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君たちは何と闘っているのか?ー終わらない池袋暴走事故と「指で殴る」人たちの暴力性ー


2019年に発生した東京池袋の自動車暴走事故は、被告・飯塚幸三氏の有罪判決で幕を下ろした。被告は2024年11月に死去したことが発表され、遺族である松永拓也さんがX上でコメントを発表したことで収束を迎えようとしていた。

しかし、今日、わが目を疑うニュースが舞い込んだ。

横浜市に住む女子中学生が松永さんを「殺してあげよっか」などと脅迫したことが発覚した。

警視庁は28日に、女子中学生を書類送検する方針を固めた。

捜査関係者によれば、女子中学生は、2024年9月11日、松永さんが所属する関東交通犯罪遺族の会「あいの会」やその他、愛媛県松山市役所に対して「殺してあげよっか」「やる意味あるの」「妨害しにいってやおるか」などといったメールを送ったという。

警視庁の調べに対して女子中学生は容疑を認め「反省しています」と話しているという。

その際に、公開されたメール内容がこちら。

これに対して松永さんは誹謗中傷に対する開示請求権を行使し、警察に相談したという。

メールの送り主が女子中学生ということもあり、ネット上では衝撃が広がっている。

これに関して、ネット世論では「対応が甘い」「厳罰化するべき」「少年法を廃止すべき」「未成年だからという限度を超えている」など、女子中学生を非難するコメントにあふれています。

松永さんの活動


池袋暴走事故は、多くの人の心に深い傷を残したと言っても過言ではない。この事故で、松永さんは妻の真菜さんと娘の莉子ちゃんを亡くし、悲しみを抱えながらも「同じ悲劇を繰り返させない」という思いで交通事故防止の活動を続けてきた。

松永さんは交通事故の遺族として一般社団法人「あいの会」で活動を開始した。この「あいの会」には他にも交通事故の遺族が所属している。松永さんが極端に注目されすぎているきらいがあったが、これは交通事故が当時、各地で頻発していた高齢者によって引き起こされたもので、かつ若者が殺害されたという構図が存在したからである。

「あいの会」は交通犯罪で家族を失った遺族が集まり、同じ境遇の方々の支援や交通事故防止の啓発活動を行う団体である。また、一般社団法人とは、営利を目的としない非営利法人のことであるため、「あいの会」も利益を追求する団体ではなく、社会的な目的のために活動している。

一般社団法人は、通常の法人と比較すると余剰分の利益を構成員に分配できない。「あいの会」は寄付金、講演料などで収益活動を行っているが、そこで得られた利益が構成員である松永さんに与えられるわけではない。無論、従業員や理事への給料や役員報酬というものがあるが、これにも「利益分配にあたらないようにする」という制約が課せられる。そのため、あらかじめ定款に定めるか、社員総会の決議によって定める必要がある。また、非営利型一般社団法人の場合、過大な役員報酬を支給すると、非営利型法人としての優遇措置を失う可能性がある

なお、「あいの会」の会則には以下のように書かれている。

第12条「役員の職務」
6. 役員において一定量以上の実務が生じると認められるときは、別途報酬を定めることができる。

ただこれも、日常生活における通常の仕事があって、その仕事が阻害される場合であると考えられる。

現に、2023年時点で松永さんは会社員として働いている。

そのため、松永さんに対する報酬が支払われていたとしても、会則や定款を遵守したものであるため、通常の仕事で支払われる給与よりも少ないと考えられるのだ。

https://fields.canpan.info/organization/detail/1872749336?view=pc#finances

実際に「あいの会」の会計情報を見てみると2022年度決算における「人件費」は24万円となっている。

止まない誹謗中傷

しかし、その活動のさなかで、松永さんは信じがたい形で再び傷つけられることになる。

中傷内容は、「松永さんが金銭や注目を求めて活動をしている」といった内容である。

2022年3月、愛知県の無職男性(23)が松永さんのツイッターに「金や反響目当てで闘っているようにしか見えませんでした」「しつこいので黙っててほしい」「金がほしいのは事実だろ」などと投稿した。恐らく、松永さんに対して日常的に誹謗中傷を行っていたと推測される。

ただ、あまり注目されなかったからか、2022年8月には、自身のツイッターに「新宿か秋葉原でどーなるか覚えておけ」と書き込み、歩行者天国を中止させる手続きをとらせるなど警視庁万世橋署の業務を妨害したという。

無職男性は公判で、松永さんに対する侮辱罪について、投稿は認めたが、「侮辱する意図はなかった」とする苦しい主張を繰り広げた。判決は、男が松永さんのアカウントの返信欄にわざわざ投稿していたことから、意図的な侮辱と「松永さんを侮辱しようと考えて投稿したと認められる」と判断した。

松永さんは2023年10月28日に、自称暴力団組員を名乗る男性から「年のいった受刑者に金を払わせるのはおかしい。近いうちに松永を殺しに行く」という電話を受けた。

この電話の前日に、飯塚幸三氏は東京地裁によっておよそ1億4000万円の損害賠償の支払いが命じられていた。ただし、飯塚氏は交通事故に備えた自賠責・任意保険に加入していたため、賠償金は保険会社が支払うことになっていた。

そのため、脅迫の前提がそもそも間違っているのだ。

明白な殺害予告であり、警視庁は鳥取市の無職、吉村育久容疑者を逮捕した。容疑者は容疑を認めた。

誹謗中傷の嵐は止む気配がない。

2024年7月4日、警視庁は松永さんを誹謗中傷した、一般社団法人「法科学解析研究所」(福岡市)の代表理事を務め、交通事故鑑定人でもある石橋宏典の男(57)を侮辱容疑などで、

埼玉県川口市に在住の派遣会社の男性(55)を名誉毀損容疑で東京地検に書類送検した。

石橋宏典は、Xの音声チャット「スペース」にて、松永さんを「金狙い」「あのボケ」と侮辱した。加えて、石橋氏の誹謗中傷は日常的に行われており、交通犯罪遺族会「あいの会」代表理事の小沢樹里さんや2012年の京都府亀岡市暴走事故で娘を亡くした中江美則さんにも「他の遺族と性的関係を持っている」などと発言していた。

なお、石橋氏は「鑑定人イシバシ -交通事故ミステリー-」という番組も持っていた。つまり、被害者遺族などと密に関わっている関係者であったのだ。

2024年11月12日、東京区検はこの男性を名誉毀損と侮辱の罪で略式起訴し、東京簡裁は罰金30万円の略式命令を出した模様。

衝動的に「指で殴る」人たち


中傷は、松永さんや他の被害者遺族の持つ痛みに追い打ちをかけるものであった。もし、家族を失った人間が「金銭目的」や「承認欲求」というように映っているのならば、その人は今一度鏡を確認した方が良い

それは、あなたのさもしさがそう思わせているからである。

ただし、私たちは被害者遺族を傷つける行為がなぜ起きるのかを深く考えなければならない。

社会的な一般論として「SNSでこうした騒動が発生するのは、匿名性による責任感の欠如があるから」と断定される。確かにそれも一因であるだろうが、私の考えでは異なる

例えば、今回の女子中学生にしろ、石橋氏を除いた誹謗中傷者にしろ、多くの場合は一般社団法人や保険金制度に対する誤解や無知が見受けられた。また、石橋氏においても制度面での誤解があったと思われる。ただ、石橋氏の場合は会話内容を見ていると「被害者遺族A」という人物が彼のバイアスに拍車をかけているようにも思えてならない

また、女子中学生と石橋氏以外は、報道で「派遣社員」あるいは「無職」と報じられている。すなわち、多くの誹謗中傷犯は、経済的地位が低かった可能性がある。

加えて、言葉による暴力は、拳を使う代替的な行動であると考えている。
つまり、人を殴りたい、怒りに身を任せたいと考えている人間は、実際に暴力を振るうわけにはいかず、SNSを使って指を動かすだけで暴力を行使しようとする心理である。

指で殴るというデジタル暴力

実際に暴力を振るうと法的な罰や社会的な制裁が伴うため、暴力欲求を「指を動かす」という代替的な方法で満たそうとするのは、現代社会における新しい「暴力的心理・欲求」であるといえる。

SNSでの誹謗中傷や攻撃的な発言は、物理的な暴力に比べてリスクが低いと感じられるからである。

対面もないため、共感性の欠如というサイコパス的な行動も容易に行える。

また、「いいね」や「シェア」などインタラクティブな反応があるため、自分は多くの人間に支持されていると勘違いもできる(彼らは松永さんを承認欲求と誹謗中傷していたはずなのだが)。

暴力は徐々にエスカレーションするが、松永さんに対する誹謗中傷を行った人たちもまた暴力をエスカレートさせた人間たちであるといえる。

例えば、ストレスや疲労などで前頭前野の機能が低下したかもしれないし、そうした言動が家庭や社会の中で学習され、習慣化した可能性もある。これを「社会的学習理論」という。

あるいは文化的要因として「インターネットやSNS上の文化」がそれを助長した可能性がある。特にXは、暴言や罵詈雑言が一定状況の中で許容される文化が形成されている。そして似たような考え方を持つユーザー同士が集まり、「エコーチェンバー」を形成する。すると、暴力的なエコーチェンバーの構成員である人物は、日常的に誹謗中傷を行うだろう。

Internet Trollingという概念

実際に海外では、オンライン暴力やデジタル暴力が社会問題となっている。

Internet Trollingとは、インターネット上で意図的に挑発的または攻撃的な発言や行動を行い、他者を怒らせたり混乱させたりする行為を意味する。

この行為を行う人間を「トロール(Troll)」という。

特徴としては

  1. 挑発的・攻撃的な意図

    • 他者を怒らせる、侮辱する、議論を混乱させることが目的。

    • 特定のトピックや人物に対して意図的に刺激的な発言を行う。

  2. 匿名性

    • トローリングは匿名性を利用して実行される。

  3. 自己満足感

    • トロール行為によって、自分が他者に影響を与えている感覚を得ることができる。

  4. 集団的な広がり

    • 一人のトロール行動に触発され、他者が便乗することで集団的なトローリングに発展することもある。

トローリングは、フレイムウォー(Flame War)を誘発する。フレイムウォーとは、インターネット上で行われる激しい言い争いや論争のことを意味する。特定の議論について参加者同士が議論をしている中で、あるユーザーが過激な言葉や侮辱的な表現を使って参加者や議論の対象者を攻撃し、感情の爆発をさせ、罵詈雑言や侮辱の応酬を行わせる。

そのため、個人攻撃や参加者への攻撃が目的化し、本来の議論の本質を見失う。エスカレーションが簡単に起こるので収束が難しいという問題がある。

こうしたトローリングやフレイムウォーが起こる背景としては「認知の歪み」や「承認欲求」、「正義感の暴走」などが挙げられる。

認知の歪みは、誤解や無知によって正しい情報を認識できず、過剰に反応することである。例えば、政治的対立において、政治家のとある発言が本来の意味と異なる意味に捉えられることである。こうした認知の歪みは、ネットだけではなく、テレビや新聞が誘導する場合もある

また前述した「エコーチェンバー」や「フィルターバブル」によって、誤解や無知が拡散され、それが「事実化」してしまう。

承認欲求では、「炎上させることで注目を集めることができる」、「この炎上は自分が中心的な存在として引き起こせたのだ」というはた迷惑な満足感のことである。

私はあえて「主人公症候群」と名付けたい。「指で殴る」人たちは、自分が中心になりたいと考えている可能性が高い。

正義感の暴走は「自分こそが正当性を持つ」とする過剰な自己肯定を意味する。どれだけ「非倫理的」「非道徳的」でも「自分は間違っていない」と考えている人たちは一定数存在する

問題であるのは、こうした「正義の人たち」の敵は自分自身であることに気づかない点である。

君たちは何と闘っているのか?


残念ながら、「指で殴る」人たちは誤解や無知であるケースが多い。その最たる要因には「調べる」という能力や「常識」の欠如が存在する。これらを持ち合わせていれば、殺害予告や誹謗中傷をそもそも行うはずがないからである。

「なぜこのようなことが起きたんだろうか?」

という疑問の答えを解明する際、「指で殴る」人たちは、都合の良い答えしか求めない。自分にとって不都合な事実は見ないようにするという、彼らの嫌う政治家たちと同じ行動をとってしまうのだ。

「指で殴る」人たちは、暴力性を持っている。実際の暴力を振るわないが、「殺害予告」までにエスカレートする。「殺害」を口にできるということは、日常的にそうした暴力衝動が存在するという証左であろう。

家庭環境や社会的地位を問題視することも重要だ。これが解決されない限り、その人の更生は不可能だろう。いくら「反省している」といっても、環境が変わらない限り、反省はしたくてもできないのである。

君たちが闘うべきなのは「画面上の相手」ではなく、「自分自身」であることを自覚するべきだろう。

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七尾えるも
この度はチップをありがとうございました。