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ザラついた船橋の街・ソースラーメン

この間船橋に行った。船橋のソウルフード・ソースラーメンというものを食べに。新宿から総武線に乗り、何本かの河を渡ると、駅前にだんだんとパチンコ屋、ラブホテルが多くなってくる。
船橋駅は、昔住んでいた松戸と似た雰囲気だった。とにかく居酒屋、あとは風俗店も。細くて曲がりくねった道の汚れたアスファルト、あちこちに停められた自転車、昼間から飲んでるらしい団体の男たち。

こういう場所にくると、つらい人生、酒で労働の苦痛を癒して、狭い和室のアパートでカップ麺を食べているような中年男を想像してしまう。そして、赤くて安っぽいスカートをヒラヒラさせ、ミュールの踵はカパカパに、ボロくなった鞄を持って鶏みたいに歩いている、もう若くはない飲み屋の女とか…
歌舞伎町の喧騒とはまた違うのだ。全体的にうらぶれている。


ソースラーメン。定番らしいハムカツをトッピング

赤いのれんを押して入る店内は狭く、一人客が多い。建物の正面はプレハブっぽい。テレビの取材もたくさん受けているらしく、芸能人のサインが貼ってある。
味は、とてもしょっぱい。ソース焼きそばを液状にした感じ。最初はおいしくてパクパク食べたが、量が多くて&味が濃いので後半は同行者に食べてもらった。少食めな女性だとたぶん一人では食べきれない。常連客は、卵やバターをトッピングして味変しているんだろうな。
同行者によれば、このへんは昔から肉体労働者が多いので、食べごたえがありしょっぱいものが好まれ、ソースラーメンが生まれたとか。

海老川沿いをららぽーとに向かって歩いていった。
時々、きれいなマンションもあるけれど、川沿いの堤防は低く、氾濫しそうな場所だった。後々調べたら、今までも何度も氾濫しているとか。
釣り用のボートが停泊しており、護岸工事はおざなりになっているために葦のような植物も生えて、倒壊した釣り小屋なども放置されている。私有地なのかよくわからない三角地に、古い平屋が建っている。ここは昭和の景色のままだった。
ららぽーとのすぐ裏の住宅街は、治水が良くない土地のせいなのか、貧しそうな小さな家がぎゅうぎゅうに並んでいる。そんな家と京葉道路のすき間の草地に、野良猫が寝ていた。ちかくに土と水場があって、(魚だか虫だかの)狩りもできる、こんな場所は、猫にはきっと楽園だ。

京葉道路を越えると、景色は変わる。ららぽーとはでかかった。とにかく。高層マンションもバンバン立っていた。裏側の川の堤防は低いままなのに、埋め立てた表側の船橋は、開発されまくっていた。もともと沼地だったような埋立地に、あんな高いビルを建てて大丈夫なんだろうか、といつも心配になる。私はしっかりとした地面の上で眠りたいから、沿岸のタワーマンションに住む人の気持ちはわからない。

三井不動産が開発したショッピングモールはどこも均一的な空間だ。それだからこそ、安心感もある。ソフトクリームをなめながら、普段着の家族連れを眺め、新宿でも買える商品をぶらぶら物色する。私は何も買わなかった。でも休日は、これでいい。予定調和と、安心感。同じことの繰り返し。日常に刺激は欲しいけど、ソースラーメンを食べて昔に思いを馳せるくらいでいいじゃないか。物事を、ぜんぶわかろうとしたら正気ではいられない。昔の人の苦労とか、貧困とか……なんでこんなバランスの悪い街になってしまったかとかさ。
私は人の苦しみを自分の苦しみのように感じてしまう。また、無駄に豊かすぎる想像力で、未来や過去の苦痛を現在に感じてしまう。
だから、このきれいに開発された空間で、ソフトクリームでも舐めて、隣のでかいIKEAで手つなぎデートでもして、何も考えないのが良い。

鈴木いづみは、音楽には内容はいらない、軽薄なのが良い、と言った。ソウルなんて聞いてたらつらいんだよ、だって人生は残酷なんだからさ。
正気で生きていくためには、半分くらい目をつぶっているのが良いらしい。
幸せなんて、究極に自己中心的なものだと思う。


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