虚なのか、実なのか……
《エクス・リブリス》の『別れを告げない』がお陰様で好調です。やはり韓流文学の中でもハン・ガンの知名度や売れ方は群を抜いていると感じます。既に読んでいる方も多いと思いますので、以下にはネタバレ的なことを書きますが、ご寛恕ください。
その前に、済州島4・3事件を背景としている作品ですが、あたしは不勉強にも、この事件のことはまるで知りませんでした。光州事件は聞いたことがありましたが、こちらに関しては全く聞いたこともない出来事でした。お隣の国の出来事だというのに、あまりにも知らないことだらけですね。情けないです。
さて、本書は女性二人が主人公です。若い頃からの友人で、いまはお互いそこそこの年齢(40歳代?)になっています。全く音信不通ではないけれど、しょっちゅう連絡を取り合っているわけでもない、そんな間柄です。
その一人が済州島に住んでいて、指を切断する事故に遭います。もう一人が病院へ駆けつけると、自宅で飼っている小鳥に餌をあげに行って欲しいと頼まれます。今日中に行かないと、鳥籠の中の餌が残り少ないので死んでしまうからと言われ、仕方なく済州島の友人の自宅へ向かいます。
なんとか島へ着いたけれど、友人の自宅は山の中で、時間的にまだバスが走っているかかわかりませんし、雪も降ってきています。どうにか友人宅の最寄りまで行くバスに乗り、目的のバス停で降りたものの、辺りは暗くなっていて、雪も深く、友人宅までの道がよくわからなくなっていました。そんな中、雪を踏み分けて歩くうちに主人公は足を踏み外し、数メートル転落してしまいます。
幸いにも、大したケガもなく、なんとか友人宅に着きましたが、既に小鳥は息絶えていました。死んだ鳥を庭に埋め、友人宅にいると、ケガをした友人が現われたのです。友人のケガの具合から考えて、とてもベッドから出られる状態ではありません。どうやってここまで来たのでしょう。
その謎は最後まで明かされません。果たして、現われた友人は幽霊だったのでしょうか? ただ、幽霊が現われるなんて、ちょっと非現実的すぎます。となると疲労なども相俟って主人公が幻覚を見た、あるいは友人宅で眠ってしまった主人公の夢の話なのかとも思います。これが一番素直な解釈でしょうか。
ただ、あたしは読みおわった時には、最初は上記のように思ったのですが、実は雪道で足を踏み外した時点で主人公は亡くなっていて、そこから先はすべて自分が死んだことに気付いていない、あるいは生死の境を彷徨っている主人公の妄想の世界なのではないか、とも思いました。なんとなく、その方がこの物語全体のトーンに合っているなあ、と感じたのです。
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