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「大人の無責任さ」を招く豪州SNS禁止法案ー規制という名の思考停止ー
結論から言えば、豪州やフランスで可決されている未成年のSNS禁止法案は「大人の無責任さ」によるものが大きいと認識している。
かつて、神戸連続児童殺傷事件でも大きな問題として取り上げられたのが未成年による「犯罪」である。
しかし、ふたを開けてみれば、未成年の凶悪犯罪はほぼ稀なケースであり、通り魔殺人や連続殺人の多くは「大人」が行っている。未成年の凶悪事件はほぼ稀なケースなのである。
「稀なケースだから」だからといって、未成年犯罪は許されるものではない。しかし、大人たちは、一つや二つのケースだけで、まるで「未成年全員がこうした凶悪事件を引き起こすだろう」と妄想する。
特異な人間というのは善悪問わず存在するにもかかわらずである。
こうした「未成年絶対悪論」に共通する点は、大人たちが自らの「無責任さ」を隠しているケースが多いのである。
話は逸れたが、今回のSNS禁止法も、まさに「子どもは信用ならない」という理由だけで親や大人としての「責任を放棄した」ものである。
SNS禁止法案の内容
オーストラリアが16歳未満の子どものSNS利用を禁止する法律を制定したことは、子どものオンライン安全とメンタルヘルスを守るための重要な一歩と評価されている。
この法律により、FacebookやTikTok、Snapchatなどのプラットフォームは、16歳未満のユーザーのアカウント作成を防止する義務を負い、違反した場合は最大で約50億円の罰金が科される。
シドニー大学メディア・コミュニケーション学部のロブ・ニコルズ氏は「その根拠は、ソーシャルメディアは良いことよりも悪いことの方が多いとオーストラリア人の大多数が感じていることだ」と語った。
この法案の支持者は、「ソーシャルメディアによって傷つけられることが研究で次々と明らかにされている子供たちの脆弱な精神衛生を守るために」この法律が役立つだろうと述べている。
SNS上では児童ポルノ、女性蔑視的なコンテンツが青少年に悪影響を及ぼすとの主張があるからだ。
オンラインで被害を受けた子どもの被害者遺族たちも法案に賛成している。例えばソニア・ライアンさんは、15歳の娘カーリーちゃんを、オンラインで10代のふりをした50歳の小児性愛者に殺害された。
ライアン氏はまた、上院の投票を「子供たちをオンライン上の恐ろしい危害から守る歴史的な瞬間」と指摘している。
ネット詐欺が原因で自殺した10代の息子マックの父親であるウェイン・ホールズワースさんは、この法律を支持し、可決されたことを喜んだ。
「私は常にオーストラリア人としての誇りを持ってきたが、今日の上院の決定を受けて、私は誇りでいっぱいだ」と語る。
「敵はSNSにあり」という責任転嫁
こうしてみると、オーストラリア世論の8割程度が、この法案を支持しており、青少年の育成において「SNSは有害である」と結論付けている。
だが、果たしてそうであろうか?
実は、オーストラリアの人々が「見て見ぬふりをしている問題がいくつかある」
「成人ユーザーの無責任さ」
第一に、「成人ユーザーの問題」である。
人身売買や小児性犯罪者は、何もSNS時代から起きているわけではない。過去にはより凶悪な児童連続殺人が起きている。先ほど例に挙げた神戸児童連続殺人事件では、SNSどこからネットさえほぼ普及していない時代の出来事である。
つまり、SNSが直ちに性犯罪と結びつくのには無理があるのだ。
ChatGPTやインターネット検索、論文サイトなどを見てみると、実はある共通点がある。
誰しもが「SNSが子どもの心理や発育に影響を及ぼす」という着眼点しかないということである。
つまり、科学的なソースは、常に「SNS絶対悪論」を推しており、「それを利用する子どもの周辺環境の悪性」については議論していないのである。
溢れる「ネット広告」と規制法案
「成人ユーザーの問題」に付随して「ネット広告」の問題が挙げられる。
「まとめニュースサイト」は現在ではほぼ慣れ親しんだ情報源であるように思われるが、あるニュースサイトでは広告に成年向けの18禁漫画の広告が平然と並ぶ。
旧Twitterでも「普通の漫画だと思って開いたら、エロ漫画だった」という広告が蔓延している。
つまり、大人の事情によるものが非常に大きいのだ。
新聞やテレビに掲載できないCMや広告も、ネット上でなら簡単に発信できてしまう。しかし、多くの人間がこれを見過ごしている。
まず行わなければならなかったのは有害サイトや有害広告を違法化ないし、アクセス不能にすることではなかったのだろうか?
以下はそうした有害サイトや有害広告に対する禁止法案の例である。
アメリカ
Children's Online Privacy Protection Act (COPPA):
13歳未満の子どものデータ収集を制限し、ターゲティング広告を含む子ども向けの有害広告の配信を禁止。
子ども向けのオンラインサービスにおける広告内容が厳密に監視されます。
Federal Trade Commission (FTC) Act:
虚偽または欺瞞的な広告を禁止。例えば、誇張された健康商品や詐欺的なビジネスオファーの広告は取り締まられます。
インフルエンサーが広告と明示せずに商品を宣伝する行為も規制対象。
ヨーロッパ
EUの一般データ保護規則 (GDPR):
個人データの取り扱いに関する厳格なルールを課し、同意なしにターゲティング広告を表示することを違法としています。
特に子どもや脆弱な層をターゲットにした広告は、データ利用の観点から規制されています。
Digital Services Act (DSA):
有害コンテンツの拡散や偽情報を助長する広告を規制。
ターゲティング広告に透明性を求め、大規模なオンラインプラットフォームに責任を課す。
日本
景品表示法:
誇大広告や虚偽表示、消費者を誤解させる内容の広告を禁止。
違反した場合、事業者に対して罰金や表示改善命令が出されることがあります。
青少年インターネット環境整備法:
子どもに不適切なコンテンツや広告が表示されるのを防ぐために、フィルタリング機能の活用を促進。
日本の場合は「青少年インターネット環境整備法」が存在するが、これがうまく機能しているかは議論の余地があるだろう。
オーストラリアでは、2021年に「Online Safety Act 2021」と呼ばれるオンライン安全法を施行している。
この内容は有害コンテンツの削除命令を行なうことができる法案である。
次に、こうしたオンライン安全法が存在するにもかかわらず、なぜオーストラリアが未成年の利用禁止に踏み切ったのであろうか?
「プラットフォーム」の無責任体制
この背景には、「プラットフォームの不適切な運用」が挙げられる。
SNSの運営会社は外国企業であることが多く、国によって対応が異なるケースが多い。
グローバル化といえば聞こえは良いが、プラットフォームを出すからには一つ一つの国の歴史、文化、社会に目を配らなければならない。
非常に遺憾なことに、オーストラリア支部のSNS企業の多くは問題から目を逸らし続けたのではないだろうか。
オーストラリアで特に問題となったのは、一部のSNSプラットフォームやサービスプロバイダーが、オンライン安全法の協力に消極的であった点である。
これは非常に問題である。
特に、アメリカやヨーロッパでは、フィルタリングと呼ばれるアルゴリズムの生成やターゲティング広告は未成年に対して行ってはならないとする規制法がある。
つまり、子どもユーザーのデータ収集の禁止である。
オーストラリアではどうやらこのターゲティング広告やフィルタリングの規制が徹底されていなかったようだ。
これも大人の都合と無責任さの表れである。
なぜなら、そうしたネット広告はSNSの収入になるという「収益構造の問題」が存在するからである。子どもユーザーの広告にフィルターをかければその分の利益が減少するのである。
Xで問題となった「インプレゾンビ」への対応が遅れたのも、この影響が大きい。
次に「各国によって規制が異なるため対応できない」とする指摘もある。多くの場合は「表現の自由」を意識して法律も曖昧になる。
たとえば、先ほど挙げたアメリカとヨーロッパにおけるプライバシーやデータ保護の要件は非常に異なるため、グローバルプラットフォームの整備はさらに時間と経済的費用がかかる。
だが、これを実現できないならば、グローバル企業の多くはサービスを停止しなければならない。「リスクがあれば、止める」は例えば自動車や原子力発電技術、そして航空機などの業界では常である。
「年齢確認ができないという問題」も指摘される。
しかし、これこそプライバシー侵害のリスクと思考停止してはならない。近年では、多くの場合、身分証とカメラを用いた動体的な検知によって身分証明が可能である。
私の見たSNSの中では「収益化」などでその確認を行う企業はあるが、登録の段階で義務付ける企業はない。
未成年と疑わしいアカウントは積極的に連絡を取るべきであるし、親も子どもの安全を考えて自分のアカウントを利用されるのを止めるべきである。
「有害コンテンツの量が多すぎる」という問題も指摘されるが、これもナンセンスな言い訳である。
そもそも、それまで放置して大量に広告を打ち出したり、無許可コンテンツの使用を許可してきたのは「御社」であろう。
親と学校と社会の無責任さ
最後に三者三様の大人たちの無責任さを問いたいと思う。
まず、親や学校がなぜ子供たちのSNS利用に対処できないのか。
これには「ジェネレーションギャップ」が存在する。
多くの親や教育者は、自分たちが育った時代にSNSが存在しなかったため、SNSの仕組みやリスクについて十分に理解していない場合があるのだ。
特に新しいSNSプラットフォームやトレンド(例: TikTok、Snapchat)についての知識が不足していることが多い。
例えば、親世代はSNSに興味を示して、子どもに登録方法や投稿方法を尋ねてイライラされることがある。親はどんどんSNS投稿に関して子どもに依存していく。その結果、炎上に加担したり、犯罪に巻き込まれたり、あるいは自らが犯罪を犯すなど重大な過ちをしてしまうのだ。
つまり、親世代は子どもよりも危ない「いつ爆発するかわからない火薬」なのである。
SNSの知識が身についていない結果、SNS上のリスク認知が不足している。
例えばSNSが子どもたちに与える影響(例えば、サイバーいじめ、依存症、有害コンテンツ)を過小評価している場合があったり、「他の子も使っている」という理由で問題視しない傾向もあるようだ。
その結果、親や教育者はなぜかそもそも子供たちに「リテラシーが必要だ」といっているにもかかわらず、その「リテラシーが身についていない大人」なのである。
次に、親や学校は仕事や家事、カリキュラムの作成や学校管理に追われているため、SNS問題に対応するリソースが割けない。
しかし、これも批判的に見なければならないだろう。
今の時代、親世代の中にはSNS利用者が多く存在するはずである。にもかかわらず、自分たちのSNS利用時間はあって、子どもに割く時間がないというのはおかしな話なのだ。
親や教師の中には、SNSのプライバシー設定やフィルタリングツールの活用法を知らないケースが多いらしいが、ならば「君たちこそSNS利用が禁じられるべきなのでは?」と首を傾げてしまう。
そして、前述したが、大人たちは「過度に子どもの未熟さ」に注目する。
これは、心理学者を含め、多くの研究者の姿勢についても批判したい。メディア論やコミュニケーション論を教えている博士号を取得した人間ですら「大人の無責任さ」ではなく、「SNSと子どもの責任論」にしか目を向けていない。
SNS上でも、子どものSNS利用の問題が起きた場合、「子どもは発達段階で、まだ自己管理能力がない」という論調が目立つのだ。
しかし、これは事実の一側面に過ぎないのである。問題は、そうした発達段階の環境を「大人が邪魔しているという事実に目を背けていること」である。
そして、最後に「社会による責任転嫁」である。
よくSNS上では、「親が子どもをもっと管理すべきだ」「学校がSNS教育を強化すべきだ」といった議論が展開されがちであるが、SNS上で大人が子どもにどのような影響を与えているかには触れていない。
そもそも、「誰かに責任転嫁する姿」をあなたたち自身が繰り広げていることは棚に上げてないだろうか?その姿を見た子どもたちに、悪影響ないのだろうか?
子どもたちが、君たちが繰り広げる「ヘイトスピーチ」、「誹謗中傷」、あるいは「フェイクニュース」に触れることで、それが「普通のこと」として認識されていることに、何の責任も感じないのだろうか?
親や学校に責任転嫁する前に、自分自身を見直す必要がないだろうか?
こうした親・学校・社会を構成する大人たちは、大人自身の行動に対する無意識的な自己免罪を子どもに押し付けていないだろうか?
「規制は正しい、俺達は子どものことをよく考えているんだ」
果たして、このロジックのどこが子どものためなのだろうか?
自分のためではなのだろうか?
自己を直視できない大人の犠牲者たち
SNS問題を「子どもの心理的影響」という観点に閉じ込めてしまうことは、大人の無責任さを直視しない方便になりかねない。そして今回の規制は、多くの策がまだ講じられるにもかかわらず、「即効性」だけを頼りに「大人たちだけが安心を得たい」がために起きた人類最大の暴挙である。
そもそも、「デジタルリテラシー」が叫ばれて長い期間、大人たちは何をしてきたのだろうか?
親や学校は、果たして子どもの模範になっているのだろうか?
そもそも、親は子どもとコミュニケーションを図っていたのだろうか?
社会はどうだろうか?自分のことを棚に上げて、責任を全て別の人間に転嫁していないだろうか?
プラットフォームはどうだろうか?
かつてコンコルドが運航停止になったのは、その技術に見合うだけの付属技術とコストが存在しなかったからだ。つまり、人類には早すぎる技術であった。
では、SNSはどうであろうか?
人類には早すぎた技術なのではないだろうか?
解決のためには、子どもを守るだけでなく、大人自身が自分たちの行動に責任を持ち、社会全体でその影響を認識し、改善する努力が必要なのである。
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