『ボーダー 二つの世界』
アリ・アッバシ監督、2018年のカンヌ映画祭「ある視点部門」で大賞を受賞したスウェーデンを舞台にした作品。なんの前知識なしに観てみると、全く予想外の展開で、しばらく呆然としました。鑑賞される場合はネタバレなしで味わってほしい、ただし万人向けとは言いにくい作品です。
あらすじ
スウェーデンの税関に勤めるティーナは、人の心の匂いを嗅ぎわけることができる不思議な力を持っていた。醜い容姿のせいか人との関わりが少なく孤独な生活を送っていた彼女。しかしある日彼女の前に自分と似た容姿を持ったヴォーレが現れたことで人生が大きく揺さぶられ、やがて衝撃の真実を知ることになる...
うっ、と目をそらしたくなる場面もあって、そんなときに、こういうシーンに対して無意識に既成の”美しさ”みたいなものを求めてしまっている自分に気づかされるとともに、自分は意外と見た目で人を判断するし、差別的な人間なんだと胸を突かれます。
海外に住んでる外国人として自分のことを少数派と認知し、居心地の良い位置に身を置いて安心してしまっていたかもしれません。
主人公ふたりのデフォルメされた外観は、見た目で人を判断するかどうか問うだけでなく、外見が醜い人は実は心はピュア、みたいなステレオタイプをも無意識的に期待している自分に気づかされカウンターパンチを受けます。醜い人を疑うのは、外見で判断していると思われるんじゃないか、見た目で判断しちゃいけない、と思ってバイアスがかかることで逆に真っ直ぐに判断することができなくなってしまいます。
リトマス試験紙とか踏み絵のような作品で、居心地は良くないし、ちょっと試されているような気分になりますが、社会の中で強要されている様々な”ボーダー”や、マイノリティに関心のある人は観て損のない作品だと思います。ただし生理的に受け付けないという人がいても不思議ではない表現が多々あり、誰にでもおすすめできる映画ではありません。ただ観てしまうと、好きじゃなくても見逃してはいけないような、なんとも言い難い後味が残ります。