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書くことは、思い出からの卒業。

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2017年12月の記事一覧

べっこう飴の色うつり

「子どもができたんだ。」 小説が好きな彼女の口から紡がれた言葉だったから、私は一瞬小説に出てくるヒロインの親友Aになった気分でいた。深呼吸をして現実に戻ると、彼女は変わらない顔で続けた。 「おろすの、間に合うって言われた。でも、産もうと思うの。」 命が宿ったことを知ったとき、それ以外の選択肢はなかったらしい。キラキラしているのにどこか据わっている目の奥には、いつもに増して彼女の強い意志がみえた。 そっか、よかったね。いいと思う、おめでとう。 私たちの会話にネガティブ

愛情なんていうベールは、もう脱ぎ捨ててしまおう。

「知らなかった?」 友人と食事中、私の元彼が “変わってしまった” と聞いた。変化、それは私にとって何よりも肯定的な言葉だったから、彼のその変化を聞いてどうしても悲しくなってしまった。 知らなかった。 彼への愛情が特別だと知っている周りの友人は、私に気を遣ってなにも言わなかったのかもしれない。きっと、言えなかったのだと思う。 彼の何が好きだったか、と聞かれると困る。強いていうとすれば彼の発する生活音と、ふるまい。自ら離れたあともその存在を心のどこかで探していたのは、彼の