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松本清張 朝鮮を題材に取る

実在した朝鮮の詩人林和を主人公とした松本清張の作品。清張は、そのときは些細とすら思えないような出来事が、強大なボタンの掛け違いとなって、後々に、当人や周囲、社会を翻弄させていく展開を記述するのが非常にうまい。
人間の主体的な決断を悲劇的な結果として裁断してしまい、決断した人物を翻弄して、逃げ道を与えない清張の筆致は人間精神や社会というものの襞をよく捉えているともいえるし、清張自身がどこかルサンチマン的で、人間の運命をそのように描いてしまうのかなとも思う。清張自身は非常に遅咲きの作家であるし、天衣無縫且つ陽性な人物では無かったんだなという推測は、折々の清張作品を読むと、より一層に強まる。
「北の詩人」の舞台は主に日帝支配からのくびきが外れた戦後すぐの朝鮮半島が舞台ではあるが、実はくびきの状況下に置かれた人間は日帝なら日帝が消え去っても、その残滓に苦悶せざるを得ない。そしてその残滓は現在や未来をも束縛する。実に息苦しい。
残滓にはより陽性で明るいものもあるはずだが、清張は陰性な面をいつも掬い取る。果たして本作もそうであった。
物語のかなり最後の方に北朝鮮政府による林和やその他の人たちに対する判決文が記載される点では、実際に綿密な取材結果に基づいて考察された清張ならではのノンフィクション作品の赴きもあるように思えるが、本作はあくまでも清張ならではのニヒルな人間や社会観察に基づく、フィクションとしての小説である。

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