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連載小説「オボステルラ」 【第三章】1話「旅は穏やかに」(3)


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第三章の登場人物



 翌朝。やはりナイフの予想通りになった。

「ちょっと、ゴナン、まだやってたの? 今日はもう止めておきなさい!」

 少し早めに起きてナイフに筋肉の鍛錬方法を教えてもらったゴナン。ナイフはひとまず腹筋、背筋、腕立て、スクワットなどの基本的なトレーニングを教え、回数を指示してそのまま朝食の準備にかかっていた。

が、目を離した隙に、明らかに指示した回数以上にやっている。ナイフは慌ててゴナンを止める。

「最初から追い込みすぎると、続かないわよ。ほら、今日はもうおしまい」

「でも、まだできるよ。それに今日はまだ剣を振ってない…」

「だーめ!」

 服を脱いだ上半身には大量の汗。ゼイゼイ言いながらもまだ続けようとするゴナンを、ナイフは止める。リカルドが見ているからと安心していたのだが…。

「リカルド、あなたも止めなさいよ。何を見てたの?」

「ごめん、ゴナンの頑張っている姿がまぶしいなと思って、つい見とれちゃって。そうだよね、やりすぎだったよね」

少し戸惑ったような笑顔で答えるリカルド。

「…あなたも一緒に鍛錬して、その緩ーい心根をたたき直したらどうかしら。ほら、ゴナン、あっちの川で水浴びてらっしゃい。汗流して服着て、朝ご飯よ。食べ物が筋肉と骨になるのだから、たくさん食べなさいよ。……あら、ミリア、何やってるの?」

 ゴナンを川へ引っ張って行こうとすると、今度はテントの方に顔を向けるナイフ。朝食を準備していたはずが、なぜか焚き火の炎が轟々と背丈よりも高く上がっているのをミリアが眺めている。

「え? 何をどうすれば、こうなるの?」

「ごめんなさい。お手伝いをしようとしたら、なぜか火がとても強くなってしまったの」

「ちょ、食材は……」




 準備していた朝食が消し炭になったかもしれないと慌てたが、そこはエレーネがすんでのところで火から外してくれていたようだった。ホッとするナイフ。

「少し放っておけば火はおさまるわ。何もしなくて大丈夫だから。危ないから離れて」

「ごめんなさい、ナイフちゃん…。わたくしのせいで……」

「…普通の人は火を起こすのに苦労するのに、逆に火を大きく起こすなんて、なかなかの王女様、の影武者、ね」

 落ち込みかけるミリアにそう声をかけるナイフ。

現在「家出中」王女であるミリアは、一応、影武者を装っている(あまり意味はないのだが)。

自分が周りに不幸をまき散らす「不運の星」の元に生まれ、国を傾ける恐れすらあると思い込んでいるが、その不幸は些細なもので、一行は誰も信じていない。

そもそも、運不運なんてしょせん、ほとんどが思い込みだし、この旅でもたいしたことは起こっていないのだ。それでも、ことあるごとにすぐに自身の「不運の星」を嘆いてしまうミリアを、リカルドとナイフはその度に否定している。

ただ、確かに、ミリアがやや“引きの悪さ”を持ち合わせていることは認めるが…。

 ミリアを離れさせて焚き火から薪を外し、火を弱めようとしているナイフ。と、すぐにまたゴナンの方に目を向ける。

「…ちょっと、ゴナン! 剣を振ってはダメっていったでしょ。もう汗を流してらっしゃい! その前に筋をしっかり伸ばしてね。体が固まってケガをしてしまうから。リカルドも止めてっていったでしょう!何ニコニコ見守ってるのよ」

ナイフにそう叫ばれて、ゴナンとリカルドはびくりと体を震わせ、渋々剣を収めているようだ。そして、朝から慌ただしいナイフの様子を、エレーネがまじまじと見つめている。

「……どうしたの? エレーネ」
「あ、いえ…」

そう言いながら、ふふっと笑いをこぼすエレーネ。

「何よ…」

「…まだ、出発して2日だけど、この一行にナイフがいなかったらどうなっているのかしらと考えると、ちょっと面白くなって…」

「……」

ナイフは眉をひそめた。生来の面倒見の良い気質もあるが、それ以上にこのメンバーは何かと手がかかる。ナイフははあ、とため息をついた。

「まあ私も、今までは随分長く夜の世界に居たから、こういう爽やかなのも新鮮で面白くはあるけど、なんだかため息も増えたし、眉間のシワも増えそうよ」

「そうね、ふふっ…」

まだこらえきれない笑いを浮かべながら、エレーネも薪の始末を手伝ってくれる。なぜかミリアの「お付き」な感じで同行してくれる美女、エレーネ。剣の腕も立つようだし、とても精神が安定した頼もしい女性ではあるのだが…。

「…やっぱりあなたも、少し浮世離れしているわよね?」
「あら、そうかしら?」
「お貴族様の世界って、よくわからないわ」

家名は明かさないものの、外国の高貴な家の出だというエレーネ。旅人歴が長いのか世慣れした常識人ではあるのだが、どこか掴みにくい雰囲気もある。よくもまあこんな面々が集まったものだと、ナイフはしみじみ感じていた。自分も含めて、ではあるが。

 このような感じで、一行の旅はとても穏やかに始まっていた、のだが…。


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