Nana

趣味は鑑賞。余白と、行間。

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  • 宛名のない手紙

  • 書くことは、思い出からの卒業。

  • 世の中は、甘いものでできている。

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絶対的余白戦争

桜は4月を忘れたりしない。そしてここが、なにかしらかの節目であることを絶対的使命として悲しくも嬉しくもそれを知らせる。一言だけ言いたい。4月、ちょっと花粉がひどすぎる。 久しぶりにデパ地下でお惣菜を買った。閉店間際のショーケースに貼られた値引シールが贅沢を許す免罪符のようで嬉しかった。値段を見ずに好きなものを選んだら、ほとんどが変わったサラダだった。よくがんばったな、と簡単に自分を褒められる贅沢はすごい。今日もごはんはおいしい。 この1年はこれまでで1番意味不明で、軽い言

    • 少しずつ、落ちた葉が増えていく。昨日は5枚だったのに、今日は7枚も無意識に踏んでカサッと音が鳴る。秋はもうすぐそこで、彼はもう終わる。 体育館に響くドリブルの音が好きだった。ランダムに流れるバッシュの音が心地よくて、その音の正体に気づいた時にはもう手遅れだった。そのあとの記憶はもうほとんどない。5年後、「きみはいつも正しい。だから敵わなくてつらいんだ」と言われたあの日から何年経っても、ずっと分からないままでいる。かっこいいと思うことを無意識にできることこそ大人なのだと真剣に

      • 立てば夏

        すらりと伸びた、まっすぐな芍薬を見納め、あっという間に甘ったるい暑さが訪れる。家の前の校門、朝から飛び交う挨拶の声が聞こえなくなって夏休みを知る。都会は忙しないというが、日常は探せばちゃんと見つかる。プールに出かけるらしい子どもたちが駆け回り、後ろ姿にそっと手を振る。現実逃避した先で気持ちが涼しくなる頃、災害が各地で忘れ去られる前に、忘れるなと言わんばかりに警鐘を鳴らし、現実に戻る。それにしても、暑すぎる。 先日、とあるライブに足を運んだ。彼らの曲は1曲しか知らず、疲れて

        • 前髪

          帰り道、コンビニのアイスを片手に歩く夜ほど最高なものはない。賑やかな東京の夜、わたしたちが平成だと思っていた風景はただの解像度だったねと笑い、この時代にハンディカムをまわしたりデジカメで撮ったりしてあそんでいる。いまだに、ずっとそういうあそびをしている。はしゃいでアイスが溶けて、ハンディカムにかかりそうでもっと笑ってしまった。 もう何年まえのことだろう、 猿楽町下り、夕日が眩しい店の店内。コーヒーを片手に「きみはなんにでもなれるよ」と言った。本当に何気なく、多分何の意図もな

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        絶対的余白戦争

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          2023

          東京の夜は短い。誰かが気合いで乗り切れると信じて疑わないそれらは幻で、誰かが喉から手が出るほど欲しいものは普通に転がっている。それが東京なのだ、ということを痛感した。マジョリティだと思っていたものは全然マジョリティではなくて、マイノリティだと認識していたいくつかはマジョリティだった。多分それは、なにを切り取ってもそうなんだと思う。 高校生の頃に集め始めたスタバのカードは100枚を超え、1年かけて味噌をつくるようになって数年が経った。時間軸を伸ばして、毎日じゃないけれど「なん

          Paris

          歴史の授業以外で初めてフランスという国を意識したのは高校生の頃だった。ミッドナイト・イン・パリという映画を観たことと、Phoenixというバンドに出会ったことだった。 ちなみに、大人になって見返した時に「あれ、いい映画だな…」と思ったものの、初めてミッドナイト・イン・パリを観た時は「なんだこの退屈な映画は」と思った(今でこそああいう作品は好きだが17歳には早かった) パリの地下鉄は最悪で、なぜか乗った後降ろされた(多分何かの不良だった、フランス語のアナウンスなのでわからな

          好奇心を着た日

          この夏は、随分と上手(うわて)だった。そろそろ期限が切れてきたか、夜の涼しさを手に入れて意気揚々と歩いて帰ったら、案の定汗は止まらなかった。ちょっと敵わない。 一番わくわくする汗をかいたのは、高校の夏。修学旅行で中国に行ったわたしたちは(旅先が選択式だった、今思えば公立にしては随分自由だ)定番観光ルートをまわり、とある観光ストリートへと行き着いた。 修学旅行の自由時間にはいくつか決まりが課せられる。ひとつは集合時間を厳守すること、ふたつめはルールを破らないこと。そこでの

          好奇心を着た日

          拡張

          ミニシアターの小さな入り口で、いくつもパンフレットを取って眺めた。よく知らない演者が、何かを表現している。その「よくわからないもの」と対峙する感覚だけで充分だった。ビデオショップで100円レンタルを何度も繰り返した田舎の高校生あがりの上京なんて、それぐらいの変化で十分なほどに新鮮である。 「しぶといんだよなあ、この街」 いつも行っていた喫茶店のカウンターで、職人のおじさんがつぶやいたその一言がすべてだと、今では思う。人口150万人にも満たないこの小さな都市にこれだけミニシア

          オーディションの正体

          1996年に誕生したたまごっちは、手のひらに収まるサイズにも関わらず人々の注目の的であり、ちいさな宇宙だった。卵から生まれたこども、のようなものを手の中で育成するそれらはフンをする、放置すると死んでしまうなどのリアルな設定で、わたしたち自身が「育てている」という感覚をつくりだしていた。その後派生したデジタルモンスターもいまだに現役であることからみて、とにかく「育成ゲーム」というものに無意識的に触れる環境下であることはおそらく間違いない。 村上龍による「オーディション」では、

          オーディションの正体

          2022

          文章を書くことを始めたのはいつだったか、もう覚えていない。小学生の頃にはすでに新聞の投書欄的なところに文章を送って、掲載されるともらえる図書カードを持って本屋に行くのが好きだった。本名で載る欄に出すようになってから、当時の彼の母親が「載ってるね」と気付いてくれていたらしい。恥ずかしかったけど、嬉しかった。 ずっと、どうして「書くこと」が好きなのかを明確にしてこなかった。グレーなままの方がずっと好きでいられる。わからないものも、そのまま持っておく強さも存在するからこそ。でも、そ

          退屈恐怖症

           マジックバーというものに足を運んだ先日。どこかでみたことあるようなフォークを曲げる王道のそれや、気づいたらトランプが2枚両面くっついている事態に、普通に驚いたし歓声が止まらなかった。アルコールも相まってまわりの驚きも最高潮だったし、タネがあるに違いないという事実なんてどうでも良くなるぐらい笑った。あの夜は、最高だった。 — エンターテイメントの正体は一体何者か。物心ついた頃から、多分人よりも少しちかいところにエンタメというものがあった気がする。幼い頃、連れられた運動競

          退屈恐怖症

          僕たちが諦めきれない「ヒーロー」について話そうと思う

          そのとき歴史は動いた、と彼女はTシャツの裏に堂々と記した。真っ赤なそれに記された白は誰がみてもまっすぐで、眩しかったに違いない。ヒーローについてわたしが書いたことをふと思い出して、懐かしくなった。 よく言うけれど、大人になってからの日常というのはわりとうまくできていて、まわりの平均値が「自分」になっている。わりとよく、そう思う。だからわたしにとって芸術に触れることはすべての自分の壁を壊すための破壊活動ともいえるし、チャレンジとも言える。だから、わざわざ知らないところを覗いて

          僕たちが諦めきれない「ヒーロー」について話そうと思う

          きみの赤色

          B7のエスカレーターをのぼる。綺麗だった、としか言いようがない。いちばん叶えたくて、いちばん叶ってほしくないことだった。寒さが明け始めた頃、夕方の真風が体温をちょうど下げてくれる。当たり前に前に立ったし、後ろを歩いた。地図アプリを開かなくて済むから、携帯の電池なんか要らなかった。何の話をしていたんだろう。気づいた時には夕日が髪の毛を綺麗に茶色に染めて、わたしの巻いてあげた髪が可愛くてつい手を伸ばしていたし、あの頃にはすでに白シャツが好きだった。あの出口を、わたしはいまだに避け

          きみの赤色

          読書という保険

          不安を理由に決断をしない。本に学んで今でも覚えていることなんて、これくらいのこと。読書に意味はあるのか……という会話を何度も聞く。本に救われた人もいるだろうし、読むことを諦めてしまった人がいることも知っている。日常にない気持ちを味わえたり、誰かの考えに触れることの必要性だったり……分かる、それもいいよね。けれど、思い返せば読書に意味を見出すとすれば「必要な時に助けてくれる“かもしれない”もの」である。貯金に近い気もする。誰かが「読書は平面の知識の積み重ねだ」と言っていたし。つ

          読書という保険

          絶対値

          まだ暑い京都で、半袖を当たり前のように着る今年の10月は曖昧すぎる。そんな中、買った方がはやいキムチを、わざわざ自分の手で一から漬けている。一週間かけて育てながら食べ尽くして、それを繰り返す。やらなくていいことを、わざわざ一からやる癖は年々ひどくなる。これが歳をとるということかもしれないし、そうだといいなんて呑気なことを、たまに考えている。 ハロウィンの化かし化かされには興味がなかったけれど、お化け屋敷が好きだった。怖さがないというよりは、不意打ちのそれが好きだ。予想できな

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          葡萄狩り

          暑さにやられて堕落しきった夏の、冷房の効いた部屋。ソファで横になったまま、ギリギリ届くテーブルに置かれた果実に手を伸ばす。模擬果実狩りだと言い訳しながら、長期休暇気分の25の夏。 食べることが好きな母と妹と、例に漏れず食いしん坊に育った私。夕食の後は決まって「デザート!」と妹か私のどちらかが口を開く。文句を言いながらも用意してくれた果実を手に、1番嬉しそうなのは間違いなく母だった。桃が1番ずるい。包丁で綺麗に整えられて、皿には雑多に乗せられたそれらを台所から現れた母は片手に

          葡萄狩り