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世界のラジオ放送をラジオで聞く
今でこそネットでもラジオ番組を聞ける時代ですが、かつてはラジオ番組はラジオで聞くしかありませんでした。
私が子供の頃、ラジオで、特に海外からの短波放送を聴くのが流行りました。BCL (Broadcast Listening / Listeners) と呼ばれていました。
私のうちでも、兄が本格的な BCL ラジオの先駆けともいえるソニーのスカイセンサー5800というラジオを買うというので、私も負けじとナショナル (現パナソニック) のクーガー7というラジオをお小遣いをはたいて買いました。
海外短波放送を聞くという点では、性能的にはソニーのスカイセンサー5800に軍配が上がるのはわかっていましたが、同じのを買うのが悔しくて、見た目がかっこ良かったナショナルのクーガー7を選んだのです。
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いかにも負けず嫌いな弟らしい選び方でしたが、クーガー7の上部についている回転式のジャイロアンテナが好きでした。
その後、兄はアマチュア無線の免許を取り、無線の道を歩み始め、私はしばらく BCL を続け、さらにお小遣いをつぎ込んで、ドレーク SSR-1 という受信機を買いました。
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BCLは海外の短波放送を聞いて、その受信状態を放送局に手紙で報告すると、きれいな絵ハガキのようなベリカード (Verification Card: 受信確認証)を送ってもらえるので、そのカードを集めたり、放送の合間に流れるその放送局特有の「インターバルシグナル」と呼ばれる短い音楽やアナウンスを録音して収集したりするなどの楽しみ方があって、私は主に後者の楽しみ方をしていました。
まさか、自分が将来海外に出て働くなどとは思ってもいなかった時代、雑音の中に聞こえてくる海外からの短波放送は本当に夢のひろがる楽しみでした。
BCLの雑誌もたくさん出ていて、インターバルシグナルを集めたソノシートが付録でついてきたりして、なかなか受信できない放送局のインターバルシグナルを聞いては「いつか絶対に自分のラジオで聞いてやる」と、憧れと羨望をもって聞いていたのを思い出します。
やがて、大学に進学すると BCL どころではなくなり、BCL からは離れてしまいました。ラジオはいつのまにか母の手によってどなたかにもらわれて行ってしまいました。
はじめて海外勤務になったころ、まだインターネットで動画や音声の配信はそれほど一般的ではなく、まだまだラジオが活躍していました。
今度は日本の放送を海外から聞くのが楽しみとなりました。海上の掘削現場のリグの上から、夜、雑音に消え入りそうな日本の短波放送に耳を傾けていると、「ああ、日本は遠いな」と感じたものです。
今ではインターネットで日本のラジオどころか、テレビもリアルタイムで見ることができます。本当に時代の流れを感じます。