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連載小説「オボステルラ」 【第二章】7話「新しい日々」3


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第二章の登場人物



 その日の夜。
今夜も、女装バー「フローラ」の看板に明かりが灯った。

「ね、鳥と卵の研究って、何をどうしらべてんの?」

「フローラ」のラウンジのソファ席には、リカルドが陣取っていた。隣には、今日も化粧を施されたゴナン。もう接客はしないでいいと言ったのに、「ナイフちゃんに恩返しをする」の一点張りでどうしてもラウンジに出ると聞かないものだから、仕方なく今日もリカルドが指名している。

 そうすると、街で大量に買い物をしてきたリカルドの姿を見てお金持ちの匂いを嗅ぎつけたヒマワリが、ロベリアも引っ張ってきて指名するよう強要してきた。何となく断りづらく、結局3人セットでリカルドが指名する羽目に。カウンター奥では、指名料を稼げたナイフがホクホクしているようだが…。

「巨大鳥と卵の研究に興味があるの? 僕は何時間でも話せるよ」

ヒマワリにそう、穏やかに微笑みながら語りかけるリカルド。えー、とヒマワリは舌を出す。


「…それは結構デス。1分にまとめてよ。ていうか、やっぱりいいや、お酒作るね」


 聞くには聞いたが、あまり興味がなかったようである。すぐにお酒を作りに逃げ出してしまった。

「ゴナン、ゴナンはお酒飲んじゃダメだよ。飲酒ができるのは、法律で18歳からと決まっているから」
接客をしているのはどっちやら、ゴナンの世話を焼くリカルド。ゴナンも無言で頷く。

と、その言葉に、「ん?」とロベリアが反応した。今日は黒髪のロングヘアのかつらをつけて真っ赤なドレスに身に纏っている。昼間見た時より表情がいきいきしている様子だ。本当に女装が好きらしい。

「あれ、デイジーちゃん、18歳じゃないの?」
「ゴナンは15歳だよ、ね」
ゴナンが無言で頷く。
「…そうか。だよね。18歳にしては体が小さいなと…、あ、いや、細いなと」
小さいと言われて、ちょっとシュンとするゴナン。

「でも確か、この国では、18歳未満の子が夜のお店の接客に出るの、法律で禁止だったような…」

「……! ナイフちゃん!」

 リカルドは立ち上がって、カウンターの方にいるナイフに詰め寄った。

「そうだよ、僕もうっかりしてたけど! ゴナンを接客から外してよね」

「えー、デイジーちゃん、18歳だと思ってター」

ナイフは棒読みでとぼける。その会話を聞いて、ゴナンが慌ててリカルドの方に駆け寄ってきた。

「リカルドさん、いいんだよ。俺、恩返ししないといけないから、トップを取るから」

「ゴナン、別にこのラウンジでトップを取らなくても恩返しする方法は、いくらでもあるから、ね! 法律は守ろう! あの村では、王国の法律も何もなかったとは思うけど…」

声を荒げ、焦った顔でゴナンを説得するリカルド。こんなにリカルドが表情豊かになるのも、声を荒げるのも、とにかく珍しいのだ。ニヤニヤするナイフに、「ナイフちゃん!」とリカルドは念を押す。

 と、そのとき。

お店にグループ客が入ってきた。ナイフがすぐ対応する。
「いらっしゃい」
「4人だ、ラウンジ席がいい。空いてるかな?」
「ええ、今日はゆっくりしていたから、お席は十分にあるわよ」
ナイフが奥へと案内する。全員、30~40代に見える、どこか物々しい雰囲気を身に纏った男性のグループだ。

「申し訳ないけど、武器はこちらで預からせてもらうわね」

「ああ、そうだな。失礼した」

そう言って男達は、腰に下げていた剣をガチャガチャと外した。「お預かりします」とゴナンがそれらを受け取る。装いも重装備で、防具のようなものを身に付けているように見える。飲みに来たにしては、皆、表情も重苦しい。
すると、その内の一人の男性が、ゴナンに目を留める。

「なんだ、可愛い子がいるんだね。俺、この子について欲しいな。名前は?」

「デイジー、です…」

「今、空いてる? この子指名していいかな?」

ちらっとナイフを見上げるゴナン。が、リカルドがゴナンの横に立って、ゴナンの肩をギュッと掴んだ。

「悪いね、先約済みだよ。今日一晩押さえちゃってる。大枚はたいてね。お気に入りの子なんだ」

いつもの穏やかで少し冷たい微笑みに、表情が戻っている。

「おい、誰でもいいだろう。早くするんだ」
別の男からいらだたしげに言われ、その男性は少しガッカリしたようにラウンジの方へと駆けていった。ほっと安心するリカルド。

「…ナイフちゃん、随分、いかつい面々だけど、常連さん?」
「いえ、初めて見る顔だと思うけど…。あの威圧的な感じは、多分、エルラン帝国からのお客さんね。私も付くけど、ああいう手合いにはロベリアちゃんかヒマワリちゃんが上手なのよね…。どっちか、借りていいかしら?」
「ああ、僕にはゴナンさえついててくれていれば、全然、何の問題もないよ」
ニッコリ笑うリカルド。その手はゴナンの肩をギュッと掴んで離さない。ナイフは肩をすくめて、ラウンジの方に目をやった。

「ええと、ロベリアちゃん…」

…が、ロベリアは、顔を隠すようにロングヘアの髪を下ろして、ソファに隠れるように腰掛けて俯いてしまっている。

「……。ヒマワリちゃんにしようかしら。あの子、どこ行ったの?」
「さっき、お酒を作るって席を立ったけど」
「…またサボっているわね…。ヒマワリちゃん!仕事よ、ヘルプ!」
ナイフは怒りながらヒマワリを探しに行った。

↓次の話


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