
情報を知識にするためには、脳の中で情報が結合されて繋がってたり、概念化されて応用が利く状態にする必要があるんじゃないかと思うんですよね。そういう意味で、作者の書いている教養というものには同意します。ただ、私の書いている知識というのが著者の書いている教養に当たるという点はちょっと違いますが。
個人的には紙の本が進められている本が多い中、電子書籍がポジティブに扱われているのは好感が持てました。どこでも読めるし、場所も取らないし、読んでて腕も疲れないといいことばかりなんですが、読書関連の本では結構否定的な意見が多く残念なんですよね。また、Kindleに対する考え方や、Kindle Unlimitedの使い方なんかも同じ感覚で読んでいてテンションが上がりました。「メモとハイライト」素晴らしいサイトですよね。
自己啓発に対する見方も非常に納得できるものでした、まぁ、私も結構読んでいるからそう思うのですが、基本的には再現性のない、生存者バイアスバリバリの本ばかりなので、何となく元気になりたいときに読むぐらいしか使い道はないんだろうと思っています。逆にそう捉えられないのであれば不幸になる可能性が高いので読むべきではないでしょうね。
同意できなかった点は、ネットの記事を多く読むという箇所です。私も昔はRSSリーダーで毎日色々な記事を読んでいたのですが、ソースの選定が悪かったのかあんまり意味を感じられなかったです。そういった経験からネット上の記事などを集めることを推奨するのであれば、それによる具体的な利点が紹介されているとなおよかったように思います。
それにしても、図書館行ったら暴力を振るわれたっていうのはなかなかつらい少年時代ですね。
金川 顕教著
『20代の生き方で人生は9割決まる!』
ネタに困って読んでみましたが、自分とここまで考え方が違う人の話を聞く機会なんてないので新鮮で面白かったです。まぁ、何回もこういった本を読みたいとは思わないですが。
田渕 直也著『最強の教養 不確実性超入門』
高校生の時に「マルチンゲールの投資方法」なら絶対に勝てるで!と、数学教師が確率の授業で言っていたのですが、なんか腑に落ちなかったんですよね。必勝法とは言うものの、リスクの分散方法を低い確率で大負けして、高い確率でちょっと勝つという風に調整していることが説明されてなかったからなんじゃないかと、二十数年経った今、思い至りました。
不確実性の話ですが、アンラーニングが大事であるとか、希望的観測と、神頼みとか、集団極性化とか、『失敗の本質』と同じようなことが書かれており、意思決定という意味で気を付けなくてはならないことは古今東西、似通ってくるのだなぁと思った次第。
「ブラックスワン」とか、「ウォール街のランダム・ウォーカー」もそのうち読んでみたい
山﨑 圭一著
『一度読んだら絶対に忘れない日本史の教科書 公立高校教師YouTuberが書いた』
歴史の授業はどうしても、一つの時代に対して、政治、経済、文化などを順に紹介するので、私のように記憶力が良くない人間は、明治時代の政治を紹介する頃には幕末の政治の話なんて忘れてるわけです。
そこでこの本を読むと、日本史の政治的な流れが一気に把握できるというわけです。
ただ個人的には、年号は雑音なので記載しないというのは、古い時代ならいいのですが、明治以降の大量の情報が残っている=細かく解説が可能な箇所では紹介されてても良かったのではないかと思いました。内閣がすぐに総辞職したといっても何年ぐらいだったのかとか気になりますしね。あと、絶対忘れないことはないとは思いましたが、江戸の武士が生活に余裕がなかった理由なんかは忘れなさそうです。
山下 貴史著『世界一わかりやすいマーケティングの本』
この本だけじゃなく、計二冊マーケティングの入門書を読んでみたのですが、思うに自分がマス向けのマーケティングに乗っていけないこととか、SEO対策されたサイトで不快な思いしたこととかからマーケティングという言葉にネガティブイメージ持ってるんだと思うんですよね。
紹介されている事例なんかも的外れに感じるものが多々あるのですが、どちらかというと私が見ている世界と、マーケティングしている人たちの見ている世界が違い過ぎるんじゃないかと思ったり。
鈴木 祐著『最高の体調 ACTIVE HEALTH』
「内臓脂肪」「炎症」という単語に耳が痛いです。
人類は多くの時間を過ごしてきた原っぱやら、森やらに最適化されている生物なので、現代社会には向いていないわけです。
そこで、最適化された環境と比べて、減ったものを補強し、増えたものを減らし、新しく出てきたものを正しく処理することで体調を良くしようというのがこの本の主題です。
食事・睡眠などモチーフ毎の本はよく見かけますが、どう体調を良くするために振舞えばよいかを生活全般にわたって書かれているというのがこの本の美点なのではないかと思います。
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