排出量ネットゼロへの道筋
2023年にアラブ首長国連邦のドバイで開催された気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28) では、最終合意文章で「2030年までに再生可能エネルギー(再エネ)の容量を世界全体で3倍にする」、「2050年までにネットゼロを達成する」ことが明記されました。日本もこれに賛同しています。
これは荒唐無稽なシナリオなのでしょうか?
国際エネルギー機関 (IEA) は2021年に「Net Zero by 2050」2050年までにエネルギー関連の二酸化炭素(CO2)排出をネットゼロにするためのロードマップを提示しています。
このロードマップでは、新規の化石燃料供給プロジェクトへの投資を即時取りやめることや、二酸化炭素排出削減対策を行わない石炭関連工場への投資決定を行わないこと、2030年までに世界の自動車販売の60%を電気自動車にすること、2035年までに内燃機関車 (乗用車) の新規販売を停止すること、2040年までに世界の電力部門における二酸化炭素排出のネットゼロ達成、2050年までに発電の約90%を再生可能資源由来にすること、などを求めています。
この報告書では2050年ネットゼロに向けたロードマップが示されているわけですが、このロードマップについて公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)が解説を掲載しています。発電電力の構成で見ると再エネ比率が2030年で約61%、2050年で約88%になることを想定しており、再エネ発電容量は2021年当時との比較でまさに2030年までに3倍、2050年までに8倍と、COP28の目標が整合していることがわかります。
[IGES: IEA (国際エネルギー機関) による2050年ネットゼロに向けたロードマップの解説]
IEAは2024年10月にシナリオの更新を行っており (World Energy Outlook 2024)、2050年再エネ比率を88.5%と想定しています。
世界はこのようなシナリオで動いているということですね。そして日本も対外的にこの目標に合意しているということです。
これと比較して日本の計画はどうでしょうか?現行の第6次エネルギー基本計画では再エネの割合を2030年で36~38%としています。昨年暮れに発表された第7次エネルギー基本計画案では、2040年度の再エネの比率は、全体の4~5割程度とされています。
日本政府が掲げる目標はCOP28の目標、あるいはそれと整合性のあるIEAのネットゼロシナリオからすると、「全然足りていない」状態であることがわかります。
ところで、COP28期間中には2050年までに原子力発電の容量を3倍にするという宣言も提案されました。結果的には25か国の多国間宣言にとどまり、翌年のアゼルバイジャンにおけるCOP29では新たに6か国の署名があり、宣言に賛同する国は31か国となりました。
これは前述のIEAのシナリオでは想定されておらず、COP28に参加する約200の国や地域の総意として最終合意文章に明記されたコミットメントとはあまりにレベルの違う話だと感じます。原発が地球温暖化対策の切り札とは世界的には認知されていない現状を明確に表しているのではないでしょうか?