連載小説「オボステルラ」 【第三章】2話「ツマルタの街にて」(1)
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2話 ツマルタの街にて(1)
「わ、灰色の街だ…」
ゴナンはその街の景色を見て、思わずそう呟いた。
ストネの街を出て4日目の午後、道中、巨大鳥の姿を見つけることはかなわなかったが、ついに目的地・ツマルタの街に着いた。
工業と職人の街、ツマルタ。全体的に石造りの建物が多く、装飾や色気とは無縁の景色が広がる。つい先日まで滞在していたストネの街の飲み屋街とは真逆の雰囲気だ。遠くには煙突から上がる煙も多く見え、心なしか空気もかすんでいるように感じる。
「この街は、東側に職人の工房やお店が集まっていて、西側には少し大きな工場がいくつもあるんだ。街の西に少し大きな川が流れているからね。工場はキレイな水を多く使うから。この街だけでも、いろんなものが作られてるんだよ。南側には、住宅街が広がっているね」
リカルドがゴナンに、街の概要をざっくりと伝える。
一行が今居るのは東側のお店エリアで、宿屋や飲食店も、このエリアにある。宿場町だったストネより店舗数は少ないものの、工房や工場との取引などで訪問する客も多いので、そこそこにぎわっている。
「ひとまず、宿屋に入りたいわね。もうベッドが恋しいわ」
ナイフはそう言って宿屋を探し始めた。
「あ、僕は自分の拠点で寝るから大丈夫だよ。3人は宿を取りなよ。馬は、宿の方に預けてもらえると助かるな」
「ええ、分かったわ。……ん? 3人?」
リカルドの言葉に、ナイフが首を傾げる。人数が合わない。
「…ちょっと。この街のあなたの拠点って、確か一人暮らし用の小さな小屋だったわよね。そこでもゴナンと一緒に寝る気?」
「えっ?もちろんそうだよ。小屋は大きくはないけど、ベッドは『フローラ』にあったのと同じくらい大きくてふかふかだよ。キングサイズだよ」
「そうなんだ。大きいベッド、いいね」
自慢気にゴナンに話すリカルド。ナイフは頭を抱え、ゴナンをリカルドから引き離した。
「ちょっと、リカルド。だからあなた、ゴナンとの距離感がおかしいのよ」
「えっ、そうかな?」
「ゴナン、うっとうしいなら正直に言いなさいよ。我慢しなくていいからね」
ナイフはゴナンの両肩に手を置き、言い聞かせるように語りかけた。ゴナンは少しだけ考える。
「でも、俺の分の宿代がもったいないから、リカルドの家で寝るよ」
「…、あ、そう…」
相変わらずゴナンの反応はあっさりしたものだ。ゴナンがそれで良いというのなら、まあ、良いのだが…。
「宿屋街から僕の拠点は徒歩で10分くらいで近くだから、そう不便もないと思うよ。ナイフちゃんは場所知ってたよね、宿が決まったら教えてね。またあとで合流して晩ごはんを食べよう」
リカルドはそうニコニコして3人に手を振り、馬から自分とゴナンの荷物だけを降ろして歩いて行く。呆れた顔で見送るナイフ。そうして、ミリアとエレーネの方に向いた。
「…というわけで、私達で宿ですって。この街はあまり選択肢がないから、もうそこらの宿に決めてしまいましょう」
「宿屋、初めて泊まるわ。ナイフちゃんのお店のお部屋とどう違うのかしら」
ミリアはミリアで、少しずれた感じでワクワクしている。ナイフはエレーネと顔を見合わせて苦笑いをし、宿屋探しへと歩みを進めた。
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「あ、僕の拠点の手前に市場があるから、先に獲物を売ろうか。新鮮なうちがいいよね」
リカルドの拠点へと行く道中、リカルドはゴナンにそう提案した。
今日の午前中、街の近くでまたウサギを4羽仕留めたゴナン。しめて血抜きしたウサギを木の枝につるし、ゴナンが抱えていた。
「本当にこれが売れるの?」
「うん、時間があれば皮だけ外して別で売ってもよかったけど、今日はひとまず丸ごと…」
そう言って、リカルドは食堂街の奥にある市場へと向かう。小さな市場だが活気がある雰囲気。食べ盛りの職人たちの胃袋を支える食材が豊富にそろっているのだ。そのうちの1軒に声をかけた。
「こんにちは、ご主人。ここ、食材の買い取りしてくれたよね」
「お、兄ちゃん。久しぶりだなあ。随分顔を見せないから、どこかでくたばってるのかと思ったぜ」
リカルドの顔を見てそう声をかけて来た、店の主人。リカルドの馴染みの店のようだ。
石造りの店内に入ると、肉類を中心にズラリと食材が並んでいる。
「食べ物がたくさん…」
「ここは特に、食材の品質にこだわってるお店なんだよ。安くはないけど美味しくて安心だから、僕もツマルタに滞在するときは、よく利用するんだ」
リカルドはニッコリ笑って、ゴナンからウサギ肉を受け取って主人に渡した。
「今日獲ったばかりだよ。この子がさばいて血抜きまでしてる。これを売りたいんだけど」
「へえ、上手なもんだな。確かに新鮮だし、内臓がキレイに外されている。これは罠猟か?」
「うん。獣道を探して、くくり罠に追い込んで…」
「獣道ってのは、どうやって見つけるんだ?」
「どうやって…? うーん。見れば分かる、というか…」
主人はウサギ肉の状態をじっくり見ながら、ゴナンに尋ねる。猟の方法を話すゴナンも、相変わらず表情は変わらないが、目の輝きが違う。
「なるほどなあ。弓矢や刃物で仕留めるとどうしても傷やストレスで肉が痛むし、腸が傷ついたりしたら後処理も大変だしな。これは手際よく処理されてるから状態もいい。お前さん、うちの専属にならないか? 他の店には渡したくねえなあ」
「ご主人。褒めてくれるのは嬉しいけど、僕らは旅をしてるんだよ。専属は困るよ」
苦笑いしながらもリカルドは嬉しそうだ。ゴナンも、少し照れくさそうにしている。
「あ、ゴナン、干し肉も出したら。あと薬草も」
「…うん…。でも、あんなの、売れるのかな…?」
「売れなかったら持って帰ればいいだけだから、ほら」
リカルドが妙に嬉しそうにゴナンを促す。その様子を見て店の主人は、少し驚いたような表情でリカルドを見ていた。
「なんだか、お前さん、少し雰囲気が変わったなあ」
「ん? そう?」
「ああ、うさん臭さが薄くなった」
「えっ、僕、うさん臭いって思われてた?」
「坊主、ゴナンといったか? リカルドさんを可愛がってやんな。なんだかお前達、良い雰囲気だよ」
主人はゴナンにニコリと笑いかける。
「…うん。でも、可愛がってもらってるのは俺の方だよ」
「そうか? まあ、どっちでもいいさ」
そう言って主人は、ゴナンが差し出した干し肉を吟味し始めた。
↓次の話↓
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