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素敵な体調の崩し方〜遠回り〜(サイドストーリー)
今日の仕事帰り、『僕』と約束をしていた。
3日前から楽しみだった。
いや、6日前から楽しみだった。
手と手を重ねた時、顔を見合わせた。
通ったビルの窓に自分の姿が映った。
私の笑顔は固かった。
それに、上がった口角と身体が震えていた。
せっかくお化粧を直したのに、
緊張の方が勝っている。
こんなに心が乱れるなんて…。
ずっと大事な存在だと思っていた。
けれど違った。
自分が思っている以上にずっとずっとずっと…、
大切なのだと分かった。
こんなに自分が別人になってしまうなんて。
この日この時間、特別な気持ちを知った。
今までで一番幸せで、何よりも…生きていた。
全てを身体で感じていた。
想っている証拠。
新しく頬に乗せた紅も。
そんな自分が愛おしい。
彼のことを大切な自分が愛おしくてしょうがない。
駅が視界に入ってきた。
時間にすると、あと3分あるかどうか…。
もう少し一緒にいたい。
彼のベールに包まれたこの時間。
まだまだ、この先もずっと、包まれていたい。
「少し遠回りしちゃダメですか?」
聞こえてしまいそうな鼓動と闘いながら問いかけた。
「いいけど時間、大丈夫?」
幸せだった。
「大丈夫です、あの…腕を掴んでも良いですか?」
少しでも近づきたくて。
上手く呼吸ができないほど、緊張した。
「いいけど…手を繋ぐよりそっちが良いの?」
そう言って左腕を出し空間をつくってくれた。
私の右腕が入る空間を。
「緊張しちゃって。腕を掴んでないと心配で」
私は肩に近いところに手を預けた。
もっと緊張した。
きっと世界一幸せだった。
「ずっと震えているよね、大丈夫?」
ドキッとした。
彼が見てない隙に手を胸に当てた。
左側を歩いていて良かった。
呼吸の速さもどうにか誤魔化したい。
後ろから見た時に線対象のようになっていたら、幸せ。
決して叶わないこの気持ちを、いつまで胸に閉まっておけば良いのだろう。
苦しくて、でも楽しくて。
切なくて、泣きたかった。
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