農産物の美味しさを決めるものは何か?
ピーマンのシーズンになりました。暑い日が続きますので冷やしピーマンが美味しい季節です。自分自身ピーマン畑で生のピーマンをかじりながらもっと美味しくなるにはどうしたら良いんだろうか悩みます。
いろんな人の話を聞いたり、本を読んだり、自分で食べたりして、何が美味しい農作物の要素なのかをまとめてみました。
品種
その品種がその土地の気候風土に合っていること。合わない品種をどんなに頑張って作っても、その品種のポテンシャルを引き出すことはできません。また、その土地の気候風土に合う品種の中で最も美味しい品種を選ぶこと。例えば糖度を例に取ると、ある品種はどんなに頑張っても16度までしか上がらないが、ある品種は20度を超える、ということがあります。これは品種のポテンシャルによるものです。その品種が持っているポテンシャル以上の味は出ません。だから品種選定って大事なんです。
旬
作物ごとに旬の時期があります。旬の時期は作物のポテンシャルがMAX発揮されます。今でこそいろんな作物が年中棚に並んでいますが、例えばハウスで冬に育てた夏野菜って夏に食べるのと比べると美味しくないですよね。味だけじゃなく旬の時期はその作物に適した環境で生育するので栄養価も高くなります。
鮮度
野菜は畑の刺身だと誰かが言ってました。採った瞬間から味が落ち始めると。
確かに採りたての野菜は美味しいです。瑞々しさ、食感と言ったところが、時間と共に失われていくんでしょうか。通常市場経由でスーパーに並ぶ農作物は収穫から3日ほど経過しています。農家直売だと最短当日です。この1日2日の違いが、本当に美味しいか、普通に美味しいか、の微妙なれど大きな違いにつながるのです。
芋類だとかは熟成を経た方が美味しいものもありますので食べるタイミングと言った方が正しいのかもしれません。
植物の健全度
その植物が病気や害虫被害に遭っておらず、健全に根を張り、土中の養分を吸い上げ、葉っぱも元気に光合成できる状態であることが美味しさの前提にあります。病気の植物からは弱々しい収穫物しか採れません。慣行栽培より有機栽培の農作物の方が美味しいという方がいます。慣行栽培は病害虫の影響を少なくし健全度を保つために農薬を使います。有機栽培では(化学)農薬を使いませんので、病害虫の被害を受けることが多々あります。また、土の栄養状態のバランスが良くないと生育も弱々しいものになります。そうすると光合成がまともにできなかったりしますので美味しい農作物にならないわけです。慣行栽培でも健全に育った野菜はとても美味しいです。もちろん有機栽培でも健全に育った農作物は美味しいです。
当然の話として天候が悪いと植物は健全な成長ができません。雨が続いて日照不足で光合成ができない、水分が多く根腐れ。逆に高温乾燥で水分養分を吸えないため生理障害。強風で叩かれダメージ。季節外れの低温で生育停滞などです。ただし、周りの農家はみんなコケているのに何事も無かったかの如く生産している農家はいて、そう言った農家はトラブル対処法を熟知しているのはもちろん、後で書く根張りが良い状態を作るのが上手いです。
土壌の養分バランス
主要三元素NPK窒素リン酸カリの他微量要素もろもろ。リービッヒの最小律という言葉があります。植物の生育はNPKの中で最も少ない養分によって影響を受けるというものです。例えば窒素が多くても、カリが少なければ、カリがある分しか活用されないということです。植物の体は単一の成分でできているわけではありません。人間を例にするとわかりやすいですが毎日炭水化物しか食べていない人はまともな健康状態になるはずはなく、病気になってしまうでしょう。野菜やタンパク質、ビタミン類、ミネラルなどバランスよく取ることが食生活上の健康の秘訣かと思います。植物も健康な体を作るためにバランス良い土壌が必要なのです。そういう意味では上の植物の健全度と関連する話です。ちなみに何も考えずに化成肥料のみを与え続けている土はミネラル分の欠乏が起こり始めます。また土壌の物理性としても有機物が少なくなり、固くしまった土になり、根張りが悪くなります。慣行栽培の農家でも土壌に気を遣っている農家はたくさんいます。人によってはものすごい土壌の勉強をしています。そんな農家の農作物はもちろん美味しいです。有機栽培の農家はナチュラルに任せてしまって勉強していない人がたまにいます。その人のセンスが良ければそれでも良い作物が取れます。でもナチュラルに理想のバランス状態に持っていくのは相当な技術が必要だと思います。だから有機栽培で美味しい作物を作り続けている農家というのは当然相当勉強しています。慣行栽培でも有機栽培でも美味しいものを作る人は努力しているし、勉強していない人はそれなりです。味に関していうと有機だから慣行だからという分け方は正直ナンセンスだと思います。ただし、個人的な感想として、有機栽培で技術ある農家の作物は最高に美味いです。慣行栽培はテクニック、有機栽培はテクニック+自然の不思議が加わります。人間のテクニックや人工物は、有るか無いか、0か1かで表されるものが多いです。自然界にはその中間が存在します。人間が知っている物質と物質の中間体です。まだまだ人間が科学的に知らないことは多いですが、そのアンニュイ的な物質、ちなみにそいつらは微生物の働きで作られると考えられます。そういうアンニュイ的な物質を吸収することによって農作物は味わい深くなるのです。人間も白か黒かだけの人よりもグレーな要素持ってる人の方が奥行き深いですよねーというのは個人的な感想です。
話を植物の栄養素の話に戻しますが、窒素が多いと味に影響します。植物は必要な量の窒素を吸収するわけではなく濃度勾配で根から窒素を吸収するらしいです。だから窒素が多いと自身の成長に必要以上の量を吸収してしまいます。結果、植物内に消化しきれない硝酸態窒素が溜まります。これがえぐみ、苦味に繋がり、作物本来の味を邪魔するわけです。窒素過多は慣行栽培でも有機栽培でも起こり得ます。が、有機栽培では有機質肥料の窒素放出が緩やかなため、よほど何も考えてない農家でない限り味に影響するところまではいかないでしょう。
根張り=土壌の物理性
根張りが良い、根量が多いということはそれだけ水分や栄養素を吸う力があるということです。それはすなわち植物の健全度に繋がります。根が張るためには土壌が柔らかい必要があります(土壌が柔らかくなるためにはまた深い話があります)。
根を張るためには根を伸張させるための栄養素が必要になります。いろんなことが複合的に繋がるわけです。
話を始めに戻すと、根張りが良い、根域が広い、根量が多い、ということは水分を吸う能力が高いということです。また水分と同時に様々な養分を吸収しますが、根域が広く張ることによって吸収できる養分、特にミネラル分いわゆる微量要素も豊富になります。そうすると植物はさらに健康に、さらに味わいが奥深くなるのです。
まとめ
自分が味に影響すると思うことをずらっと並べてみました。
実際にはもっと様々な要因があると思います。
個人的には短期的に土壌の養分バランスを整えながら、長期的に土壌の物理性をよくしていく方向で進めています。その上で農薬をできるだけ減らしながら、どうやって植物の健全度を保つか。植物が健康でさえあれば、あとは鮮度が良ければ美味しい農産物ができるとシンプルに信じています。